第7話 師弟問題

「お父さん!お父さん!」


彼女が必死に嘆こうがあの魔法が姿を現すことはない。

残るのは二つの剣だけだった。

仮にまたあれが見れたとしてもそれは彼女を縛りつける呪いになってしまうだろう。

そして彼女の父も大分悩んだはずなのだ。


おれができるのは彼女に前を向かせることだ。


俺は二つの剣に目を向ける。

白い剣からはうっすらと煙が流れているようだ。反対に黒い剣からは禍々しいオーラが漂っている。


俺はしゃがんでいる彼女と同じ視線に合わせて話しかける。


「今すべきことは?」

「...ごめんね、取り乱してしまって。そうだね。今はこの剣に視点を移そう」

「...あまり無理をするなよ。」


彼女はまず黒い剣に触れようとした、が黒い稲妻が彼女の薬指に走る。


「いっ!」

「大丈夫か?」

「うん。僕は拒まれてるみたいだ。」

「悪魔じゃないと触れられないかもな」


彼女は悩みながら白い剣に触れる。

するとそれは主人を待っていたかのように辺りを照らしながら発光する。


「僕にはこれだろうね...必ず父上の意志は継いでみせる」

「いくらでもサポートするぞ」

「ありがとう。まずは悪魔を...いや。悪魔はだめだ。悪魔がいたなら僕が真っ先に切ってやる」

「何かされたのか?」


彼女は固唾を飲み込むように少し間を開ける。


「叔父が悪魔に取り憑かれて彼の家族は崩壊したんだ。馬鹿な人だよ。悪魔に良い人はいないのに」


俺は心が苦しくなった。別に悪口言われるのはいい。俺だって悪魔がなんなのかあまり分からないし悪魔を嫌うのも良い。

ただ彼女と分かち合えなくなるのは嫌だった。


「さあ出よう。」

「こっちは置いていくのかい?」

「そうするしかなさそうだしな...」

「試しに触れてみるんだ」

「いや無理さ」

「...何かあるのかい?」


彼女の顔つきが変わる。


「隠し事はしていない」

「なら触れてみるんだ。さぁ触れてみるんだ」


嫌だ。嫌われたくない。もう、友達から嫌われるのは十分だ。


「頼むから触れてくれ。そして無理だと言うことを証明してくれ」


もう時は戻せないだろう。俺はこの状況を受け入れるしかない。


俺はそれに触れると黒い煙を纏いながら腕を掴んでくる。


「君は...!!。僕に隠し事をしていたのか!?」

「隠していたつもりはない」

「隠し事と同じだよ!君が悪魔なら...僕は君と関わらなかった!」


申し訳なさに胸が押しつぶされそうになる。

だが俺だって生まれは選べたものではないのだ。


「俺だって悪魔として生まれて来たかったわけじゃない!」

「黙れ!!...これ以上僕を馬鹿にするな」


神様。これが人を愛した結果だ。人は変わってしまうんだ。どんな絆に結ばれても。


「表へ出ろ。君と、どっちかが死ぬべきだ」

「俺はミリアと戦いたくない」

「黙れ!その名前を...その名前を呼ぶな!お前ら悪魔は...私を...父上を、叔父を、家族に絶望を味合わせた!」


流石に俺でさえ我慢ができなくなった


「俺をその悪魔と一緒にするな!生まれが同じだけで一括りにするのは王として相応しくない」

「やっと本性を出したね。そうやってお前は心の中で僕をバカにしてきたんだろう。ああ?」


違うんだ。違うんだ。俺は


「さぁ。はやく表へ出ろ。はやく」


もう取り返しはつかないのかな。もし戻れるなら彼女に会わなければ良かったのかな。


右腕に携えた剣から憎しみが湧き出てくる。

だめだ。悲しみと怒りでどうにかなりそうだ。

今なら



月明かりの下、思い入れのある時計台の上につく。


「ここから逃げ出さないだろう。悪魔」

「もう良い加減にしろ.,.話が通じないのか?」

「通じないのは貴様の方だ。ゴミクズ」


だめだ。頭の中の選択肢が襲うことでいっぱいになる。謝る選択肢が書き消されていく。


「さっさとやろうか。」

「望むところだ。クソ野郎」


暴言を吐いてくるとは。もう良いだろう。

孤独でも良い。この力があれば。


彼女の剣先が俺の方めがけて素早く突き出されていく。

俺はそれを避け彼女の腹元に刃を入れようとすると軽くかわされる。


「ここで消えるんだ。悪魔ぁぁ!」

「消えるのは貴様だ」


剣と剣がぶつかり合い火花が飛びちり合う。

お互いの力は五分五分で押し切れそうにない。


俺は頭の中で最悪な選択肢が浮かんだ。

そしてそれを実行した。


「許してくれ。ミリア」


気の緩んだ彼女はガードを崩した。

俺は頭目掛けて剣を突き刺した。


はずだったが剣と額の間に何かが挟まっていた。太い木の枝か?


「人を愛するんじゃないのか?」


その声はゼブルだった。


彼女は空中に浮きながら話しかけてくる。


「やけに人が変わっているな。その剣のせいか?」

「入ってくるな。これはには関係ない話だ。」

「そのお前呼びは気に食わないな。あははは。良いだろう。誰が師匠か思い出させてやる。そこのお前は離れておけ。死にたくなければな」



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