バケモノの棲む山

~トイフェル山の麓に到着する10分ほど前~



もうすぐ目的地だけど、ここにラウのお兄さんがいるかもしれないのだろうか?


ラウの方へ顔を向けると、何故だろう?心做しかラウが緊張しているような気がする。


ストレートに聞いてみるか!


俺はトイフェル山にお兄さんがいるのかラウに訊ねた。



「……いるならそれがイチバン良いけど……いなかったトシテも兄様について何か知っているかもしれない方がイル……」



ふむ……お兄さんがいればよし。


いなくても情報が聞けるなら……あれ?お兄さんじゃない方も魔族なのかな?まぁそうだと思っておこう。


トイフェル山の麓に到着したが、探知魔法にはすでにエビルボア以上の強さを持っていそうな魔物が多数検知されている。


なんつー恐ろしい山だよここはw


よし、『オーバードライブ』を使用した状態で山に登ろう。


さらに『シャロック』も重ね掛けして探知距離を延ばしてっと……



「……」


「…………」


「………………」


「……………………」


「ここ、バケモノ棲んでねー?」



なんだこれ……こんな強い気配これまで感じたことないぞ……確実に父さんより……


いつぶりか分からいほど久しぶりに、ゴクリと唾を飲み込む音が頭に響く。


冷静に、冷静になれ俺!


探知魔法で位置は分かってるんだから、何も問題ないじゃないか!


気を取り直して前に進もう。


ユウマがフゥっと深呼吸して歩みを進めようとした瞬間、バチッと大きな音が響き渡る!


やばい!結界か何か!?焦り出すユウマにラウが声を掛ける。



「いったいドウしたの?イマの音はなに!?」


「シャロック……探知魔法がかき消された……」



何なんだこの山は……何か探知されたくない物でも隠してあるのか?


『オーバードライブ』の効果は消えていない。


やはり何者かが探知魔法を嫌っているようだ。


捜される事を嫌っている……もしかしてラウのお兄さんの仕業か?



「ラウ!とりあえず頂上を目指そう!」



……ラウは困惑の表情を浮かべている。



「さぁ早く!」


「さぁ早くじゃナクて……なによそのユウマのポーズ……」



なにって……ただしゃがんでさぁ俺におんぶしろひゃっほーい!のポーズをしてるだけなのだが?



「コノ……変態!」



おんぶで変態って辛辣ぅぅう!


いや、真面目な話こんなヤバそうな山を普通に歩いて進むのは危険過ぎるのだ。


もしも複数の強力な魔物に囲まれでもしたら、ラウとルルを守りながら戦うのはかなり難しいだろう。


だから『オーバードライブ』で身体強化した俺が、ラウとルルを運びながら移動するのが最善!


山頂から山の様子を伺おう。


ラウはぐぬぬといった顔をしているが……どうやら折れてくれたようだ。



「おんぶナンテ……兄様以外にしてもらったことナイのに……」



ブツブツ言いながらもしっかりと背に乗ってくれた。



「おぉ!めちゃくちゃ軽いな!さすが身体強化の効果すごい!」


「強化魔法ナシでもワタシは軽いわよ!!」



この速度でこのツッコミ……才能があるな……


冗談はさておき、準備はいいな?ルルも振り落とされるなよ?


せーーのっ!


っドン!と地面を一蹴りし速度を上げながら山を駆け登る!斜め前方に魔物!相手にせず無視して突っきる!!


2体、3体、4体……近い間隔で魔物がこんなにいるなんて、トイフェル山は魔物の巣窟なのか?



「ユウマ!ちょっとユウマってば!」



なんだ?速すぎるから速度落とせってことか?そんな危ないことしてる余裕ないぞ?



「魔物!魔物が1体追ってキテる!!」



なにぃ!?


この速度についてくる魔物なんているのかよ!!


全速力で山を駆け登りながらチラリと後ろを確認すると、確かに追ってきている。


見た事のない魔物だ。


見た目的にはチーターのような感じだけど……サイズが牛さんなんだよなぁ~……あのデカさでこのスピードかよ!!


これは振り切れないな。


倒すしかない。


他の魔物が集まってくるかもしれないから、派手な攻撃魔法は避けるべき……『ショック』にするか。


前を向き目的のものを探す。


あの木はダメ……あの木も少し細すぎる……だめ、ダメ、駄目…………見つけた!あれだ!!



「ラウ!ルル!少し衝撃があるかもしれないから思い切りしがみつけ!!」



前方に見つけた大木にドロップキックのような体勢で突っ込むユウマ。


大木のしなりとミシミシという音がその勢いを物語る。


右足に魔力を集中!10……いや、『ショック』を20回重ね掛け!大木のしなりを利用して追ってくる魔物に脚を向けて横っ跳び!


獲物の予想外の行動に驚くチーター型の魔物は回避行動が遅れる!



「喰らえーー!」



ユウマの『ショック』を帯びた右足が魔物の土手っ腹にクリーンヒット!


ショックの効果なのか蹴りのダメージなのか、とにかくチーター型の魔物は気絶しているようだ。



「ユウマ、足で魔法を使うナンテ本当にメチャクチャな人ね……」



村にいる時に暇さえあれば魔法の鍛錬や実験を繰り返してきたからな。


できるできないの常識が無い俺は試す事に恐れがないのだ。


それよりもまたこんな足の速い魔物に見つかりたくないし、さっさと先を急いだ方がいいな。


ユウマが立ち上がろうとしたその時、全身に感じたことの無い悪寒が走る!


身体中から一気に冷たい汗がふき出し、吐き気すらおぼえる……これは殺気だ……気がつけなかった。


探知魔法がかき消された状態でも、オーバードライブには感知魔法が組み込んである。


近距離に脅威があれば確実に気がつくはず……だけど事実、気がつけなかった……


いる……


アイツだ……


俺たちの真後ろに……


バケモノがいる…………

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