第十二話 転入部員
やぁっと!夏休みになった――っ。 思わず叫びたくなる。
最近、『全国中学生吹奏楽コンクール県大会』が終わったから、ちょっとの間だけ自由!私達吹奏楽部は見事県の代表に選ばれたんだ!でも……学校の宿題が多いんだよな……。
今日は夏休み二日目。
梛の家に集まって、宿題をやるんだ。私は楽しみすぎて、手をパタパタする。
――ピンポ―ンッ。
「こんにちは、いらっしゃい。入って良いわよ」
お馴染みの梛のお母さんの声がインターホンから聞こえる。久しぶりだなぁ。
――ガチャッ。
「梛~! 宿題パラパラ見たけど……全然わからなかった~」
「一緒にやろ。ほら中入って」
梛は一学期の最後の方から関西弁を使うようになった。
それが意外にも大人気!『見た目と喋り方のギャップが可愛い』と騒がれて、学校中から梛の関西弁を聞くのためにわざわざ教室に来たんだよ。
「わぁ――!真っ白な部屋に変わってるっ」
「ありがとう。うん、なぎが考えてデザインしてん」
関西弁でも優しい雰囲気は変わらない。梛の部屋のイスに腰かけてワークを開く。
う―ん、分からない。ワークを開いて二秒後、私はシャープペンシルをテーブルに置いた。
――ブブブッ。
突然、梛のポケットから音がした。
「あっ、アル君から電話。もしもし。あ、うん。和音ちゃんと一緒にいるで。」
そう言って取り出したのは、スマホ。良いなぁ。梛が持ってるならお母さんにおねだりしようっ。
梛がスマホを操作する。すると、スピーカーになり私に聞こえてきた。
「ミュージック使いのことで喋りたいことがあるんだって」
「本当でつか?」
梛がミュージック使いと言った瞬間、私のブレスレットからミューちゃんが出て来た。
「ああ、ミューもいるのか。じゃあちょうど良いな。今から大切なことを話す」
歩翔君の声から緊張感を感じた。なんて言われる?まさか説教!?
「この学年に邪楽のボスがいるかもしれない」
「「「ボス!?」」でつか?」
「ああ、そうだ。俺達の学校に邪楽がいることが多い。だから邪楽を作っているボスがいると思った。それに、ダンスの時間に音が流れなくなっただろう?」
私はダンスの時間を思いだした。確か、音楽が流れなくなってしまったよね。
「音源を消せるのは
「つまり……」
「ダンスの時間体育館にいた人……一年生に邪楽のボスがいる」
邪楽のボスが私の近くにいたかもしれないってこと!?瞬きが出来ないほどの衝撃。
「もう一つ。吹奏楽部が邪楽に巻き込まれることが多い。だから、邪楽のボスが吹奏楽部にいる可能性がある」
「そうなん!?それじゃあ、一年生の吹奏楽部部員にボスがいるかもしれへんの…?」
「ああ」
私と梛は目を見合わせる。邪楽のボスを見つけなくちゃ!
〇┃⌒〇┃⌒
九月。もう夏休みが終わり、二学期初日の下校時刻。
ほとんどの人が階段を下りている中、吹奏楽部で臨時の収集があったから、梛と一緒に階段を駆け上る。梛と一緒…スピードが遅すぎて置いてきちゃった。エヘヘッ。
――カラッ。
「遅くなりました」
「遅く……なりっ…まじっ…だ」
私は宇神先生にうながされて、席に着く。ミューちゃんが歩翔君から私の肩に飛び移った。
「転入部員だ」
「一年二組、
ショートカットが良く似合う、背の高い少女がお辞儀をする。
転入部員……!?敬語だけど明るい雰囲気が出ている。喋ってみたい!
「昔からサックスを吹いていたそうだ、豊共さんはあっちに座ってくれ」
希沙さんがカタンと席に座った。
「そしてもう一つ。九月二十一日から二十三日に吹奏楽部で合宿に行きたいと思います。保護者の許可が必要のため、今から合宿のための書類を配ります」
合宿!小学生では無かった、オトナな響き!お母さんに早速許可を取らなきゃ。
「和音ちゃんと梛ちゃんが行くならミューもついていくでつ!」
ミューちゃん、歩翔君だけ言ってない……。それを歩翔君に聞かれたら怒られちゃうよ…。私は心を弾ませながら、書類を手にした。
〇┃⌒〇┃⌒
「やっと着いたー!!!」大きく伸びをする。
今日は土曜日、合宿の初日。合宿の宿に到着!うう――楽しみで移動のバスで寝ちゃった。
「では班分けを発表します」
そう、そう。合宿では全部で六班に分けて生活をするんだ。誰となるんだろうっ。
「一班五線梛さん、……」
私ではなく梛の名前が呼ばれた。同じ班では無いけれど、新しい友達を作るチャーンス!
「二班、符川和音さん、豊共希沙さん、宮田奏真さん、坂本歩翔さん」
え!?やった、転入部員の希沙さんと一緒だっ。でも……歩翔君とも一緒なんだよね……。一日中怒られちゃいそう。チャンスがピンチに変わった。
「あ、希沙さんよろしくね」
「和音さん?奏真から聞いてるよ」
「本当?和音って呼んでくれて良いよっ。よろしくね!」
「よろしく。希沙って呼んでほしいな」
わぁ、明るい人だ!これはもう、友達になりたいっ。それにしても奏真君とも仲良いんだ。私は希沙ちゃんと話を続ける。
「希沙ちゃん、好きな動物は?」 「そうだね。猫、かな」 「本当!?私、犬派だよ~」
たっのしー!!と思っていたら、歩翔君が静かなトーンで「うるさい」と言った。
その声に奏真君が怯える。ひ、ひぇ――!近くにいたミューちゃんが私の後ろに隠れる。
すると。
「坂本さん?楽しく喋ってる時に、口挟まないで」希沙ちゃんがきっぱりという。
「うるさいから言っただけだ」
「人は喋るんだから、うるさくなるのも当然」
すごい……!いつも反論してばっかりな歩翔君が黙った!希沙ちゃん、天才ッ。奏真君が歩翔君を必死に抑える。これから楽しい(?)合宿が始まる!
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