バケモノとバケモノ

ユウマたちの背後に巨大な影が立っている。


一気に前方に走って逃げるか?それとも振り向きざまに魔法を叩き込むか?


答えはどちらもNOだ……


逃げても一瞬で追い付かれるだろうし、魔法で攻撃しようにも魔力を込めた瞬間にこちらが瞬殺されて終わりだろう……


正直、自分の能力にはかなり自信があった。


神様からチートスキルを2つも授かって、そんな俺なら何があってもなんとかなるだろうと本気で信じてた……この時までは。


だけどだ!出会ったばかりとはいえラウ、そして大切な家族であるルルはこの場から逃がしてみせる!


そんな決意を胸に一気に後方へ全身で振り向く!


ユウマたちの目の前には巨大な熊型の魔物が静かに立っていた。


初めて見る魔物だ。


デカい……そしてなんだコイツの爪……まるで刃物が生えてるようじゃないか。


それにしても何かがおかしい……



「な、な、な、ナニよこれーー!?ソードベアまでこの山にはイルのーー!?」



他の魔物に気づかれるかもしれないってのに大声で叫ぶラウ。


コイツはソードベアっていうのか。



「むぅ、ナンじゃ懐かしい声がスルのぅ」



!?


このソードベアってのは魔物なのに俺たちの言葉を理解し、且つ喋れるってのか!?


ユウマが混乱していると、ソードベアの巨体がゆっくりと前のめりに倒れ込んでくる。


うおおおおっっ


とっさに後ろに飛び、倒れ込むソードベアを躱す。


なんだってんだ一体……



「ホッホー!やっぱりソノ声はワシの可愛いラウちゃんじゃったか!」



倒れ込んだソードベアの背後には、フード付きマントをすっぽりと被った老人らしき人物が立っていた。


にしてもこの老人も相当にデカい……


そしてやっと理解した。


あのとてつもない殺気を放っていたのはソードベアなんかじゃなく、この老人だ。


この老人のオーラは……



「お……オ爺様!!!!」



ラウが俺の背から飛び降り老人のもとへ駆け寄る。


え?ラウのお爺ちゃんなの??



「お主にこの山はキケンじゃろうて。何ゆえ……いや、兄のコトじゃな?」


「あ、兄様はココにいるの!?」


「残念じゃがココにはおらんよ。トニカクここで立ち話もなんじゃ、ホレ!そこの面白そうな人族とドラゴンもワシに着いて来い」



老人は泣きじゃくるラウを宥めながら、今夜は熊鍋じゃぞーなんて言いながら歩き出す。


何やら情報は持っているようで、夕飯の後に詳しく話すと伝えられラウも少しだけ落ち着いたように見える。


さっきまでの地獄の中にいるような殺気はいつの間にか消え去っていた。


山道をずんずん登っていくと懐かしい匂いに気がついた。


この独特な香りは……


そうこうしていると山頂近くのひらけた場所にポツンと山小屋……小屋と呼ぶにはだいぶ大きい老人の家らしきものが現れた。


ん?なんか看板のようなものが小屋の入口に掲げられてるな。


なんて書かれてるんだ?なになに……


《とっても強くなっちゃうぞ塾》


……


…………


すごい!すごいネーミングだっ!


いや、意味はめちゃくちゃ伝わるから間違いではないのだろうけどこれは……



「む?ナンじゃお主、ワシのとっても強くなっちゃうぞ塾に入りたいノカ?」


「いや……旅の途中なので遠慮しておきます……」



老後の趣味で始めたらしいこの塾は現在3期生を募集中らしいのだが、そもそも危険なトイフェル山に来る者は滅多にいないとのことで、暇で暇で仕方ないらしい。


まぁ実力者ほどこの山の異様さを感じ取って近づかないだろう。


小屋の中に通されお茶を出される……異世界のお茶もなかなかに美味しい。


フードを取り老人の顔があらわになる。


ツノ!そして両頬の独特な模様。


まぁラウのお爺ちゃんなんだしそりゃ魔族だよな。


それにしてもこんな所に小屋を建てて、四六時中ずっと魔物の襲撃を警戒しなくてはならないのでは?


どうやら周囲に立ち込めるこの懐かしい匂いに秘密があったらしい。


魔物にとって苦手なのか、この匂いが濃い場所には絶対に近づいて来ない習性があるんだってさ。



「へ~、硫黄の匂いにそんな効果があったのか」



何気なく俺が呟くと、老人とラウが顔を見合わせる。



「お主、この匂いが何か解るのか?」


「え?あぁ、まぁそんなに詳しい訳じゃないんだけど、温泉に入れたらなぁなんて……」



もしかして余計なことを言ってしまったか?


そこからは温泉とはなんじゃ!温泉ってなによ!と……老人とラウから凄い勢いで質問攻めされ……結局こうなった。


そう、小屋の裏庭に温泉を掘ってみることになったのである。


ちなみに俺の探知魔法『シャロック』を打ち消した犯人はやはりこの老人だったらしく、温泉を掘るために必要だから今度は消さないでくれと頼んだ。


そしてシャロックでの探知の結果、この場所を掘れば温泉が出ることは間違いない。


よし、魔力を集中……魔力を具現化……スコップをイメージ……


ユウマの両手に集まる魔力が徐々にスコップの形へと変化する。


これもきっと俺のスキル『想像』の力なんだろう。


魔力の具現化はなかなかに便利だ。


そして『オーバードライブ』


身体強化魔法も掛け、ルルが横で見守るなか超スピードで温泉を掘り進める。


そこからはあっさり温泉を掘り当て、周辺から石や岩を集めたり、あれやこれやと作業を進め、無事に立派な露天風呂が完成した。



「おーい!もう温泉に入れるぞー!」



夕飯の支度をしている老人とラウに声を掛けると、興奮気味に2人がやってくる。



「なんじゃコレは!?湯か?湯ナノか!?」


「ユウマ!これに入ってイイの!?水浴びジャなくて、お湯に入るノ!?」


「あぁ、すげぇ気持ちいいぞ~!」



それにしても老人が着用しているフリフリの可愛いエプロンが気になって仕方ない……


夕飯の支度を中断し、さっそく皆で露天風呂を味わうことにする。


一応真ん中に衝立もしているし、男湯女湯それぞれに『認識阻害魔法』を施しているので問題ない。


俺と老人は男湯へ、ルルとラウが女湯だ。



「なんなノヨこれ……気持ちよすギル……ぅぅう」



ラウもルルも温泉が気に入ったようだ。


そして男湯でも……



「んんむ……湯に入るとコンナにも疲れが吹き飛ぶような感覚にナルのか……長生きはしてみるもんジャわい」



老人は初めての温泉のくせに酒まで持ち込んで楽しんでいる。



「ナンじゃお主の背中にある羽のヨウな模様は?カッコええのぅ!」


「へっへっへ~wだろだろ?俺の村の皆も色んな模様が体にあるんだぜ」



でもたしかに、異世界に来てまさか温泉に入れるなんて俺も思わなかった。


大自然の中、星を見上げながらの露天風呂……日記に書かなくては!


まったりとした空気ではあったが、ユウマはどうしても老人に訊ねたいことがあった。



「なぁ爺さん、あんたってもしかしてこの世界で一番強いのか?」



酒を飲もうとする老人の手がピタリと止まる。



「何ゆえソウ思うんじゃ?」



ユウマはトイフェル山の麓にいた時から感じていた気配や、老人の放っていた殺気について一通り話すと、最も聞きたい質問をぶつけた。



「爺さんのオーラ……金色のオーラって何なんだ……?」



これは驚いたと大笑いする老人。


それもそのはず、オーラの色を認識できるのは本来魔族のみの能力だったのだ。


人族のユウマにその能力があるなんて驚くのも無理はない。



「お主、色は白のクセに面白いオーラを持っとると思ってはイタが……何者じゃ?」



どうする?転生の事とか詳しく話すべきなんだろうか……


ユウマが悩んでいると老人が口を開く。


先程から質問を質問で返してしまってすまないと言い、オーラについて話し始めた。


俺は興奮した。


大いに、めちゃくちゃ大興奮だ!


老人曰く、オーラの色には白青黄緑の先にまだ続きがある。


緑の上に赤、そして赤のさらに上にあるのが金らしいのだ。



白 < 青 < 黄 < 緑



がこれまでの認識だったが



白 < 青 < 黄 < 緑 < 赤 < 金



自分の中で父アランの持つ緑オーラが世界の最高峰だと思っていたのに、その上に2つも!


そしてこの魔族の爺さんは今は引っ込めてるけど、金オーラの持ち主!


最強じゃん!!



「ホッホッホ……ワシが最強かは分からんのぅ。金ヨリ上が存在せんとも限ランしの」



いやいやいやいや、あんな殺気を放つのはもう最強のバケモノ以外ありえないw


俺も転生以外のこと、世界を旅して小説を書くことや神器のこと、シックザールを出発して偶然ラウと出会いここまで来たこと、そして『無限魔力』と『想像』のスキルについて説明した。



「シックザールじゃと!?」

(剣聖ノ住む村か……)


「なんだ爺さん俺の村のこと知ってるのか?」


「いやな……チト聞いた事があったヨウナ名だったでの……それヨリもお主のスキルなんじゃソレ?しかも魔族にも効果のアル回復魔法が使エル?こっわ!お主こそバケモノじゃぞ」



まぁ確かに自分でもチートスキルだってことは理解してるけど、あんたが言うのかよ?w


でもまぁそうか……


「バケモノがバケモノって言うんだから……俺もバケモノなんだろうなw」



ユウマと老人は2人揃って大笑いだ。



「ねぇルル……隣の2人ナンか楽しソウに笑ってるわよ……コッワ……」



ルルは我関せずといった表情で温泉にプカプカと仰向けで浮かんでいた。

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