第九話 格上の実力

 「オッホホ―――!」

 演奏が終わった瞬間、邪楽が笑いだした。え……、消えない!? 

 「神様に認められたこの二人を」

 「「倒すなんて無理、無理!」」

 「…………!?」

 歩飛君が邪楽の声に、一歩前に出る。きっと怒っているんだろうなぁ。

 でもミューちゃんが歩翔君の爆発を必死に止めたから、何とか爆発しなかった。

 「何で……」

 そうだ、邪楽が消えていないんだ。……失敗しちゃったんだ。格上シニアだから…?

 「よし、あれをしよう」

 「ええ」

 そう言って邪楽は、手を組んだ。 そして、ダンスを踊り出す。…社交ダンス、かな?

 だんだん目の前が白くなっていく。 そして、私はフルーツの海に落ちた。

 「おえっ」

 下にはバナナにミカン、リンゴ。ううう!吐き気がしてくる。

 どこに行ってもフルーツばかりで逃げる場所が無い。口の中に何か上がってくる。うぐっ。

 「なぎののせい…」

 「……」

 二人の声もする。声をかけたいけれど、姿は何も見えない。

 しかも座っているのは大嫌いなフルーツ!甘ったるい嫌いな匂いが漂ってくる。もう嫌だ―――!

 「目を覚ますでつっ!」

 え、ミューちゃん?

 ミューちゃんがト音記号の形をした尻尾をフリフリさせる。こんな尻尾だったんだ、可愛い!するとだんだん目の前が遊園地に戻って来た。

 「お二人起きるでつっ!!」

 ミューちゃんは二人にも尻尾をフリフリさせる。

 すると泣いていた梛も立ちつくしていた歩翔君も、やっと気づいてくれた。

 何が起きていたの?

「三人は幻きゃくを見ていたのでつっ」

 「「「幻覚!?」」」

 あれは幻覚だったの?匂いまでついていて、やけにリアルな幻覚だったな……。

 「そうなんだ……。良かった…」

 「邪楽はどこだ?」

 「あっ!……逃げちゃったでつ~~」

 逃げた?つまり邪楽は幻覚に混乱させて、その間に逃げる作戦なの!?格上シニアは今までよりもずっと強い。そして、パレードも無くしてしまった。早く邪楽を倒さないと!

 「逃げちゃのは、あちでつ」

 ミューちゃんが見た方向に私達は駆けだす。もちろん、梛の手をつかんでたから心配しないでね!

 「邪楽は何故逃亡したんだ……何かしようとしているのか?」

 「そうでつきゃ……」

 どこに逃げたのかサッパリ分からなくなってしまった。

 このままじゃパレードは中止?マーチングが見たいのに……。もう終了時間の三十分前。

 早く見つけないといけない。邪楽の思い通りになっちゃう!

 「どっちへ行くか?」

 歩翔君が分かれ道で立ち止まった。

――ピンポ――ンッ。

 『皆さん遊園地は楽しんでいるかしら。ここで皆さまにお知らせがありますわ』

 『パレードを中止する。以上だ』

――ピンポンパンポ――ンッ。

 え、パレード中止なの……?血の気が引いて行く。遊園地全体を動かす邪楽の力。手強い。

 「放送にしては変じゃないかな?」

 「どういうことだ」

 梛の発言に歩翔君が一歩詰め寄る。

 放送にしては……変? 私は梛の言葉を待った。

 「その――語尾がちょっと変わってたなと思ったんだ。『かしら』『わ』を使っていて違和感があったんだ」

 確かに、遊園地の放送だと、敬語を使っているイメージがある。

 私敬語苦手なんだよな……。まさか放送していた人も敬語が苦手?

 まさしく!同じ共通点を持った人は自然に集まる、という意味だったと思う。うん、多分。

 「邪楽が放送したのかもしれない……」

 「放送室はあちでつっ」

  私はまた駆けだした。


 〇┃⌒〇┃⌒


 放送室は走って一分もかからず、着いた。息が切れることも無い……梛は違うけど。

――カチャッ。

 「あら~」

 「ミュージック使い、来たのか」

 いた……。歩翔君が指から音符を出す。でも、ヒョイヒョイ交わされてしまった。

 次は私がやろう!ブレスレットから出て来たタンバリンを鳴らす。

 「グヘェッ」

 「捕まった!」

 「これじゃあ、幻覚も出来ない!」

 出て来た網が邪楽をとらえた!やったぁ!

 少し緊張がほぐれる。あとは難関の邪楽の生まれた音楽を当てるだけだ!

 「まずは…舞踏会系なのは確かだ」

 「え?」

 「ダンスを踊って俺達に幻覚を見せた。ドレスとダンスがかみ合うのは舞踏会だろう。そうじゃないか?」

 「なるほどでつ」

 確かに、歩翔君頭良い!でも怖いよ……。今もキッと睨まれた。心読んだのかな!?

 「メヌエット?」

 メヌエット…… 。あってそう!

 「やってみるか?」

 「うんっ」

 「じゃあ、誰が作者だ?」

 ギクッ。 そう、メヌエットの種類はイ――ッパイ!

 有名なのはバッハのメヌエットだけど……。

 「バッハでは無いと思う!」

 「何でだ?」

 「格上シニアだからっ」

 「確かに、簡単なのにはしないよね……。モーツァルトの『メヌエットヘ長調』かな」

 「それでやってみるか?」

 musicdictionaryに指を置く。

 「「「メヌエット」」」

 ミューちゃんが指揮棒を構えた。せーのという口の動きに合わせて口を開く。

 一、二、三という指揮に合わせ演奏の準備をすぐに済ませた。

――♫♩♩

 軽やかなリズムが鳴りだす。

 ミューちゃんは楽しそうに指揮をしていた。間違っていても、楽しくていいよね!

――♫♩♩

 楽しい!軽やかなリズムにトランペットが揺れる。そして、だんだん遅くなっていき、

――♩♩

 終わった。行ける、邪楽は消える?

 「あ、あっ」

 消えていっている!良かったぁっ。

 「やったでつね」

 「うんっ!」

 「演奏良かったっ。なぎ当てられて嬉しかった!」


 〇┃⌒〇┃⌒


 ――♩

 『シューベルト 軍隊行進曲』が流れる。

 やっと念願のマーチングが見れた!私は息を荒くした。

 「和音、どこ行ってたの?心配したよ」

  内心『パレードが再開したのは私のおかげ!』と言いたい。 でもミュージック使いのことは秘密にしなきゃ。二回目のお役目、終了!

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