聖都フェルリア編

第5話 ライバルは唐突に

「ついたぜ。お二人さん。」


その声に目を覚ます。

見上げると太陽はすっかり登っていた。

そして目の前には大きな白い門が立っていた。


「ここが聖都...」

「ああ。聖都フェルリア。何千年の歴史がある場所だ。キャプテン。おかげで無事に早く着いた。4千500ヘルキだ。受け取ってくれ」

「おお。頑張った甲斐があったな。そうだ。

俺のミサンガ貰ってくれ。これがあればいつかまた会えるからな」


ただのミサンガにしか見えない。

だがまた会えるのは嬉しい。喜んでもらおう。


「さぁ。ここからは住まいを見つけるぞ。特訓期間だけの住まいだ。」

「短期間だけ?」

「ああ。バアルは生徒として寮に住むことになるだろう。私は教師として家が貸し出されるはずだ。」

「そう言うことだったのか。それでも短期間だけ貸し出してくれるとこなんてあるか?」


周りを見渡しても学生がほとんどだった。

いや学生かは分からないが年齢的に近そうだ。


「あるさ。手分けして探そう。ここの広場の時計の下で夕方の5時に待ち合わせだ。」

「了解。気をつけて」

「はっ。そっちもな」




とはいえあまりこちらの世界を知らない。

どうしたものか。

お金の単位もこの前知ったようなものだぞ?


考え事をしながら歩き続けているといつのまにか綺麗に花が咲き乱れる庭園へと辿り着く。


「綺麗だな...」


皇帝が死んだと言うのに街はそう騒がしくない。もう葬式などは済んだのだろうか。

そしてどんな花が添えられたのだろうか...


「君はこの花が好きなのかい?」


不意に後ろから声がかかる。


「初めて見たけど綺麗だな。好きだ。」

「そうか。君はセンスがいいね。」


振り返ると美男子のような人が凛として立っていた。


「僕も庭園の中の花ではこれが一番好きだよ。お父様も好きだった...」

「親子揃ってセンスが良いんだな」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」


彼は花のいい香りを纏っているように少し動くだけで良い匂いが漂ってくる。


「君はどうしてここへ?」

「アカデミーに入ろうと思って」

「へぇ。僕と同じか。今度の試験。お互い頑張ろう。」


ライバルでもあり未来の同級生がご登場とは、変な縁だ。


「ところでなんだが...」

「なんだい?」

「短期間だけ借りれる家とかってないか?」

「短期間だけだと厳しいね...ここは学生が八割だからみんな長期なんだ」

「そうか...」


彼は見かねてとある提案をする


「なら僕の別荘に来ないかい?」

「良いのか?」

「ああもちろん。」


別荘かぁ。金持ちな上に心が広いとは...惚れそうになる。


「あ。俺以外にもう一人連れがいるんだけど...」

「構わないよ。もう僕しかいないからね」




5時までまだ時間がある。

彼にとあるお願い事をしてみよう。


「ちょうどさっき来たばっかりなんだ。時間があればでいい。ここを案内してくれないか?」

「そうだったんだ。全然良いとも。そのお連れの人との待ち合わせ時間大丈夫かい?」

「夕方の5時だからまだまだ大丈夫だ」

「わかった。5時まではここを案内して、それ以降は僕の別荘を案内しよう。」


なんて聖人だ。さすが聖都、聖人が多いようで


「本当に恩に着る」

「良いんだ。僕も暇だったしね。そうだな...まずは時計台に行こう。あそこは景色が良いんだ」





大きな古い時計台を登るとそこには圧巻の景色が広がっていた。

ここからだと白いこの街はまるでミニフィギュアで作られた可愛い街のように見える。


「綺麗だろう?」

「ああ。ここは天国みたいだ」

「そうか...それを聞けて嬉しいよ」


街に来てから通り過ぎる人からも聞かなかった話題に触れる。


「船乗りから聞いたんだ。皇帝が亡くなったって」

「ああ。そうだよ。ほんのこの前に。」

「そうか...ここは大丈夫なのか?」

「どうだろうね。でもきっと大丈夫さ。ここに住んでいる人達は強い。お父さんもそうだったように」


彼のお父さんは...何があったのだろうか。

聞いても良いか悩む。

だがいずれ聞くことだ。もし彼の心が許すなら彼の父について知ろう。


「お父さんには...何があったんだ?」

「そうか、君は今日来たもんね。僕の父はそのさ。」

「?!」


思わず驚きすぎて唾が喉に詰まる


「大丈夫?!」

「ああ、すまない。そうだったのか、ごめん。無理に聞いて」

「良いさ。みんな知っていることだから」

「誰が今はここを治めているんだ?」


彼は少し暗いトーンに変わる。


「生前の父の右腕だった人だよ」

「その人とは面識はあるか?」

「あまりないかな。」

「言っちゃいけないかもしれないが...その人は権力を集中させてないか?」


彼は戸惑った顔をする


「どうだろうね。僕はもう関係ないからさ」





その後も美味しいレストランや穴場のカフェ、洒落た本屋や変わった物だけが売っている怪しい小売店などを教えてもらった。


「もうそろそろ5時になるね。その待ち合わせ場所に行こうか」



待ち合わせ場所に着くともうゼブルは時計の下で待っていた。


「なんだ、もう友達を作ったのか?」

「ああ。紹介する。この人はゼブル。俺の師匠だ」

「どうもこんにちは。僕の名前は」


彼女は遮るように言葉を発した


「知っている。皇帝の。ミレアだな」







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