第5話 〇〇の目覚め



――side レイラ



どれほど、眠っていたのだろうか?

私は、剣同士がぶつかり合う金属音と激しい振動により目が覚めた。



あの金髪の男、確か名前はロールケーキ?だったかに、地下に囚えられていた私は、とある儀式のためにとある場所に連れて行かれると、後ろから眠らされた。目が覚めた私は、手足を拘束され魔法陣の上に寝かされていた。



あの少年、ジークにここを抜け出す覚悟を決めたら、手を貸すと言ったのにも関わらず、今の私は変な儀式に巻き込まれ、これから自分がどうなるかもわからない状態だ。あんな大口を叩いておきながら、こんな様だ。彼に、合わせる顔がないと思っていると。



「なんだ、もう目覚めてしまったのか?……もう少し寝ていれば、苦しまずに死ねたというのに」



私が、ここにいる原因の張本人である金髪の男は、胸の辺りに真新しい大きな切り傷をおった男がこちらに歩いてきた。



金髪の男の発言から、私をこの儀式の生贄に捧げ、何かを企んでいることがわかった。手足を繋いでいる鎖を試しに引っ張ってみたが、びくともしなかったため、私は大人しく彼を睨むことにした。



「幼気ない女の子をこんな風に繋げて……もしかして、そういう趣味なの?」


「ふん。そんな目に据えた挑発に乗るとでも?」


「些か邪魔が入りもしたが、お前を殺し私は目的を叶えるのだ!」



金髪の男は自慢げにそう語ると、やはり目的は私を殺すことらしい。

しかし、邪魔が入ったということは、誰かがこの儀式を止めようとしてくれたということだ。「一体誰が?」と不思議に思っていると……



金髪の男は、思い出したようにそう言った。



「そういえば、吾輩の儀式の邪魔をしよったアイツは、貴様とは親しげにしておったのお……」


「アイツも、奴隷として吾輩に一生を捧げればよかったものを……」


「貴様を助けるために、自ら命を捨てに来るとは、生粋の馬鹿であったということか」



そうして金髪の男は、少し離れた場所を指さした。



「ッ!」



そこには体のあちこちから血を流し、血溜まりをつくって倒れているジークがいた。

男の話が本当ならば、彼は出会って一週間ほどしか経っていない私のためにこの家に逆らい、今にも息絶えそうな様子で倒れている。



覚悟がどうなのと言ったのは私だが、どうして、自分が危険にあう道を選んだのか。もしかしたら、この儀式の隙をついて屋敷から逃げ出す方が、よっぽど確率は高かっただろうに。



「あやつにしては、よくやったほうだろう。……が、所詮はその程度の奴隷だっただけという話だがの」



男の言葉に、私はさっきから何も話せないでいた。



「――さて、ここまで時間がかかってしまったが……最後に何か言い残すことはあるかのお?」



私は、死を受け入れるように目をつぶった。



彼は、私達のしてきた旅の話を聞かせると、まるで子どものように目を輝かせてくれた。両親を亡くし、奴隷として買われた彼は、ここを出て冒険をしたいと夢見ていたが、それは叶わぬものだと心のどこかで諦めていた。



そんな姿が昔の自分に少し重なって見えた。だから、彼にもただ諦めて欲しくなかった。



諦めかけていたはずの彼は、因縁の相手に立ち向かい己の過去と戦った。そして、私を助けるがために彼の未来を私が潰してしまった。



私を育ててくれた父にもう一度会いたいな、そして、私を助けようとしてくれた彼に、ジークにできることなら謝りたい。



「ふん。最後まで可愛げのないヤツめ」


「貴様は、吾輩の手で自らあの世に送ってやる!」


「精々、未来のこの世界の支配者になる吾輩の糧となるがよい!」



そう男が、剣を私に振り下ろしてきた。



私は死んだ。




と思ったが、いつまで経っても痛みが襲ってこない。それとも、痛みも感じずに死んだのかと思ってが、そうでもないらしい。



目を開けると、先程まで満身創痍で倒れていたはずの彼が、私を守るように男の剣を受け止めていた。



「──危機一髪だったな、レイラ」



と、振り返った彼は優しい顔で私にそう言った。



──時は少し遡る。










俺が目を覚ますとそこは、先程まで居たはずの儀式の場でなく、一面岩で覆われた暗い洞窟の中だった。



スネークに受けたはずの傷も体の痛みも、なんなら空腹感などといった欲求すら感じなくなっていた。



俺は、死んで天国か、はたまた地獄に来てしまったのだろう。

いや俺の場合、あの人たちとの約束も果たせず死んでしまったんだ、きっとここは地獄なんだろうと思っていると……



〘──小僧。貴様は、まだ死んではおらんぞ〙



重く威圧感のあるその声が聞こえ、俺は後ろを振り向いた。



そこには、暗くシルエットしか分からないが、巨大な影とふたつの大きな瞳がこちらを見つめていた。



俺は余計に混乱した、ここは何処で、目の前にいる存在は何なのか。



〘ここは、いわば貴様の精神世界じゃ〙


〘そして、今にも死にそうな貴様をこの世界で命を繋ぎ止め手おるのが儂だ〙



俺の心の中を読またような発言に驚いた。



〘何を驚いておる?言ったじゃろ、ここは貴様の精神世界だと〙


〘お前の考えとることなぞ、この世界じゃ、丸裸も同然じゃ〙



隠し事はできないのなら、素直に俺は、目の前の存在に対し気になることを質問した。



「あんたは何者で、なんで俺を生かしたままにしてるんだ?」


〘儂は、遶懃視縺ォ莉輔∴縺ヲ縺?◆蜿、莉」辟皮ォ懊う繧ー繝九せ……〙


〘ちっ。あやつめ、面倒な呪いをかけよって……〙



影が何かを言っていたが、まるでもやがかかったようにその言葉を理解することができなかった。影もまた、そのことに心当たりがあるようで愚痴をこぼしていた。



〘すまんな、小僧。今は、儂が何者であるかは話せんが、いつかは話そう〙


〘……そして、貴様を生かした理由だったな?〙


〘それは、貴様の父との契約だからだ〙


「父さんとの……?」



返ってきた言葉に、俺は困惑するしかなかった。なんで、父と知り合いなのかとか様々なことを聞こうとしたが……



〘すまんな、小僧。この話もまたいつかしよう、あまりこの世界に滞在することもできないのでな〙


〘端的に聞こう。おい、小僧。……力が、欲しいか?〙


〘あの女を助けて、あの屋敷から抜け出す力をお前は求めるか?〙



影のそんな言葉に、俺は一気に現実に引き戻された。



そうだ、俺が死んだらレイラも殺される。

レイラとは、知り合って間もないが彼女は諦めかけていた俺の背中を押してくれたんだ。あんな生活に絶望していた、俺に光を見してくれたんだ。



俺は、もう二度と後悔したくない。

だから俺は、立ち向かう覚悟を決めたんだ。



「俺は、もう二度と失わないために、俺の大切なもんを守れるだけの力がほしい!」


〘その覚悟……よかろう。お前が強くなれるよう、儂がお前の修行をつける〙


〘……が、今の貴様にはあまり時間がないのだったな〙


〘荒業だが、今から儂の記憶を一部送る。長年かけて、儂の魔力を馴染ませ続けた貴様ならば、ぶっつけ本番でも十分に戦えるであろう〙


〘だが、あまり時間は持たんと思え?長くても、3分。それまでに決着がつかなければ、貴様の負けじゃ〙


〘儂を後悔させてはくれるなよ?〙



その言葉と共に、俺の頭には影の記憶と思わしきものが頭に流れてきた。

そして、俺は現実世界へと意識を浮上させたのだった。











そして、今にもロレーヌに殺されそうになっているレイラとの間に一瞬で移動するとその剣を受け止めた。



「──危機一髪だったな、レイラ」



俺は、顔だけ振り向くとレイラにそう告げた。



レイラは、俺がなぜ動けているのか疑問に思うのと同時に俺を心配するかの様子だった。そして、俺に怒るように、また泣きそうな声でこう言った。



「今にも、死にそうなってるのに……もっと楽な道があるかもしれないのに……」


「なんで、そこまでして!私を、助けてくれようとしているの?」


「まだ出会って、一週間しか経ってないような相手なのに……どうして、そこまでしてくれるの?」



彼女は、俺の身を案じるように切実にそう訴えてきた。

そんなもの、答えは決まっている。



「俺が、もう後悔しないためだよ……」


「もう二度と俺の大切なものを失いために、俺は大切なもののために困難にも抗う!」


「それが、俺のだ!」



俺は、そう言い切った。



「それに、俺らもう友達だろ?また、お前の旅の話聞かせてくれよ!」



そう笑いかけると、レイラも先ほどまで悲しげだった顔は、涙を流しながら笑うように俺の言葉に頷いた。



「すぐ終わらせる。だから、そこで待ってろ」



俺は、今度こそ彼女を守り切るために、決着をつけるべくロレーヌ達と対面した。







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