崩れ出す平穏
この日、大陸中にその通達は駆け巡った。
魔王国側から一方的に世界不戦条約の破棄が明言されたのである。
これを受けて大陸の一部の国や町の代表者たちは、対策協議のためシュベルト王国へ向かう準備をしていた。
この世界は魔族も他の種族と同じように共生しているものの、さすがに今回の件で各種族に動揺が広がっている。
「非常に残念な結果となってしまいましたが、大きな混乱は起こらないと私は予想しております。国王様も同意見では御座いませんか?」
シュベルト王国宰相、グリアスの言である。
「うむ。多種族共生国家ヴァルハイトへ送った使者が持ち帰った書状を見る限り、魔族すべてが敵になるような事態はまず起きんだろう」
「ヴァルハイトは100年戦争後に初めて多種族共生を目的として建国された国。しかも統治者の1人は先代魔王に仕えた前四天王の1人ですからな」
「だが安心はできぬ。周辺国、近隣の町や村から使者が向かって来ていると報告もある。受け入れ準備を怠るなよ」
シュベルト王国国王、レイジスの眼に油断の色は無かった。
一方、魔王国では四天王同士の意見がぶつかり合っていた。
「ザガン!!何故なのダヨ!?独断で不戦条約の破棄を決め大陸中に通達スルなんて!これは許されないコトなのダヨ!」
「うるさいぞネビロス!それよりも何故だ!?ナゼ大陸中の魔族達は呼応せんのだ!ナゼ昔のように暴れださんのダ!?」
魔王国四天王の2人が言い争うなか、同じく四天王のリリスが割って入る。
「ザガン、どうしてこんなコトを?条約は先代魔王様が関わっているコトは貴方も知っているはずヨ?その条約を破棄スルなんて……世界中ノ魔族にとって私たち四天王の言葉に大した力なんてないワ」
「リリス……お前マデ……」
ザガンは音が出るほど歯を食いしばり、まるで仇を見るように目が血走っている。
「……モウお前達には頼らん……俺は直属ノ部下たちと共に城を出る!人族を……魔族以外の者たちを……皆殺しにシテやる……」
部屋から立ち去ってしまうザガンを尻目に、ネビロスとリリスは激しく動揺していた。
普段から粗暴なザガンではあったが、ここまで変貌する姿を見るのは初めてのことであり、特にリリスの言葉すら届かないなんて事はネビロスにとって有り得ない事だったのだ。
魔王城の別室ではザガンが部下を集めていた。
「イイかお前達。魔王様はすでに死んだと思え。コレからは俺の命令ダケが絶対であり、魔族以外の者たちは全て消せ!」
ザガン直属の部下は数は多くないが凶暴な魔族ばかりだ。
誰も今回の命令に異を唱える者はいない。
とにかく戦闘を生き甲斐にしているような集団で、魔物相手ばかりの日々に飽き飽きしていたのだ。
「魔王様ノ妹が大陸のドコかにいる。同じ魔族ではアルが……見つけ次第……消せ」
ザガン達の会話に聞き耳を立てていた女性が慌ててその場を離れる。
魔王の妹、ラウのお世話をしていたメイドの1人だ。
「ドウして……ドウしてラウ様がお命ヲ……」
涙を浮かべ転びそうになりながら走る。
目的の扉を開け放つとラウのためだけに仕える他のメイド4人の姿があった。
息の上がっているメイドを見て、全員が駆け寄ってくる。
こんなに焦って一体どうしたのかと、みんなから説明を求められた。
「ラウ様が……ラウ様が狙われてるノ!!」
驚く他のメイド達に先程のことを説明する。
「ザガン様……一体ナゼ……」
「如何に四天王ノ1人とはいえ、ラウ様のお命を奪うナンテ誰にも許されないコト!」
「皆イイわね?私たちノ取る行動は1つのみヨ」
一様に頷くメイド達。
魔王国でもそれぞれの思惑、それぞれの動きが加速していく。
ユウマたち一行はまだ世界不戦条約の破棄を知らずに旅を続けていた。
「へ~ククルって他の神器の反応を感じ取ることが出来るのか!」
《このまま西へ向かった先に反応を感じます》
先代魔王から譲り受けた神器、創造の指輪ククルはあまり広範囲ではないものの、他の神器の在り処を感じ取ることが出来るようだ。
「それにしてもユウマぁ。ユウマはどうシテ神器を見つけたいノ?」
ルルを頭に乗せながらご機嫌のラウが質問する。
しかしどうしてと問われると若干困るな。
転生の時に神様に頼まれてなんて説明してもあれだし……うーむ……
「とっても偉い人にお願いされたから……かな。まぁどんな神器があるのか気になるし、今はラウのお兄さんを見つける手立てになるかもしれないしね!」
「兄様……あれ?そういえばソノ指輪にはどんなチカラがあるの?」
たしかに!!!!
言われてみるとククルの力の詳細……だけじゃなく、首に掛けた天光の勾玉についても何も知らないままだw
「ククルって一体どんな能力があるのかな?」
《0を1にする力です》
……
…………
?????
《無から有を生み出す能力です》
……
…………
うん、まぁ……創造の指輪っていうぐらいだしな……でもフワッとした答えすぎて解らん……
《今のユウマには私の力を解放する魔力はまだありません》
なるほどw
それなら気にしてても仕方ないか。
天光の勾玉についてもククルは知らないようだ。
「たぶんラウが求めるような能力じゃないと思う」
「なーんだ!ザンネン。あ!見て見て!町が見えてキタよ!」
ユウマ達の目線の先に、トレーネの町が見えてきた。
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