第四話 音符の謎と再び幽霊
「どうしたの、和音ちゃん」
「私の楽譜から音符が無くなったと言うか、音符だけ消えちゃったと言うか……えっと…」
「見せてくれへん?」
私は三人の前に『MY music ファイル』を差し出す。
前見た時まではしっかりとした楽譜だった。でも、今は、音符だけきれいサッパリ消えている。題名も、五線譜も、上手に吹くためのメモは残っていた。ただ、音符だけがない。まるで、音符だけが盗まれたみたい。
「なにこれ………」
三人は目を丸くする。私も何が起きているか、頭が追いつかない。
「和音は何もやってないの?」
私は力を込めて、うなずく。
「なら、誰かが『MY music ファイル』を別のものにすり替えたのかな?」
私はゆずちゃんの方を見る。いつも推理小説を読んでいるから説得力がある。
「いたずらにしても…こんなに手間暇かけて、やるのかな?」
私はあることにはっと気が付き、慌ててあの曲のページを開く。
「お、おばあちゃんの曲まで、音符が消えてる……!」
「「「え!?」」」
「和音ちゃんのために琴さんが書き下ろしてくれた『ワオン』も?」
「うん……」
「「「え――――!?」」」
私は涙目になる。『ワオン』は、世界で一つしか楽譜が無い。
そう、それが私の『MY music ファイル』に入っている『ワオン』だ。
世間にも知られていないすごく大切な曲。何より大切なものなのに!!
「金曜日から使ってないの?」
「うん。学校の引き出しに入れてた。思いついたらすぐにメモしたいから」
「それなら昼休みにすり替えられたのかも……」
「なんで和音ちゃんの楽譜をすり替える必要があるの?」
「そう!よく聞いてくれた!ゆず思ったんだけど、和音ってトランペット上手でしょ」
「うん!私、うまいよ!」
――ブハッ。
梛とさっちゃんが勢いよく吹きだす。私は困っているのに…!え?何か笑うようなこと言った?
「吹奏楽部の人が和音に憧れて、真似したくてすり替えたんじゃないかな?」
「「!」」
私は梛と目を合わせる。確かに、吹奏楽部見学の時、私はすごく目立ってた!
「何で、わざわざメモまで真似してすり替えるんや?」
「………………えっ。それは、まぁ、うん、それはこれから分かっていくはず、だから……。さあ、犯人探し頑張ろー!」
なんかみんな楽しんでる気がするけど、でも、見つかることが一番大事!!
〇┃⌒〇┃⌒
犯人探しの方法は……。ゆずちゃんが作ってくれた『MY music ファイル』に似た『NISE music ファイル』を梛の席に置いて、犯人が来るのを待つ、と言うもの。
「さすがに作戦、変えない?」
「うん……」
五日経っても犯人は来ない。毎日来ない。こ・な・い!
「あと、梛ちゃんがいるから『バード様やー』って来ないんちゃうか?」
「あ……………………」
ということで。私と梛は廊下で怪しい人物がいないか確認することになった。いそいそと廊下へ行く。壁にもたれかかって、周囲を見渡した。
「梛、ありがとう!私の楽譜探し手伝ってくれて」
「ううん、そんなことないよ。和音ちゃんの大切なものだもん!それに、なぎも琴さんの曲ですっごく心が救われたことがある。何回も」
梛が振り返らずに言う。心配になって顔を覗き込むと、梛の眼が一点をみつめていた。
「どうしたの?」
そう言っても梛は答えなかった。 私はもう一度周囲を見る。
「……うん?」
私は一人の少女に目が釘付けになった。一気に全身の毛が逆立つ。
白髪少女……いや、白髪幽霊だ!しかも、私の方に、近づいてくる!
「梛、逃げるよ!」
梛が声をあげずに、一目散に走り出す。私も逃げなきゃ!
前回校内で走って怒られたから、校庭に行こう!
「こっち!」
梛の手をひいて、昇降口へ行く。 上靴を履き替えて、ローファー!? 走りにくいけど、呪われるより、良い!
急いで履き替えて、校庭へ行く。
「ぜぇ―――はぁ――」
もう幽霊は追いかけて来なかった。
〇┃⌒〇┃⌒
「では始めます。よろしくお願いします」
吹奏楽部顧問、
「点呼しますね。櫻庭姫香さん」
姫香さんの名前だ。 でも、答えは帰ってこない。
「櫻庭さんのクラスの人、学校に来ていましたか?」
「はい。……いました」
部活に来てないってこと?でも……。あんなに音楽に
急な用事でもないと、来る! 姫香さんどうしたのかな?
出席が取り終わり、軽く吹いてみようということになった。一年生は初心者が多いから。 そのまま、吹奏楽部初日は終わった。
〇┃⌒〇┃⌒
私と梛は、今、校庭を歩いている。今日は部活はお休み。
「ファイルのすり替え犯人、見つからないね……」
「うん……」
おばあちゃんの曲、早く見つけないと!
肩に手を置かれた。誰だろう?
「っ………………!姫香さん、こんにちは~」
「こんにちは。久しぶり、と言うほどではないけど、久しぶり」
「久しぶりです!あの、昨日何で部活に来なかったんですか?」
「え?それはもちろん……音楽なんてこの世に必要ないからよ」
姫香さんが強く言う。氷のようにとがったものが、私の頭に鋭く刺さった気がした。姫香さん、そんな人だっけ?
「姫香さん……?音楽は楽しいですよ?」
「私の前で音楽の話なんて、しないでちょうだい」
え?今の言葉、何?怒ってたよね……!?何であんなに怒ってたの?
「なぎ、音楽好きなのに……。あんな言葉言われたら、傷つく……」
「うん…」
ヒュ――と風が吹く。
体からどんどん力が抜けた。
姫香さん、あんな言葉を言う
――ツカツカツカツカツカッ。
後ろからも姫香さんと同じような足音。不思議に思って振り返ると…
白いブラウスに鬼のパンツ姿の幽霊白髪少女だった。
そう言えば姫香さんの隣にいたとき、姫香さんの頭に手を置いていた。
もしかしてあれって、呪ってたの?
「ギャ―――ッ」 梛の悲鳴が校庭を包んだ。
美少女の雄たけびって、強烈!!!梛も『呪われた』と思ったのかな。
幽霊白髪少女がこっちに来ていた! 何で私達、狙われるの!?梛の手を引き、人生で一番速く走る。ああ、この日が百メートル走のタイム計測ならよかったのに!
あんまりなじんていない校庭をひたすら走る。
すると、私の手についているブレスレットが光輝きだした。おばあちゃんからのプレゼント。まるで
すると、後ろの梛の手のあたりも光り出した。
手には、私がつけているブレスレットと色違いである水色のブレスレットが付いていた。
少し色が薄れているのが私のブレスレットとよく似ている。
ぴかぴかと輝きが増していく。きれい……。私と梛が同じブレスレットをつけている。どうしてだろう。
「ゔぉ――――」
幽霊白髪少女が何やら叫ぶ。……まずい!そこは行き止まりだった。
後ろにはもう幽霊白髪少女がいる。どうしよう!?このままだったら呪われる!
私達は絶対絶命のピンチに追い込まれた。
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