第十四話 奪われたブレスレット

はぁ―――。私は大きくため息をつく。

 さっきコンクールの練習が終わった。明日また練習がある……から憂鬱!だって、邪楽を明日までに倒さないとまた宇神先生に怒られちゃう。……明日の午後六時ぐらいだから、そこまで早くは無いけれど。でも……どうやって見つけよう……。

 「符川、豊共は何故楽器が無くなっていなかったのか、気にならないか?」

 歩翔君が、重くしかし淡々と告げる。梛もミューちゃんと一緒にやって来た。

 「豊共は、楽器が無くなっていない上に、混乱していなかった。普通は『なんで皆無いの?』となるはず……豊共が邪楽かも…しれない」

 「「「!?」」」

 歩翔君の言葉に、私達は息を飲む。

希沙ちゃんが邪楽な訳ない……でも、もし、邪楽なんだったら?私に近づいて仲良くしてくれたのは……ミュージック使いだから?ま、まさか…っ。嫌な想像が頭の中を埋め尽くす。

 「でも、希沙ちゃんが邪楽と決まったわけじゃないでつよ!」

 「ああ。いきなりこんな話してすまない。ただ、気をつけてほしいだけだ…」

 「………分かった」

 歩翔君が体をひねり、廊下を歩いて行く。

 ミューちゃんが肩に乗って、何やらささやいてくれた。でも、それが耳に入らない。

 希沙ちゃん……本当に邪楽なの…?


〇┃⌒〇┃⌒


 夜ご飯の時間になっても、私は希沙ちゃんのことが頭から離れない。

 もう布団の準備をして、寝る時間。邪楽って……そんなに卑怯な手を使うの?もう誰も信じられない気分だ。

 「ミュー、元気出すでつよ!」

 ミューちゃん、ありがとうっ。

 はぁ、希沙ちゃんが邪楽と決まった訳じゃないんだから……と思い布団を敷く。

 「和音ちゃん、そこ反対」

 「えっ! ありがとう~家がベッドだから慣れて無くてっ」

 「私も」

 希沙ちゃんが笑いながら、シーツをひく。邪楽なんかじゃ…無いんだ!大丈夫!

 「じゃあ、電気を消すよ」

 「うん、オッケー」

 私は希沙ちゃんに合図を送り、布団で横になった。とたんに目の前が暗闇に包まれる。希沙ちゃんが布団に入る音が響いた。慣れない布団で、すぐには寝付けない。

 「今日、楽しかったね」

 「うん。二学期から入って反応悪くないかな――って気にしてたけど、大丈夫だったよ」

 「そんなこと気にしてたの!?」

 「アハハッ。でも結構気にするもんだよ」

 希沙ちゃんの笑い声が聞こえる。

 ミューちゃんが私の布団に入って来た。もうスヤスヤと寝息が聞こえる。フフッ可愛い。希沙ちゃんにもミューちゃんのこと伝えられたら良いのになぁ。

 「今日、楽器無くなっちゃった人いたよね」

 希沙ちゃんの言葉が胸に刺さる。……まさか私は邪楽です、宣言…?

 「私だけ残っていて、正直ビックリしたよ~」

 …………へ?なんだ、そんなことか……。良かったっ。安心して、私は深い眠りに落ちた。


〇┃⌒〇┃⌒


――♫♫

 「えええ――――――――――――!」

 朝六時、起床時間。『さくらのうた』という曲をかき消すように私は大声で叫んだ。『さくらのうた』は最低六人で演奏する曲で、キレイな曲……ってそんな場合じゃないっ!ブレスレットが無い!!

 私の声で希沙ちゃんが起きた。

 「ど、どうしたの…?」

 「大丈夫!何でも無いからっ」

 そう言いながらも、私の心は大パニック!何で、何で!?私の腕に付けていたブレスレットが……無い!ミュージック使いの証のブレスレットが無い!どうして……!

 「ミュー……どうしたでつ?」

 「ミューちゃんっ…歩翔君と梛を呼んでほしい!」

 「分かったでつっ。…………あれ?ブレスレットが無いでつ」

 「それを伝えたくて…。私、二人の部屋知らないけど、ミューちゃん知ってる?」

 私が尋ねると、ミューちゃんはうなずいた。知ってるんだ……!

 「二回の階段前で待ってる、て伝えてくれない?」

 「行ってくるでつ」

 私は急いで着替え、髪の毛をポニーテールに結んだ。靴を履き、急いで階段前に行く。

数分後、梛と歩翔君がやって来た。

 二人とも寝起きで目がいつもより小さい。

 「朝にごめん!あのねっ……寝てたらブレスレットが無くなっていたの!ごめん!」

 「ええっ!?」

 「どういうことだ?」

 ごめんなさい……。私は頭を下げた。 

 ミュージック使いとして、良くないことをしてしまった……。どうしてブレスレットを付けたまま寝ちゃったんだろう………。後悔が込み上げてくる。

 「寝ていて、朝起きたら無くなってたん?」

 「うん」

 「……何をしてるんだぁ―――!」

 歩翔君が大激怒。大声で鼓膜が破れちゃうそう。でも、歩翔君の言う通り『何をしてるんだ』、だよ。ブレスレットが無いと邪楽は倒せない。 

…………どうすればいいんだろう。

 「部屋に誰がいるんだ」

 「希沙ちゃん」

 歩翔君がその名前を聞いて、驚いた表情で固まる。

 「豊共が邪楽だとしたら……奪われたんじゃないか?」

 「えっ」

 希沙ちゃんが奪った……?信じられない言葉が脳内に流れてくる。

希沙ちゃんが寝ている間に取ったってこと…?

 「そ、そんな……」

 「ブレスレットを奪えば、ミュージック使いに何もされること無く音楽を無くせる。そう考えると、邪楽に取られたんだ」

 「一回希沙ちゃんに、ブレスレット持ってへんか聞いてみたら?」

 私はうなずいて、部屋に戻った。希沙ちゃんは、布団を畳んでいる。

 「希沙ちゃん…」

 「さっきは急いで部屋を出て行っちゃったからビックリしたよ。どうしたの?」

 「私のブレスレット知らない?」

 私は口を強く結んだ。希沙ちゃんが何というのか……。緊張で体が痛くなる。

 「ブレスレット……? もしかしておばあちゃんからもらったと言ってたブレスレット?」

 「そうっ」

 「無くなっちゃったの?」

 「うんっ」

 希沙ちゃんが心配そうに眉を寄せる

 「見つかってないの?」

 「うん……」

 「一緒に探そう!」

 希沙ちゃんが目を細め、言った。

 そして、布団を片づける。

 ……協力してくれるの…?希沙ちゃんを疑ってしまった自分が情けない。希沙ちゃんは邪楽じゃない……!?どっちか、分からなくなってきちゃったっ。

 「寝たときにはあったの?」

 「うん」

 布団を広げ、シーツをはがし、念入りにブレスレットを探してくれる希沙ちゃん。

 私も急いでシーツを一緒にはがした。私達は朝ごはんのギリギリ前までブレスレットを探し続けた。


〇┃⌒〇┃⌒


 「無い……」

 もう午後五時。朝ごはんの後、有名な指揮者の方が来てお話をしてくれた。

 その後、昼ご飯を作って食べて、班でクイズ大会をして……。

 あとちょっとで演奏する時間になっちゃうよ―――!楽器を取り戻すためには邪楽を倒さないといけない。でも、その前に……ブレスレットが無いっ。

 「邪楽が持っている可能性が高いから、邪楽を探そう」

 「そうでつっ。邪楽は今回二匹出ているでつから、早く探さないとでつ!」

 「うぐっ」

 ミューちゃんの言葉が、私の心をえぐる。

 格上シニア普通ノーマルの邪楽、どっちも出ているんだ。どうしようっ……。

 「ごめんなさいでつっ。苦しませたくて言ったことじゃないんでつ」

 「うん、大丈夫だよ……」

 ミューちゃんが謝る。

 ふぅと私は息を吐いた。息が太陽の熱に溶けて行く。

 「わぁっ」

 梛が突然、後ろに倒れ込んだ。

 ええ?私は慌てて梛に駆け寄る。すると、梛のことを見下ろしている男性がいた。先生でも生徒でも無さそう。

 「あーあ。もう少しでブレスレット捕れたのになぁ」

 挑発するようにニコニコ笑う。

 だ、誰?

 生徒でも先生でもない。着物みたいな服を着ている。……まさか邪楽!?

 「これ、これ。君たちのでしょう?」

 「「「「!」」」」

 差し出されたものは……私のブレスレットだ。

 私も梛も歩翔君も、ミューちゃんも耳を疑う。ブレスレットを持ってる……。

 「お前、邪楽だろ?」

 「ああ、そうです。でも、当てられないでしょうねぇ。ククッ」

 「は!?」

 邪楽はニタリと笑い、ブレスレットをポケットにしまった。

 どうやって取り返そう……。ミューちゃんが邪楽のもとに飛んでいき、ポケットにつかみかかる。でも、邪楽にすぐ捕まった。

 「みゅ、ミュー―――」

 「ミューちゃんっ!」

 ミューちゃんは邪楽に捕まれて、苦しそうな表情になる。

 私も攻撃していけど……ブレスレットが無い。ブレスレットは邪楽のポケットの中。

 「何するんだ!」

 歩翔君が、指から音符を出す。

 でも邪楽はヒョイヒョイ交わしてしまった。身体能力が高い……っ。

 この邪楽はどの楽曲から生まれたんだろう。私はそれを考えることにした。

 着物みたいな服装だから、きっと日本系だよね。

 ああ、速く考えないと……!

 「きゃぁっ!」

 「うわっ!」

 二人の悲鳴が聞こえる。何と邪楽の手にはブレスレットが二つ。あれは、二人のブレスレット!私達に戦う方法が無くなってしまった……。

 私は走って邪楽に体当たりしようとする。でも、ヒョイっと交わされた。冷や汗が垂れるこのままじゃ邪楽にやられっぱなしになっちゃう。そう思ったその時。

 「やめなさいっ!」

 その声と同時に、三つの影が現れた。

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