釣り

落差

1匹目

趣味は釣り。

大物が釣れそうなときのあの高揚感が、どうしようもなく好き。

少し雑めにセットした長い髪が、強い潮風になびく。前髪をかきあげ、小さくため息をつく。

比較的釣り初心者も来やすい人気な釣り場で、あえて人がたくさんいるところから少し離れて釣竿を投げる。これが私の釣りのポイント。

用意していた折り畳みの椅子を広げ、そっと腰をおろす。

バックから缶ビールを取り出す。カシュッ、という音を聞くところから、飲酒がはじまっているのだと思う。

缶を口に近づける。ごくり、と喉を鳴らすと、魚が近づいてきているのを感じた。

おっと、なかなか大物なんじゃない?

もう一度、さっきより気持ち小さめに喉を鳴らす。こつ、と缶を床に置くと、視線の先に大きい人影が落ちた。

今初めて気がついたという顔を用意して、見上げる。

茶色い鰭が太陽に照らされ、黄金に輝く大きな魚。

「オネーサン、調子どうですかー?隣でサオ出さしてもらっていーっすか?」

かかった。

少しきょとんとしてから、崩すように笑って応えてあげる。

どうぞー、という返事とともに、私は釣り上げる準備をはじめるのだ。


趣味は釣り。

大物が釣れそうなときのこの高揚感が、どうしようもなく好き。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

釣り 落差 @rakusa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る