魔族少女のお願い

森の中にユウマの笑い声がこだまする。



「旅に出てこんなに早く魔族と会えるなんてラッキーだなぁ。第一魔族発見!みたいなw」



魔族の少女は呆れたような、怪しげな何かを見る目でユウマを見ている。



「べっ……別にタスケテほしいなんて思ってなかったんダカラね!!……でも、まぁ……アリがとう……」



異世界ツンデレきたーーーー!!


最後のありがとうの声がめちゃくちゃ小さいところも……良い!


なんかこう懐かしいって言うか、前世で観てたアニメとかを思いだすなーー!感動だわ。



「他に怪我もないようだし、魔物には気をつけるんだぞ?さぁルル、先へ進もう!」


「ちょっ!?待ちナサイよ!!」



へ??



「こんナニか弱い女の子を置いてさっさとドコカへ行っちゃうつもりナノー!!?」



魔族の少女は両手をバタバタさせながら全力で訴えかけている……うん、なんか可愛いな……


とりあえず一緒に歩きながら色々と聞いてみるか。


俺は自分の名を伝えたところ、魔族の少女の名は『ラウ』だと教えてくれた。


ラウは行方不明になった兄を捜すために家出して来たらしいが……兄と妹揃って家出なんかして大丈夫なのか……?


そして居心地がいいのか、ルルはラウの頭に乗ったままだ。



「ところでラウはいつ家出したの?」


「えぇと、5日マエよ」


「ふーん、家はどこなんだ?」


「魔族領ダヨ」


「……」


「…………」


「………………は?」


「エ?」



嘘だ!有り得ない!


何故ならこの大陸の約3分の1、東側に魔族領は広がっているのだが、魔族領の南西から大陸中央に向かってとてつもない長さの氷の山脈がそびえ立っている。


父さんから大陸図を見せてもらった事があるから間違いない。


ここはまだ大陸最南端のシックザールの近くだから、氷の山脈を超えない限り……


いや、仮に越えたとしても5日でここまで辿り着くなんて到底無理な話……


強力な氷魔法を使う鳥型の魔物も多数生息しているって聞くし、凍てつくあの山脈を超えるなんて絶対に無理なはず……



「ラウさんや……どうやって5日で魔族領からここまで来たのかな……?」



ラウはハッとした表情を見せると、絵に描いたように全身汗だくになりながら目もバッシャバシャ泳いでいるw



「ソレは……あの……ヒミツだ……」



ラウの声がどんどん小さくなる。


まぁ言いたくないことなんて誰にでも一つや二つあるもんだしな。



「そっ!それよりもユウマこそアノ強さはなんなのよ!?それにドコに向かって旅をしてイルの?」



はい強引に話を変えましたwまぁいっかw


転生してきた事はとりあえず黙っておくとして……俺は固有スキル『無限魔力』と『想像』について、それとこの世界に散らばる神器を見つけることが目的だと告げた。



「なっっっにそのスキル!?ずっる!そんなスキル兄様だって持ってナイわよ!!」



そりゃまぁ……固有スキルだからねw


どうやら神器については何も聞いたことがないらしい。



「まぁイイわ!旅してまわるなら兄様が見つかるマデ特別にワタシもついて行ってアゲルから感謝しなさい!」



両手を腰にあてながらふんぞり返ったせいで、ラウの頭からルルがずり落ちそうになっている。


ルルも気に入ってるようだし……断る理由も特に無いしな……それにしてもルルが頭に乗っていることについては何も思わないのだろうか?


あと俺の回復魔法がラウに効いたのって『想像』のスキルの影響なのかな……やっぱり神様とんでもないスキルを与えてくれたんだ!ありがとう神様!!



「改めて、これからよろしくなラウ!」


「えぇ、こちらこそヨロしくね!ユウマにルル!……ところで、どこに向かってイルの?」


どこと言われても俺は全部見たい!全部行きたい!故にあてもなく彷徨いまくる予定なんだよねw



「モシ決まってナイなら一箇所ダケ!先にワタシの目的地に行ってもイイ?お願いオネガイ!!」



ものすごい勢いでお願いしてるけど、おそらく行方不明のお兄さんの件なんだろうし、他に優先することもないから二つ返事でOKした。



「で、目的地っていうのは?」


「ほら、少し遠くにミエルでしょ?あの山、トイフェル山よ」



なんだろう……けっこう距離があるのに不気味さとういか、不穏な気配があるというか……


さっきまで何ともなかったのに、トイフェル山があそこにあると認識した瞬間から背筋がゾクゾクしている。


そこからは『シャロック』を使用し、魔物との遭遇を回避しながら順調に進み続け、目的地であるトイフェル山の麓に到着したのだが……



「……」


「…………」


「………………」


「……………………」



ユウマは長い沈黙のあと、一言こう呟いた。



「ここ、バケモノ棲んでねー?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る