第6話 皇帝は語る

「娘?」

「あれ言ってなかったっけ。僕は娘として生まれたんだよ」


だからか。

全てが合致した。

娘という身分を言い訳に偉い人達が彼女を省いたに違いない。

本来なら次の皇帝に着くはずなのに。

そしてあくまでも妄想だが...男のように生きているのにも...この話はよそう。

変な偏見が生まれる。


「別に俺は女だろうが男だろうが構わない。

ミリア。俺には気を使うな」

「ありがとう。優しいんだね。」

「...二人のイチャイチャを見るためにこの時計の下にいるわけではないのだが?」


失礼しました。


「ミリアが別荘に住んでも良いと言ってくれた」

「それはありがたい。ありがとう」

「いえいえ。貴女もアカデミーに?」

「ああ。教師としてな」


それを聞くなり彼女はより姿勢を正す


「あ、あの失礼なこと、僕言いませんでしたよね?」

「あはっ。そんな畏まるな。まだ教師じゃない。先程通りでいい」

「わかりました...ではさっそく別荘に行きましょうか」

「今日最後の案内頼む」

「もちろん!」



別荘はだだっ広い庭に3階建ての豪邸だった。

なんなら庭に噴水がある。


「どうぞ。空いている部屋を使ってください」


どこにしようか...3階からの景色は最高だろうし、1階は移動しやすい...2階はお風呂場があるし...


「悩んでるのかい?」

「びっくりした...」


廊下も絵画やら銅像やらで正直に言えば少し怖い。


「3階なんか良いんじゃないかな?僕もいるし」

「それなら3階にしようか。」


なんの荷物も持たない俺は部屋に着き次第ベットを確認する


「柔らかい...」

「はははは。そうだろう?お父様がわざわざベットにはこだわっていてね...」

「親子揃って良いセンスだな」

「まったく君って言う人は」


エントランスにコーヒーが置いてある。

食前だが飲んでしまおうか...


「バアル、伝えたいことがある」


俺は思わずコップを落としそうになる。なんでみんな後ろから声をかけるんだ


「なんだ?」

「担当直入に言うが命を狙われやすくなった。気をつけろ」

「どう言うことだ?」

「彼女は皇帝の跡取りになれる存在だ」

「あ...」


現実は残酷だ。人を人として見れない者たちもいる。


「自分達が皇帝になるための弊害になりうると」

「その通りだ。もちろん彼女が何も言わなければ命までは狙われないだろうが...」

「どうだろうな。不安因子は消したいだろう」

「ああ。だが住まいや食事を提供されている以上私達が守ってあげるべきだ」


あれ、魔女は意外と冷酷ではないのか


「そうだな...優しいんだな」

「私なりの礼儀だ。私は彼女の下の部屋で過ごす。何かあったら窓から物を投げろ」

「わかった...何もないと良いがな...」



出された食事に目を丸くする。

なんて美味しそうなステーキだろうか。


「いただきます」


ああ。美味しすぎる。

こんなもの食べたことがない。


「最高に美味しい。こんなのは初めてだ」

「それは良かった。料理長のハセンは大陸一の腕だと思っているよ」


料理は元いた世界とあまり変わらなさそうだ。ステーキソースも馴染みのある味だ。


腹一杯ご飯をご馳走になった後、お風呂に

入ることにした。


綺麗な壁に覆われ、白と黄緑色に飾られたその部屋は湯気によって俺を奇妙に感じさせた。


お湯は石造りのライオンの顔から出てきている。本当にこう言うの、あるんだな。


湯船に浸かりながら上を見上げる。

豪華な装飾に天井に描かれた壁画のせいで天国のように感じてしまう。


幸せとはこう言うことなのか...

また人を愛するというのは...

いやまだ分からない。

そんな簡単に出せるものではないだろう。

いいさ、ゆっくりと答えを見つけていこう。



お風呂から上がり、彼女の部屋着を借りる。

(あ、部屋着の中に櫛が)

無くしてしまう前に返そう。


彼女の部屋をノックする。

返事はない。

「部屋着の中に櫛が入っていたから返そうと思うんだが...」


なお返事はない。寝ているのか?


俺は恐る恐る扉を開ける。

明かりはついているが誰もいない。


俺は化粧台の上にそれを置いて部屋を出る。

(お風呂にでも行ったのか?)


俺は廊下を歩いていると外に人影が見える。

怪しい人物かもしれない。見張ろう。


急いで1階に向かい外へ出る。

コートを被ったその人物は足早に夜の街の方へ向かっている。


俺も急ぎつつ足音を極力出さないよう追い続ける。複雑な場所をわざと通っているようだ。

帰れるか、これ。


ようやくその人物の足取りが止まる。

目の前には綺麗な教会が見えた。


そしてそいつは教会の中へ窓から侵入して行った。ますます怪しい。


窓から中に入るとその人物は祭壇の裏へ回っている。

ステンドガラスからの月明かりしかないせいで薄暗く、前が見えづらい。


なんとか祭壇に着くと裏側には階段が続いていた。蓋が横にあることから隠し階段だったのだろうか。


怖いが行こう。逆にあの人物はここからしか出れないはずだ。


薄いキャンドルの灯りが階段下まで定期的に続いている。石階段は埃にまみれている。あまりここには人が来ないようだ。


階段を降り切るとその人物が棺の前で立っていた。


「誰だ?!」


しまった。バレてしまったか...ってその声。


「ミリアか?」

「なんだ。君か。心臓が止まりかけたよ」

「こっちもだ。どうしてわざわざこんな所に?」


彼女はがっかりした感じで話を続ける


「君達と過ごすことになると守らなきゃいけないと思ったんだ。私のせいで危ない目に会うはずだから。だから父が持っていた剣を探してたんだけど...」

「それなら一言言ってくれ。喜んで見張りでもなんでもする」


彼女は棺に腰掛ける


「優しいね。でも無駄だったみたい。棺の中にはなかった。」

「...どうだろうか。」

「どういうこと?」


俺は昔、とある本で読んだことがある。

大事なものを隠す時はの中だと。


「開けても良いか?」

「良いけど...」


中には誰も眠っていなかった。


「もしかしてだが...やっぱりな」


棺のそこをめくると小さな木の板が出てきた。


「二重構造だったってこと?」

「そうだろうな。誰かにバレたくなかったようだ。」


二人でさらにその板を外すと二つの剣が出てきた。

一つは真っ白い剣。もう一つは真っ暗な剣。


「父が持っていたのはこの白い剣だけだと思うけど...」


彼女がそれを手にかけたとき、まばゆい焔が目の前で燃え上がる。

そしてそれはとある老人の形へと変化する。


「お父さん!?」

「娘よ...引導は託した。この白い剣を持て。そして聖都を導くのだ。灯台の灯のように。

とある者にはこの黒い剣を渡せ。これは私の兄が持っていた剣だ。だが彼が悪魔と契約してしまった以上、持てるのは悪魔の素質があるもの、またはだ。

この聖都は悪魔以上の者に堕とされる。今は悪魔と協力を結ぶのだ...」


炎は静かに舞い散る


「お父さん?!ねぇ!お父さん?!」


返事はない。あれが魔法だとしたら魔法は

なんと儚いものなのだろうか。






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