第3話 最強は身近にいる

暗い森の中をランプ片手に歩き続ける。


「一緒に聖都まで行ってくれるのか?」

「ああ。あそこは入学試験が大変だからな。

今の貴様が行けば不合格間違いなしだ」


受験はどの世界にもあるんだな。やはり甘い世界など無いに等しいか。


「俺がもし合格したらゼブルはどうするんだ?」

「そうだな...貴様と一緒に大学へ入ってもいい。私も学びたいことがあるからな」

「生徒としてか?」

「いや教師としてだ。そっちの身分の方が閲覧できる本などは多いだろうからな。」


彼女がどれほどの実力なのか知りたくなった。


「どれくらい魔法が使えるんだ?」

「言葉で表せるほどではないだろう。おいそれと見せる者でもないしな」

「じゃあ師匠の師匠がいるだろ?その人は有名な人なのか?」


足取りがピタッと止まる。聞いては行けなかったのだろうか。


「ああ。魔界の扉を封印した人だ。いつか会える日が来るかもな」


なぜ止まったのだろうか。だがこれ以上聞くのはよそう。触れられたくない会話だって魔女にもあるはずだ。


「ゼブルは恋人とかいなかったのか?」

「私は魔法を学ぶのに精一杯だったからな。他の魔女達が人間と結婚するのを見て呆れ」

「なぜ呆れるんだ?」

「寿命が違うからさ。不老不死に手を出して道を外れた者たちを多く知っている。」


そうだよな、自分だけが歳を取らず周りだけが変化していくなんて耐えれないよな


「だが切り替えてすぐに新しい人間に手をつけるものもいる。全く恋愛は厄介だ」

「...同感だ」



ようやく見晴らしのいい草原に来た。

真上には月が綺麗に光り、涼しく心地いい風が俺の頬を撫でる。


「気に入ったか?ここはマナも沢山飛んでいて過ごしやすい」

「マナ?それはなんだ?」


彼女は頭に手を乗せ「やれやれポーズ」をとる


「マナとは魔術に必要不可欠なものだ。そうだな...船には風と波が必要だろう?その風と波がマナ、魔術が船だ」

「分かりやすいな。大きい船ほどより強くでかい風と波を必要とする」

「ああ。だがマナを魔術で増やすこともできるがな。難しく考えなくて良い。どうせ後で死ぬほど学ぶのだから」

「ひえ...」


涼しい風を浴びながら軽快な音を立てて歩き続ける。こんなにも風は、草は気持ちいいものだっただろうか。

俺はようやく自然を愛せているのかもしれない


月とは反対方向に街明かりが小さく見える。

あの大きさだとまだまだ歩かなくては行けなさそうだ...


「あれが港町か?」

「ああ。ミシル港。あそこからはどこへでも行ける。アクセスが良いんだ」

「やっぱ船移動がメインなんだな」

「いいや?空船だったりもあるぞ。」


魔術があるとやはり一種のエネルギーとしても使えるのだろうか。

空船だったら浮かす魔法みたいな。


「ワープ魔法とかないのか?」

「あんなものできる人は限られてるし使えたとしてもその日は歩くことさえままならない」


ゲームで見たワープ、便利だったんだけどな。

確かにそれがあれば他の移動いらないしどこへでも侵入できるしな。


「まて。マナの乱れを感じる。なにやら

。」

「全然気配を感じ...後ろか?」

「ああ。違和感を感じるだろう。」


後ろには少し背丈の高い草だけだ。

もし誰かいるのなら見えるだろう。


「(私を狙いに来たか?魔女狩りか?)そこにいるのは分かっている。出てこい。」


何かが飛び出して草が揺れる。


「わたしのことですか?ただ薬草集めてただけですけど...」


背丈の低い女の子が飛び出てきた。軍帽みたいなのを除けば普通の女の子だ。


「どうしてこんな夜に?」

「怪我しちゃったから治そうと思って。こう見えて旅人なんです。わたし。」

「...旅人にしてはバックを持っていないようだが?」

「ええ。持ち歩かないんです。ないので」


彼女は目を使って何かを訴えかけている。

これは...「さっさと行くぞ」だろうか。


「じゃあ俺たち行くから。夜遅いし気をつけてね。」

「あ!」


彼女は俺の方を指差す


「そっちも気をつけて!危ない!」


真後ろから激しい物音と風が背中をなびく。

土埃のせいでなかなか周りが見えない。


「しゃがめ!バアル!」


咄嗟にしゃがむと真上を何かが通り過ぎる。


ようやく通り過ぎると真上にはでかい鯨が

浮いていた。


「なんだこれ...」

「まさかな...」

「わぁ。空鯨くうげいハルピだ。でっかあい。」

「あまりはしゃぐな。今は逃げろ。私達も逃げるぞ」


港町の方は走り出す、が、あの女の子はそれを

見続けている。


「何している!?はやく逃げろ!」

「これ、懸賞金かかってたんですよ?わたしが貰ってもいいんですか?」


ゼブルは俺の耳元で囁く。

「急いで逃げるぞ。頭のおかしい子供か幽霊に出くわしているのかもしれん。私でさえこれを倒すのには命がかかる」

「だがあの子は...」

「これから山ほど幻術をかけてくるやつがいる。そいつらにハマるのか?」


その通りだった。あれが罠なら俺は馬鹿になる。それでもいい。彼女を助けなくては


「おい馬鹿者!」


俺はあの女の子の元へ寄り添う


「さぁ逃げよう」

「なんでですか?」

「危ないから」

「ふふーん。わたしを小さいただの女の子だと思ってますね?」


彼女は小さい腕を伸ばし手を広げる。そして何かを唱える。


「なんの魔法を...」


次の瞬間、彼女の手からは赤い閃光が飛び出しそれを突き破り粉々にしてしまった。


綺麗に輝きながら死骸は落ちていく。


「最初から必殺技使っちゃいました!てへ!」


俺は驚きで体が動かないし口も動かない。


「そろそろ行きますね。じゃ!また機会があれば会いましょう!」


空中が渦を巻き出し彼女はそれに入って行った


「もしかしてあれが...」

「ワープ魔法だ...なんなんだ。あの子。」


彼女も呆気に取られているようだった。


「全て誰かの幻想魔法かもしれない。さっさと進むぞ」

「わかった...」


能ある鷹は爪を隠す、というが案外最強は身近にいるものなのかもしれない。







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