第十八話 ホワイト大会

 十二月中旬。今日はクリスマス!

 そして何と……全国中学生吹奏楽部コンクール全国大会があるんだ!クリスマスの日にあるのは初めてらしい。歩翔君が今でも落ち込んでいるのが気になるけど、頑張ろうっ。

 私は気を引き締めて会場に足を踏み入れた。

 「ここに置いて良いですよ」

 宇神先生が合図を送ると、部員の皆が座席にケースを置いた。前回よりも強張った雰囲気に包まれている。ここで金賞を取ることを目標として、ここに来ている人がいっぱいいるんだ。緊張がドッと波のように押し寄せてくる。ううう……。

 「開演は十分後ですが、ここの学校は三番目に演奏するために今から移動します」

 「えっ……」

 私はケースを持ちなおし、立ち上がる。まさかそんなに早く、順番が来ると思ってなかった…。不安になってくる。

 「大丈夫でつよ、皆いまつから」

 「ミューちゃん!」

 ミューちゃんがニッコリと笑ってくれた。そうだ……私だけで演奏する訳じゃ無い。ここにいるメンバーで頑張ろう!私はこぶしを握り締めた。


〇┃⌒〇┃⌒


 ついに私達の番が来た。私はゆっくりとステージに上がった。

 前よりももっと多い人数が私達を見ている。ヒャッと肩が上がった。ソロで演奏する時とは違う緊張感。私は椅子に座って、宇神先生の指揮を見た。

――♩♩♩♩

 今まで練習してきた成果を届けたい……!私はその思いを胸に音を奏でる。リズムを心の中で数えて、指を動かしていく。いつもは緊張しない演奏なのに、心が激しく動いた。

――♬♬

 カッと目が熱くなる。もう少しで私のソロパート……!

――♪♩

 会場をまともに見られなくなり、私は楽譜をチラリと見る。ワァという歓声がした。

――♩♪♩

 終わった瞬間、拍手で会場がいっぱいになった。

 私は心が温かくなる。ステージから出て、いきなり姫香さんに肩をたたかれた。

 「すごかったよ、あれは和音ちゃんにしか出来ない演奏だわ」

 「姫香さん……。ありがとうございます!」

 「すごく上手だった!」

 「希沙ちゃんっ。希沙ちゃんもすごかったよぉ~」

 私は顔に流れた汗を拭いて、ステージを見つめ直す。

 頑張って良かった……。そう思えたんだ。


〇┃⌒〇┃⌒


 第一部が終わった。今からお昼休憩なんだよ。

 「お昼、一緒に食べない?」

 「奏真君…いいよ~」

 「あっ、和音ちゃん!私も一緒に」

 そう言って希沙ちゃんも話に入って来た。私はもちろん、オッケーとうなずく。

 すると、奏太君に梛、ミューちゃんジックちゃん歩翔君までが一緒に食べることになった。

 私達は外のベンチに座って、お弁当を広げる。

 「和音ちゃん、どんな弁当なん?」

 私は梛の質問に笑顔で答えた。

 「ごちそうさま」

 「希沙ちゃんっ……早いでつ~」

――十数分後。

 私は弁当を食べ終えて、会場に戻ることにした。

 ざ、ざゔい……っ。もうすぐ雪の降りそうな季節。コート一枚では過ごしていけないよ。

 私はミューちゃんの手を握った。ミューちゃんの手、カイロみたい!心も体も温めてくれるミューちゃん、最高!

 「ううっ。外で食べようなんて誰が言ったんだっけ?」

 「僕……ごめんね…」

 「大丈夫っ……」

 ろくに会話も続かない。唇が震えて、凍って行く。私は空を見上げて白い息を吐いた。

 空から真っ白な粉が降ってくる。雪だ……。今日はホワイトクリスマスだ!

 「わ、わあ」

 辺り一面がいきなり白で染まった。寒いから雪が降っていも良いぐらい。

 私が見とれていると、歩翔君が突然つぶやいた。

 「と、父さん……」

 私達は一斉に歩翔君を見る。すると歩翔君は信じられないものを見たような目をしていた。歩翔君の目線の先に立っているのは、四十歳ぐらいの男性。

 だ、誰!?

 私は何故だか、フラッと体の力が抜けた。後ろへ倒れる。ええ……!?

 私は疲れている訳じゃない。体が勝手に動いたみたいで、私は頬を叩こう、としたけど体が動かない。痛いっ、これは本当なんだ…!

 急いで立ち上がろうとしたけど、体が動かない。梛も、希沙ちゃんも奏兄弟も動かない。口も……動かない!?

 「そんなにミュージック使いは弱くなったのか……」

 「ミュー! 皆、大丈夫でつ?」

 「しっかりするニャン!」

 ミューちゃんもジックちゃんも心配してくれている。『ありがとう』と伝えたくても、体が重い。鉛みたいに固まって、何もできない。するとその男性は、私達を縄で縛り始めた。

 「やめろ!」

 歩翔君がバッと音をたて、男性を突き放した。

 歩翔君……。すると男性は立ち上がり、歩翔君に何やらつぶやく。

 「や、やっぱり父さん……」

 「ああ。そうだ」

 父さん……?歩翔君のお父さんは失踪していて、会えていない。ま、まさか!歩翔君のお父さんがこの人!?これぞ、だ。

 驚きの意味の言葉なのに何でご飯の名前なんだろう。

 「父さん……どこに行ってたんだ!?」

 「それは、今から分かる」

 話し終えると歩翔君のお父さんは、通りがかった他校の吹奏楽部部員の頭に手を置いた。

 ……うん?これ、どこかで見たことある。

 一番最初に邪楽を見た時、姫香さんにこんなことをしていた。そ、そんなことある訳ないよね……。私は歩翔君と歩翔君のお父さんを見ることしか出来なかった。

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