第六話 坂本家にお邪魔します!?

ミュージック使いを始めて、一日。

 あくびを噛み殺し、私は教室へ入る。突然のことを理解できずに、一晩ずっと考えていたら全然眠れなかったんだ。邪楽っていつ出現するんだろう?

 「あっ」

 私は重たい瞼をグイッと上げた。歩翔君だ……!同じクラスだった!?

 記憶を探っても全く歩翔君らしき人物は思いつかない。忘れてたごめんね、歩翔君。

 「おはよう~」

 「………………………………」

 へ!?歩翔君がオオカミのように私を睨んだ。

 え、ええええ!?仲間にそんな顔する!?

 私、嫌われている!? 嫌われることした覚えないんだけどな……。心がシュボシュボ縮む。

 しかも、歩翔君はすぐに教室を出ていってしまった。

 歩翔君の背中は落ち込んでいるようにも見えた。

 「おはよう、和音ちゃん」

 「梛――!」

 話しかけられた直後、私は梛にあれこれと説明した。


〇┃⌒〇┃⌒


 「起立、礼」

 待ちに待った吹奏楽部、二回目! う―――楽しみすぎる!

 もちろん姫香さんは部活に来ている。

 やっぱり邪楽のせいだったんだ。

 昨日光っていたブレスレットは光っていない。

 「私達がコンクールで演奏する曲は『星条旗よ永遠なれ』です。コンクールで金賞を取るために頑張りましょう」

 吹奏楽部顧問宇神先生がにこやかに喋る。

 合奏は全然したことが無いから、すっごく楽しみ!

 演奏会ではいつも一人ソロだったから。

  「では今から席順を決めます。自分の演奏する楽器が言われたら来てください」

 どんどんと楽器が呼ばれていく。 

 トランペットが呼ばれたので、宇神先生のもとへ行った。

  「符川さんはここです。ここは櫻庭さん……」

 宇神先生が席を指差す。姫香さんが隣だ……!

 「よろしくお願いします!」

 「頑張りましょうね」

 姫香さんはニコッと笑ってくれた。ふふふ、楽しくなりそう!

 私は思わずほおを緩めた。

 「あの…よろしくね」

 「うん?」

 姫香さんの反対側から声をかけられる。

 振り向くと、前髪を整えた優しそうな男の子がいた。

 「よろしくね!私、符川和音ですっ」

 「僕は宮田奏真みやたそうま。トロンボーンを吹いてるよ。……後、僕の弟は宮田奏太みやたそうた

 「俺様のこと言った!?俺様宮田奏太!ホルンをしてるんだ!奏真の双子の弟だ」

 遠くから奏太君が声を上げる。 肌が茶色に焦げていて、運動が得意そうだ。

 奏真君と奏太君、あんまり似てない……。『海二つ』じゃないっ!

 …………うん? 海二つだった?太平洋と日本海? エーゲ海は?あれれ!?

 「そのブレスレットきれいだな!」

 「そう?おばあちゃんにもらったんだ!」

 奏太君に尋ねられて、すぐに答える。

 のは気が付かなかった…。


 〇┃⌒〇┃⌒


 部活が終わって、二十分。

 な、何と今、歩翔君の家の前に来ている……!お母さんが私と梛に会いたいらしいんだ。

 あんなに傲慢な歩翔君だから、家は豪邸かと思っていたけど……。

 十数分歩いて着いたのは、ごく普通の一軒家だった。これから怒られる………!?

  「入ってくれ」

――キキ――ッ。

 歩翔君が扉を開ける。玄関に足を踏み入れると、一つのものが目に入った。

 チェロだ!私の足から腰ぐらいまでの大きさ。きれいに磨きあげられている。

 「歩翔、連れてきてくれてありがとう」

 廊下の扉がスッと開く。

 歩翔君みたいな高圧的な人が出てくる…!?と思わず身構える。

 けれど、出て来たのは…柔らかい雰囲気のお母さんだった。 

 全く似ていない。こちらも海二つじゃない。

 「立ち話もなんですから、お部屋へどうぞ。歩翔は部屋に戻っていいわよ」

 ナン…!?パンの一種だよね。これは一つのギャグ!?それなら笑っておかなきゃ!

 「アハハハハッ」

 「…どうしたの、和音ちゃん?」

 あれ、違った?ま、いっか。

 入ったリビングには、家族写真が飾られていた。

 お母さんとお父さんと一緒に並んでいる歩翔君。仲良さそう。

 「お座り下さい」

 「ありがとうございます」

 梛の動作を真似しながら、席に座る。きっと上手に出来た……と願う。

 「こちらへどうぞ」

 歩翔君のお母さんがお茶を持って来てくれた。お盆を片づけると、私の前の席に座る。

 「初めまして、坂本鈴乃さかもとれのです。符川和音さんと五線梛さんですね。歩翔から聞いてます」

 「こちらこそ、初めまして!」

 私が答えると、鈴乃さんはお花のように笑い返してくれた。

 「二人はミュージック使いになってくれたのですか?」

 「「はい」」

 「あ。敬語じゃなくて、大丈夫です!私敬語やめるのでっ」

 少し敬語にそわそわしていたので、はっきりと言った。

 すると言葉通り、鈴乃さんは敬語をやめてくれた。

 「あのね…いえ、何でもないわ。私達坂本家は先祖代々ミュージック使いをやっているの」

 「そうなんですか!」

 私はおばあちゃんにブレスレットをもらった。でも歩翔君は両親にもらったんだろうな。

 「……歩翔はミュージック使いのせいで嫌な目に合ってしまった」

 「い、嫌な目!?」

 私よりも先に声を上げたのは,梛だった。どんなことだろう…。

  「歩翔は感情表現がとても苦手で、本当は二人が仲間になってくれてすごく嬉しいの。でも少しきつい態度を取っていると思う」

 「はいっ」元気に返事!

 「和音ちゃん、失礼だよ……」

 「大丈夫よ。でも、歩翔はきっと心を開いてくれる。そして、自分の気持ち、出来事を伝えてくれると思う…けど…」

 鈴乃さんが言葉を濁す。苦々しい表情をした後、こう言った。

 「三人でいつでも協力してほしいの」

 鈴乃さんが真剣な表情で言っているので、絶対協力しようと思った。

 「はい!分かりました。三人で協力しますっ」

 「なぎも頑張ります」

 この出来事が、ミュージック使いの運命を大きく左右する出来事なんて思いもしなかった。

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