第八話 ペット誕生!?

邪楽を見つけたときの光の色とは違う。エメラルド色がきれいに輝いていた。

 他の人に目をつけられると大変だから、パレードを見る場所から離れた。

 うう~マーチング!早くブレスレットの光をどうにかして戻ろう!

――ポワ――ッ。

 軽やかな効果音がして、光がどんどん消えていく。

 そして出てきたのは………………一匹の犬だった。宙に浮いていて、現実ではないみたい。

 えっ、えっ、ええっ!?

 ミュージック使いになって不思議な体験をしてきたけれど、その中で一番ビックリ。

 「ミュー・レッジェローでつ。よろしくお願いちまつ」

 生まれたばかりみたい!上手く言葉を言えていなくて、可愛い!

 くりくりとした目、垂れ下がった茶色い耳。見た目も可愛くて、人形みたい。

 「おふちゃりに、集まってほしいと伝えればいいでつか?」

「えっ、あっ……。うんっ……?」

――ピュンッ。

 ミューちゃんが私のブレスレットに飛び込むと、、ミューちゃんはいなくなる。

ブレスレットの中に……入った?

 このブレスレットを作った人、今すぐにこの仕組みを説明して―――!

 何すれば良い分からず立ちつくしていると、ミューちゃんがブレスレットから出て来た。

 「あそこの時計台に、集合するのでつっ!」

 「時計台?そこ?」

 私が指差した所を見て、ミューちゃんはうなずいた。

 そしてミューちゃんはフワフワと宙に浮いて移動した。空中、飛べるの!?

 「ミューはミュージック使いの人しか見えないのでつ!」

 ミュージックパートナーは見られても大丈夫なんだ。歩翔君の説明不足だ!あとできっちり怒ろう。怒れる機会も少ないし……エヘヘッ。

 「わ…お………………んちゃっ」

 「梛!」

 「俺もいる」

 私が梛に手を振ると、歩翔君の冷たい視線を感じた。

 「こっちは班からこっそり抜けてきたんだ。早くしろ」

 「こんにちは、はじめましちぇ。ミュー・レッジェローでつ。三人をサポートするミュージックパートナーでつ。よろしくでつ!」

 ミューちゃんが瞳を輝かせて、挨拶をする。可愛い……と思ったけれど、二人は驚いて固まってしまった。ミュージックパートナーなんて聞いた事ないみたい。

 「どうしてだ…musicdictionaryにはそんなこと書いてないぞ……。待て……」

 怖い顔をして歩翔君が悩み始めて、ミューちゃんがプルプル震え始めた。

 涙を一生懸命たらさないようにしている。

 「ミューちゃん初めまして五線梛です梛と言ってね。ミューちゃん、と呼んでいいかな?」

 「もちろんでつっ」

 ミューちゃんが涙をぬぐう。良かった、梛ナイス!

 「二人とも本題に入るよっ」

 「「本題!?」」

 「そうでつ。パレードの楽器が無くなってしまったんでつ。それが…」

 「格上シニアの邪楽がやったと考えたんだな?」

 「そう、そう!」

 歩翔君が真顔で喋り続ける。銅像みたい。例えるなら奈良の大仏の貧乏バージョン?

 「こちらが園まいマップでつ」

 園内を園まいと言い間違えながらミューちゃんが両手を前にかざす。

 すると、園内マップが出て来た。すごい!

 「ミューは情報を三人にきょーゆーする、ナビ、指揮の役目があるでつ!」

 ミューちゃんはたくさんの能力を兼ね備えている。すごい!

「園内に楽器をしまっている所は無さそうだ」

 そうなのか……。邪楽に会える可能性はぐんと低くなった。

 でも……マーチングが見たい!早く見つけなくちゃ!私は両手に力をこめる。

 手が赤くなってしまったけれど、邪楽がいる場所を探さないと!

 「他に………………」

 遊園地にわざわざ邪楽がいる。それなら理由があるんじゃない?

 「遊園地、日常とどう違う?」

 「えっ……楽しい、かな」

 私が聞くと、梛が答えてくれた。でも邪楽がいる理由にはならなさそうだ。

 「食べ物が売ってるな」「大人がいる?」「全てのものが高い」「カラフルだよね」「音楽がおおきいおちょで鳴ってるでつ」

 二人と一匹が良く考えて答えてくれている。……でも、どれもしっくり来ない。

 「邪楽の格上シニアは何するんだっけ?」

 「はぁ、そんなことも忘れたのか?格上シニアは楽器を消し、音楽への楽しみを消すんだ。ミュージック使いとしてこれぐらい覚えておけ!」

 怒られちゃった。悪魔の声みたいで耳がキンキンする。これからはミューちゃんに聞こう、うん。

 梛はすっごく考え込んでいる。私も考えよう。遊園地は果物が売ってある。でも邪楽には関係が無い。アトラクションがあって、イベントがあって、人が多い!

 ……人が多い?

 邪楽はこの世界から音楽を消すのが目的だったはず。それなら人数が多い所で、効率的だ。

  「パレードだ」

 突然歩翔君がニヤリと笑った。起こっても怖い、笑っても怖い、顔が無い方が良いかも。

 「パレードで人が集まる。そこに邪楽が来れば、一斉に音楽への楽しみが消える!」

 「なるほど」

 梛がいつもより大きい声で言った。

 「じゃあ、この中にいる?」

 視線を送った先にはパレードを楽しむ、人、人、人! 千人は超えていそうな人数だ。

 この中から探すのが大変!?

――ゾロゾロッ。

 そのとたん、たくさんの人がパレード会場から遠ざかって行く。

 えっ、えっ!? まさかマーチングが来ないから嫌になっちゃった?

 マーチングが好きなんだ!

 これはアニメ『アオダヌキ』に出てくるガキ大将が言う『心の友』!

 でも、二人の男性の声で違うと分かった。

 「こんなん見る必要無い」「アトラクション乗ろうか」「音楽なんて……」

 これは邪楽のせいなんだ! 邪楽は人に触れることで音楽への楽しみを消す。この近くにいるはずなんだ!私は目を細くして人の群れを見つめた。

 もっともっと人がいなくなる。更には係員さんまでいなくなってしまった。

 邪楽はこの人数を一人でやっているの? これは難しい気がする。

 そしてもう、最後の二人になった。ドレスを着た女性とタキシードを着た男性。あの二人はこの場を動こうとしない。じゃあ、邪楽はどこに……。

 「あの二人、邪楽でつ!にゃっとうを凍らせた匂いがするでつ!」

 納豆を凍らせた……。本当にやったらどんな匂いなんだろう。

 「邪楽なら行くぞ!」

 あっ、そうでした。歩翔君に睨まれて、すぐ走る。

 私が駆け寄ると、邪楽はこっちを向いた。

邪楽は逃げようとせず真っすぐ私達を見つめてくる。

 この邪楽は何から生まれたんだろう。

 「フィガロの結婚?」

 「何、その曲」

 歩翔君が呟いた言葉は私の知らない曲名だった。

 「知らないのか。モーツァルトの名曲だ」

 「ふ――ん」

 「もたもたせずに行くぞ」

 「ミューが指揮するでつ」

 ミューちゃんがきれいに手を上げる。いつもは楽譜に数字が出るだけだから、役に立つ!

 「「「フィガロの結婚」」」

 musicdictionaryに指を置き叫んだ。

 出て来たトランペットをパシッとつかむ。 ミューちゃんとの初めての演奏、頑張ろう!

 ミューちゃんの指揮に合わせて息を吹き込む。

 優雅でゆったりできそうな音楽が流れる。

 やっぱり楽しい!一番最初より早く邪楽の曲名を当てられた!

そう思って邪楽を見たけれど、全く邪楽は焦っていない。

 演奏が終わり私はトランペットを口から外した。

 成功した、そう思ったのに……。

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