第2話 名はなんと申す

彼女は俺を抱えたまま左手でランプを灯しながら歩き続ける。


もし言葉が話せるのは今すぐにでも感謝を

言わなければならないが泣くことさえできない。

やはり俺はではないのか。


「お前はどうして捨てられていた?」


俺はジタバタと動き返事の代わりにする。


「なんだ?言葉は分かるのか?なら後で

成長剤をぶっ込んでみよう」


意外とまずいことをしたのかもしれない。


30分ほど歩き小さな木の家が見えてきた。

そこまで大きくないが綺麗に月明かりに照らされていて独特の雰囲気を放っていた。


「ふう。赤子とは言え悪魔の子は重いな。」


彼女でさえ俺のことを悪魔と呼ぶのか。


「とりあえず成長剤を口に突っ込もう」


まずいまずいまずい。お腹後で超くだしそう。


「なんだ?嫌なのか?利口なのかアホなのかわからん子だな」


俺は必死で口を閉じる


「あ〜ん。口を開け〜」


俺は絶対に口を開けないぞ


「全く、口が固すぎるな。あれを持ってこよう」


何かをとりに行ったみたいだ。ひとまず助かっ


「これだこれ。」


大きなペンチを持ってきていた。

それを見た俺は素直に口を開ける。


「ん?使っていないのにもう口を開けた。効果は絶大だな。どれ飲んでみろ」


黄緑色の謎の物体を口に放り込まれる。

体がひんやりとする。それになんだがもぞもぞ...


急激な痛みが走る。特に頭の上らへんだ。


「ツノが引っ込んだか。おもしろいな」

「あんた、何をした」


俺は思わず口から言葉が出る。というか話せるまでに成長している。


「どれ、あの調合はのようだな。どうだ?体は」

「痛くてしょうがない。てか...」


体が大幅に大きくなっている。

17歳程度までには成長しているんじゃないだろうか。


「副作用で髪の毛が白くなってしまったか...」

「鏡が欲しい。」

「ほう?あの成長薬には知識までも付随していないのにな。」


「ほれ」と彼女からタンスの奥にあった鏡を投げ渡される。


そこに映る自分は白髪で長髪の青年だった。


「ツノが引っ込んでしまったせいで悪魔には見えないな」

「...俺は本物の悪魔なのか?比喩とかじゃなく...」

「ああ。さっき拾った時、お前は悪魔のようにツノが生えていた。」


だが鏡に映る自分は悪魔には見えない。


「今度は私が質問しよう。どうやってその知識や言語を学んだ?」

「前世の記憶があるから、と言えば良いんだろうか。そもそも一回死んだのかも怪しい」


彼女は奥から古いノートを取り出す


「別の世界があると言うことか?」

「ああ。確かに存在する。」

「ではなぜこの世界に来た?」


ではなぜこの世界に来たのか。それは難しいな


「『人を愛する』とは何かを知るため...」

「何を言っているんだ貴様は。頭がおかしいんじゃないか?」


酷い言われようだ。

そこまで言われると本当に自分が頭おかしくなったのではないかと思ってしまう。


「どうであれ、貴様のいた世界について詳しく聞かせろ」

「そうだな...まずは〜」

「へぇ〜"スマホ"とやらは便利なのだな」

「ああ。だが魔法はなかったな。」


彼女の指が止まる


「では貴様は魔法が使えないのか?」

「もちろん。何も使えない」


彼女は大きくがっかりしたような表情を見せる


「使えない奴を拾ってしまったもんだ」

「本人いるから前に。」

「召使いにでもしようと思ったが、魔法適性があるのかも怪しいとはな」

「あんた見かけは魔女に見えるし教えてくれ」

「『見かけは』は失礼だろ」


彼女は奥の部屋に行きでっかい水晶を持ってこようとする。


「おい貴様、これ重いんだから手伝え。」

「おっも」

「もっと奥まで運べ」


わざわざ離れた玄関に近いところに置く。


「さぁ手をかざせ」

「と言うか今更だが服を貸してくれないか?」

「男物はない。さぁかざせ」


裸のまま水晶に手をかざしている。

なんなんだこの状況。


「魔力はあるが...何かによって制限されている?なんだこれは...」


一人楽しそうに水晶を除いている。俺は早く服が欲しい。


「未知数だな...悪魔化を封印する代わりに魔力が上がるのか?だが仮にそうしたら死にいたる可能性があると...二律背反しているな。」


俺はふと手元にある紋章をみる


「これなんだ?」

「ああ。それは悪魔である証拠だ。消すことはできないし舌にも書いてあるはずだ」


悪魔として生まれたからには悪魔として過ごさなくては行けないということか


「よく分からないが...魔法が使えないことはないだろうな。だが戦闘で魔力に頼るのは賢いとは言えない。武器を使うべきか...」

「さっきから何を言っているんだ?」

「...決めた。貴様は私の弟子となれ」

「はぁ?」


彼女は水晶にもたれ掛かりながら話し出す


「私は魔女としては見習いだ。だが実力と賢明さはある。だけがないのだ。だから貴様を弟子とし、名雄に育て上げればいい」

「悪魔でも名雄になれるのか?」

「馬鹿な質問をするな。名声があれば人は貴様を愛してくれるはずだ」





ぼろぼろのタンスから布切れを渡してくる。


「なんだ?これ」

「ん?服が欲しいって言っていただろう?」

「これじゃあもし服がめくれたら変態だ」

「知るか。これから出かけるがそれくらいで十分だろう。」


捕まんないかな俺まじで


「どこに行くんだ?」

「港町に行き、聖都に行く。」

「悪魔が聖都にいけるのか?それにわざわざ...」

「赤子のまま連れて行きたかったな。まずバレるな。それだけだ。連れて行く理由はそこに

"アカデミー"があるからだ。」

「なるほど。そこで学べと」

「ああ。」

「育児放棄ですか?」

「貴様は私の子ではない。弟子だ。」


ドアに手をかける前に聞きたいことがあった。


「名前は?」

「私か?私はゼブルだ。貴様にはあるのか?」

「俺には...」


新しい人生だ。名前は変えるべきだろう。


「名前はない」

「そうか。ならバアルにしろ。その方が弟子として分かりやすい。」

「なんか親戚みたいだな。」

「私は魔女だと言っても若い方だからな。人間の年齢で言えば20くらいだ」

「じゃあ何年生きた?」


彼女は無言でドアをあける。


「暖炉の火を消しておけ。長い旅になる」









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