第2話

 中学校に通い始めて2週間ほどが立つ。すでに多くの生徒が部活動を決め、なかには練習に参加している人もいるらしい。僕はいまだに何かをやろうという気にならなかったし、そのことを気にも留めなかった。地元の中学ということで学年やクラスのメンバーはほとんど変わらない。基本的には小学校の時仲良くしていた石田と仲村と一緒に行動し、ときどき他の人に話しかけられてはそれなりに返事をした。授業が始まって苦労するかと思ったけど案外大したことなくて拍子抜けした。小学校の延長線でそれなりの学校生活を送って、それなりに楽しくやっていた。

 体育の授業で短距離走をやることになった。体育の授業は2クラス合同で行う。今は3組と4組の合同授業だ。準備運動をして男女に分かれる。名簿順で2回ずつ走る、余ったら余った時間は走りたい人が走るというメニューらしい。一週目が終わり、2回目の僕の番ももうすぐ回ってくる。靴紐を結んでいる途中で回ってきて、慌てて結んだ。スタートの合図で走り出す。調子は悪くない。ペースが上がっていくにつれて目線が前に行く。辛く感じてくるはずの中盤以降、なぜか気持ちいいと感じた。あとちょっとでゴールという時に右足が何かを踏んで、左足が前にいかなくなった。体だけが前のめりになってバランスを崩す。そのまま地面に当たると同時に、膝に衝撃が走る。痛くて思わずうめき声が出た。少しするとみんなが寄ってきて声をかけた。恥ずかしさと痛さで逃げ出したかったけど、足が思うように動かない。膝から血が流れ出ていた。石田と仲村の肩を借りて保健室まで行く。

「歩くのしんどくない?おんぶしよか」

石田はそう言うけど、140センチ36キロの石田に頼むのは何か申し訳ない。保健室に行く前に冷水で足を洗う。冷たいし、染みて痛かった。保健室で診てもらうころにはじんじんする痛みがあるだけで、普通に動くようにはなった。診てもらったところ擦り傷で、とりあえず消毒と絆創膏で様子をみることになった。放課後また来て欲しいとのことで、次の授業から教室で過ごすことになりそうだ。次の授業まで時間があったので、保健室でゆっくりしていくことにした。さっき仲村が持ってきてくれた水筒に口をつけながら考える。怪我はしたけど走っているときは気持ちよかった。小さい時に味わったような感覚に近い何かだった。気のせいなのかな。考えても分からなかったので考えるのをやめて目を閉じた。

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