第十一話 三人で協力

 喧嘩して二日だけど、一人で登校中。 

 私が梛を傷つけたから、神様にお仕置きされてるのかな…。考えるだけで胃の辺りがキリキリ痛んだ。どうすればいいんだろう……。

 「和音ちゃん……」

 「え、梛!?」

 曲がり角に差し掛かった時、梛に声をかけられた。肩が震える。梛は何を言うの…?

 「あのね…和音ちゃんは悪くないんだ。ごめん」

 出た言葉は、謝る言葉だった。私は息を飲む。 謝るのは梛じゃない、私なのに。

 「違う、私が梛を傷つける言葉言っちゃって……」

 「もう許してるから大丈夫だよ」

 「そ、それなら……」 

 「でも………感情の整理が追い付いてなくて、何をしゃべれな良いか分からないんだ。和音ちゃんに話しかけられても今のままじゃ楽しく喋れないから、和音ちゃんが嫌な思いをする。整理出来たら和音ちゃんになぎから話しかけるね」

 え……、私はうなずくことも出来ない。

 私が傷つくから……。梛はどこまで優しいんだろう。私のせいなのに、自分が悪いと思って謝ってくれた。私が梛みたいな人だったら、喧嘩も起きなかったかもしれない。

 「ごめんね」

 梛はそう言って立ち去った。


 〇┃⌒〇┃⌒


 あれからもう一か月以上も経つ。梛とは喋っていない。幸いなことに、邪楽も表れていない。今日の体育館への移動教室も別々に来た。でも、六年以上の絆は切れること無いと信じている。だから、待つ。

 今日は学年全体の体育で、ダンス!小学生の頃は無かったから、毎回楽しみ!

 「わおんっ。ダンス楽しみだね」

 「もちろんっ!ゆずちゃんはダンス習ってたの?」

 「ううん、やったこと無かったよ」

 「嘘~~!」

 肩の上にチョコンとミューちゃんが乗っている。ぬいぐるみみたいで可愛いっ。

 「そう言えば、あれどうしたんだろう」

 「あれ?」

 私の目に映ったのは、壁に貼られている板。校歌が書かれていたはずなのに、何もかも無くなっている、ただ茶色い板。え、え……?何でこんなことになるの!?

 「どうしたんだろう……」

 うん、まさか邪楽!? でも、普通ノーマル格上シニア神様エキスパートの三種類があるけど、こんなことは出来ないはず。 先生、が外したのかな?

 「集合!」

 先生の声に、急いで整列し準備体操をして、ダンスが始まる。

 音楽って、良いよね~。

――♫♩

 音楽に合わせて、知らない動きをする。う――ん、難しい。体が思うように動かない。

 「ミュッミュッ」

 ミューちゃん、楽しそうだな。見てるこっちまで楽しくなっちゃう!

 あ、いけない、私も踊らなくちゃっ。

――♩♬……ジッ…ジジッ…

 音楽がだんだん小さくなっていく。

 え……、何だろうこの現象、見たことがある気がする。

 「どうしましょう…」「替えのCD持ってきます」

 先生たちが準備をして、もう一度曲を流す。でも……消えてしまった。

――ジッ……

 どうしたんだろう…皆が戸惑う中、腕を組んで何やら考えている歩翔君がいた。


 〇┃⌒〇┃⌒


 部活の時間。

 「すみませんっ!」

 音楽室に入ろうとすると、謝る声が聞こえた。私は急いで、中へ入る。

 「どうしたんのでつ?」

 ミューちゃんは首をかしげる。

怒っているのは顧問の宇神先生。十人ぐらいの先輩が頭を下げていた。

 「楽器が無いなんてありえないっ」

 「本当に、…すみませんでした!」

 どうやら楽器を無くしたみたい。

私はバッと、手に持ったトランペットのケースを見る。まさか私まで……?

ミューちゃんがケースを開けてくれた。トランペットが無いっ、何で?トランペットは必ずケースに入れるようにしてるのに!私はすぐに頭を下げる。

 「すみません、私もありません」

 「!?符川さんまで無いのですか?」

 「……はい」

  先輩も先生も驚いた表情になった。うわ――ん、何で無くなったの!?

 「実は、わたしも…」 「僕も……」 「わたしもありません…」

 吹奏楽部部員の四分の三ぐらいが立ち上がる。そんなに……!?

 「ハァ……そんなに無いなら今日は出来ません。今日は臨時でお休みにします。明日は必ず持ってくるように!解散!」

 宇神先生がそう告げる。臨時でお休み!?大事になってる!?

 「なぁ、これは緊急事態だ」

 「歩翔君?」あ、そうそう、歩翔君も吹奏楽部に入ってたの。

 「これは……邪楽だ」

歩翔君が言った言葉にピンと来た。そうだ、格上シニアは楽器を消すんだった!

 「なるほどでつっ!それなら早く止めなきゃでつ」

 「どうする?」

 「もちろん、探すのでつ!」

 「でも…まぁ、探そう」

 そう言って私達は音楽室から離れた。


 〇┃⌒〇┃⌒


 「どこを探すんだ?」

 「確かに!」

 「『確かに!』じゃないだろう!」

 歩翔君に怒られた。私が言い出したんじゃないのにーミューちゃん……助けて――!

 「怒らないで、でつっ…」

 ミューちゃんが両目に涙を溜める。ミュ、ミューちゃん!?

 「ミューちゃん、大丈夫。この人は感情表現が苦手なだけで……」

 「はあ!?」

 「「うわ―――っ」」

 ミューちゃんを慰めようと思ったけど、怖い!赤鬼みたいに怒ってる!

 こんな時、梛がいれば……。考えただけで、心が鉄みたいに重くなった。

 「あっ」

 そう声をあげ、歩翔君が誰かに手を引っ張れ、ずりずり遠くへ行く。どうしよう。すぐに追いかけなきゃ!私とミューちゃんは、急いで駆けだした。


 〇┃⌒〇┃⌒


 「はぁっはぁっ」 

 歩翔君が引きずられなくなったのは、空き教室に入った時だった。

 「痛い……」 歩翔君が呟く。

 大丈夫、と声をかけたかったけれどそれが出来なかった。

 だって、歩翔君を引きずった男性に怖―い目線で見られたから!うう、歩翔君並に怖い!

 「邪楽でつ!」

 え、邪楽!?確かに、白い服を着て白い羽が生えている!今まで見た中で一番衝撃的。

 「早くっ、なぎを…呼んできてくれっ!」

 歩翔君の言葉にハッとする。そうだ、三人でいないと邪楽は倒せない。でも…………。話しかけ無いと約束した。どうしよう……。

 「早くっ!」

 「歩翔君はミューが見ておくでつ!大丈夫、きっと梛ちゃん分かってくれるでつっ」

 ミューちゃんの声に背中を押され、私は最初の一歩を踏み出した。


〇┃⌒〇┃⌒


 下駄箱の前に着く。

 まだ梛の靴はある。学校に入るはずだ。私はここで待つことにした。捕らわれている歩翔君には申し訳ないけど。

 「はぁ……」 声にならないため息が口からこぼれる。

 梛と私と歩翔君でミュージック使い。それなのに仲間割れしてるんだ……。

――「三人でいつでも協力してほしいの」

 坂本家で聞いた鈴乃さんの言葉を思いだす。

 鈴乃さん、ごめんなさい。私達、協力出来てない……。どうしよう、ミュージック使い失格……?心から不安があふれ出る。

 「和音ちゃん…」

 「梛っ!」

 「ど、どうしたの?」 私の姿を見て梛は作り笑いをする。

 「話しかけてほしくないのは分かってる。でも、今だけ!私達ミュージック使い三人で協力してって鈴乃さんに頼まれたんだから!」

 梛は戸惑いつつ、でも力強くうなずいてくれた、

 

〇┃⌒〇┃⌒


 「アル君……!」

 「来たのか」

 歩翔君は邪楽に手首を押さえつけられているようだ。少し痣が出来ている。

 「なぎの仲間を傷つけて……許せへん!」

 梛が決意したように、瞳を熱くする。

 ブレスレットを押し、トライアングルを鳴らした。

――リリリ――ンッ。

 すると、歩翔君を六角形の箱が包み込んだ。

 梛は歩翔君を覆っている箱を引っ張って、邪楽から離れさせた!すごい!私もっ!

――タンタンッ。

 タンバリンから網が出て、邪楽を包んだ。よし、動けなくなったぞ!

 「早く曲を当てるでつっ!」単なるおじさんの姿から、どう考えろって!?

 「それならもう分かってる。私が今一番必要としている音楽だからっ」

  梛が即答して、私は驚く。断言できるほどすぐに分かるなんて……。

 「符川琴の『白鳥は飛ぶ』や!」

 出てきた曲は……おばあちゃんの曲だ。『MY music ファイル』にも入っている。

 「この曲はなぎのために、琴さんが作ってくれた…。これしかありえないっ!」

 「分かった」

 「「「白鳥は飛ぶ」」」

――♩♫♬♬

 ああ、昔聞いていた曲だ。楽譜を見なくても弾ける。梛は私よりもこの曲が好きみたいで、自分らしい雰囲気で演奏していた。

――♬♬♬♩

 梛は笑顔で吹き続ける。喧嘩したことが無くなったみたいに音が重なる。

 ――♩♩♪♪♩

 「あっ……消えてるでつっ!」

 「「やった――!」」

 私と梛は笑顔でハイタッチ。でもその笑顔はすぐに消えてしまった。

 「ごめん、ずっと『なぎはこんなに自分隠してていいなかな』と悩んでた時に、和音ちゃんに言われてカッとなった。ごめん!」

 「梛は悪くない!本当に、私が悪いんだよ」

 梛が眉を下げる。でも、すぐに明るく笑ったんだ。

 「昔琴さんが『白鳥が飛ぶ』を作ってくれた時『自分を隠さないで』と言ってくれたんだ」

 梛が息を吸う。何を言うのか不安を感じた。

 「もう関西弁使う!学校でも!」

 「そうでつ。それが良いでつっ」

 そっか……良かったけど、これは言わないといけない。ずっと心の中に閉まっていた言葉。

 「梛、本当にごめんね」

 「良いよ、大丈夫。その代わり。なぎが関西弁使ってもビックリしないでね」

 「うん!」

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