第二十三話 音楽がある理由

 宇神先生が悲しみを背負ったままいなくならないでほしい。今まで音楽を無くそうとしてきたのは、その経験があるからだ。

 「皆、ちょっと来て!」

 私は大声でみんなを集めた。皆、『こんな時に何で?』と言う表情になる。でも、そんなことどうでも良い。ただ宇神先生に、音楽を楽しんでもらいたい!

 「ねぇ、これからきらきら星を演奏したいんだ」

 「和音ちゃん、分かったのでつか?」

 「ううん、演奏したいだけ」

 「えっ……?」

 奏太君が何も分からないような表情になった。

 それは、そうだよね。だって宇神先生は敵。敵がいる前でそんなことしたら危ない。分かってる、分かってるけど……。

 「音楽を宇神先生に楽しんでほしいんだ」

 「そういうことでつかっ!ミューが和音ちゃん達の楽器持ってきまつね~」

 「ジックも~!」

 そう言って、ミューちゃんとジックちゃんは飛んで行った。

 数分後。

 ミューちゃんとジックちゃんがケースを持って、帰って来た。は、速い!

 「はい、和音ちゃん、梛ちゃんと……歩翔君…」

 「希沙と奏真奏太の分ニャ」

 「そして、ミューが新品のリコーダー、持って来まちた!」

 「あっ、リコーダーは……」

 私は口ごもる。リコーダーの苦手克服じゃなくて、音楽をただ楽しんでもらいたい。

 「ミューちゃん、ごめん。タンバリン持ってきてくれない?」

 「分かったでつ。…あっ、ポケットに入ってたでつ!」

 ミューちゃんが、自分と同じサイズのタンバリンを取り出す。

 これを宇神先生に渡して、皆で合奏したい。 私は宇神先生へ近づき、タンバリンを差し出した。でも宇神先生は受け取ろうとしない。……トラウマのせいかな。

 「宇神先生、これ受け取ってください、一緒に演奏しましょう!」

 「音楽なんて……………………ただ苦しいだけだ……………………」

 「違いますよ、音楽は学ぶものでも無い。失敗するためにあるんじゃない。楽しむためにあるんですよ!!!!!!!!!!!!」

 宇神先生が思っている音楽は、間違いだと思う。音楽は楽しむためにあるんだ。

 「そして…演奏は息を通したりするだけじゃない。リズムを取ること。さぁ、タンバリンを持てください」

 私がソッと差し出したタンバリンを宇神先生は恐る恐る手に取る。

 やった……!私は皆の方に振り返った。

 「僕、宇神先生が『きらきら星』の邪楽だと思ったんだ……けど、倒す訳じゃないんだね」

 「うんっ、だから私達六人で普通の楽器で演奏して、それに合わせて宇神先生にタンバリンを叩いて欲しいんだ」

 「分かった」

 迷いも無く皆がうなずいてくれる。

 それが私の気持ちの支えになった。邪楽のボス、それは分かっていても同意してくれる。

 「宇神先生、私たちは演奏します。宇神先生はリズムを取ってください」

 「行きまつよ、一二三……」

――♩♩♩

 宇神先生は何も演奏しない。それどころか、床にタンバリンを置きそうになっていた。

 宇神先生に、分かってほしいな。

――♩♩♩♩♩♩♩

 『瞬きしては』という歌詞の部分に入った。もうすぐ曲が終わりに近づいている。

 どうしても宇神先生に演奏の楽しさを知ってほしいんだ。

 私は手を止めること無く吹き続ける。お願い、叩いて……。

――♩♩♩♩

 もうサビに入る。

――タンッ。

 すると、恐る恐る宇神先生がタンバリンを叩いた。

 ひとまず安心。後は楽しんでもらいたい。それが演奏した目的りゆうだ。

 私は宇神先生をチラチラ見る。

――タンッ。

 「「「「「「っ!?」」」」」」

 宇神先生が……笑った。

 今まで吹奏楽部の仲間が見せたような、いや、それ以上の顔だ。

 これは、わかる。『音楽を楽しんでいる』表情!

――♩

 演奏が終わる。すると宇神先生の周りがとたんに輝き始めた。えっ…、何?光の中から黒色のモヤモヤが出てくる。そのモヤモヤがすべて出た後、宇神先生はにこっと笑った。

 「符川さん、ありがとう。音楽って楽しいね……」

――バタッ。

 「えっ……!?」

 「宇神先生大丈夫でつ!?」

 宇神先生はいきなり倒れてしまった。

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