第4話 ロレーヌの思惑
スネークと呼ばれる、その男は先ほどまで俺の後ろにいたはずのレイラのことを肩に担いでいた。
「な、いつの間に……」
多少は身体能力に自信があった俺は全くと言っていいほど気づけなかった。
「さぞ、不思議がっておろう?……なんせ、こやつは吾輩が直々にやっとた凄腕の殺し屋であるからのう!」
ロレーヌがそう語ると、さっきの兵士とは比べ物にならないくらい、俺との実力の差がありすぎると悟った。
「貴様の邪魔が入ったせいで、吾輩の計画が狂ってしまったではないか!」
「貴様は散々と苦しませて殺してやる!……やれ、スネーク!」
ロレーヌの指示を受け、スネークはレイラを地面に置くと、マントの中からククリナイフを取り出し逆手に持つと、俺との距離を詰めてきた。
「小僧、殺されても悪く思うなよ?……こちらも仕事なのでな」
「ッ、上等だ!お前を倒して、俺はレイラを取り返す!」
「フン、口では何とでも言える。が、すぐにその首を掻き切ってやる」
と、スネークはこちらに駆け出してきた。
確かに奴は、こと気配を隠すことにおいては軍配が上がるだろうが、マントからチラリと体を見た限りでは、先ほどの兵士たちよりも力はないと俺は考えた。
案の定、俺が奴の攻撃を正面から受けとも、怯むことはなく、なんならこちらが押していた。
「……凄腕の殺し屋といっても大したことがないんだな?」
俺は、変に警戒していたことを後悔し、スネークにそう言った。
そんな、俺と奴の武器がしのぎを削りあっていると、俺の言葉がおかしいのかもう片方のてで顔を覆いながら、笑ってきた。
「ククク、小僧。……貴様には私がそう見えるのか」
「……なにが、おかしいんだ!」
「確かに、貴様は、私が聞いた情報と先ほどの戦闘から、魔力量が多く、少し剣が扱えることはよく分かった……」
「しかし、貴様は高がその程度だということだよ!」
「戦いが、……力や剣技だけではないことを教えてやる!」
そう言い、俺から離れるとスネークは目をつむり集中し始めると、片手をこちらに突き出してきた。
「『
「魔法一つで、戦況なんていくらでも変えられるんだよ!」
と、魔法を唱えると奴の後ろには、九つの頭を持った蛇のような生き物が現れた。
「貴様に、私の魔法を止めれるかな?……やれ!」
スネークのその言葉と共に蛇擬きは俺の方に向かってきた。
一つ目と二つ目の頭は難なく切り落としたが、三、四、五……と続くその猛攻をいなし切れず、蛇擬きに体の至る所を噛まれた俺は、全身から血を流しながら地面に膝をついた。
所詮噛まれ、血を流しただけだとすぐさま立ち上がり、魔法を打った直後で油断していたスネークに一撃を与えた。
立て続けに、もう一撃加えようと剣を振りかぶろうとしたとき、俺は体に違和感を感じると膝から崩れ落ちた。
「ちっ、しぶとい奴め。私の魔法を無傷ではないとはいえ耐えきり、あまつさえ俺に一撃を与えるとは……」
「が、しかし、甘かったな小僧。私の魔法は、攻撃が当たった対象に毒の状態異常を付与する」
「その毒は、すぐお前の体中にめぐって、苦しみ悶えながら死ぬことになるだろう。……私に一撃を与えたお前を称賛し、今すぐ楽にしてやろう」
「さらばだ」と身動きの取れない俺に、剣を振りかざした。
「――待て、スネーク!……そ奴には、吾輩自らが手を下そう」
さきほどまで、俺たちの戦闘を黙って観戦していたロレーヌが急にスネークを制止し、俺に近づいてきた。そんな指示をうけたスネークは、少し残念そうにしながらも彼の後ろへと下がった。
近づいてきたロレーヌは、俺の髪を引っ張るように持ち上げ、心底愉快そうに顔を覗き込んできた。
「吾輩も、まさか貴様がここまでできるとは予測しておらなんだ」
「吾輩の邪魔なんてせずに、大人しく牢屋におれば死ぬまでこき使ってやったというのに。……まあ、もう遅いがの」
「んー、そうだのー……」
と考え込むような仕草をすると、俺を地面に投げつけた。
「あのスネークに一撃を与えたが決定打には至らなかった」
「もう死ぬしか道がない貴様には、吾輩の偉大なる計画を少し語ってやろう」
ロレーヌは、両手を広げ空を仰ぎながら、こう語り始めた。
「吾輩が、この計画をなすことになったきっかけは、亡きあの人の悲願をかなえるためだった」
『先代のお父様が亡くなってからというもの、まるで人が変わってしまったかのような様子ですし……』
その言葉に、昨夜のクラウドさんの言葉を思い出した俺は、ロレーヌに尋ねた。
「――あの人って、先代のニコルド家の当主ですよね?」
「ッ!……貴様が、父上を語るとは烏滸がましい!」
「が、まあ許そう。……父は、この世界を支配し、頂点に立つべき人であった!」
「あの忌々しき、アルスフィアの三大貴族どもがいなければ……!」
と、顔を歪ませそう叫ぶと、昔のことを語りだした。
ロレーヌの父、先代の当主ニコルド・ロベルトは、幼いころから神童と呼ばれるほど、才能あふれる人物であったらしい。
ロベルトの才能は、成長に連れどんどん頭角を現していった。そのおかげもあり、ニコルド家は貴族の中で大きく出世することになり、その名を世に轟かせた。
そんな、ロベルトの才能に目を付けた、アルスフィア大陸の”プロミネンス家”、
”アルバート家”、”ライオット家”、と呼ばれる三大貴族に呼び出されることになる。
なんでも、大陸に突如として現れた新しいダンジョンの攻略に力を貸してくれないかという話であった。ロベルトは、即断即決し自身の兵力を集めると、彼らと共にダンジョンへと向かった。
……しかし、ロベルトは帰ってくることはなかった。
剣術や魔術にも優れていた彼は、自分自身も兵士たちと共に前線にたち、ダンジョンを攻略している最中に亡くなったそうだ。
そうして、残されたのはロベルトの妻とその息子のロレーヌ、彼が積み上げた莫大な財産だけであった。
「――奴らは、才能あふれる父に嫉妬し、あろうことかダンジョン内で事故に見せかけて、殺したにちがいない!」
そう語ったロレーヌは、目が血走りながら唇を噛みしめそう言った。
「父を失った家は、年々目に見えて衰退の道を辿っていくところだった……」
「そんな時! 手を差し伸べてくださったのがあの方だった!」
「あの方は、
『亡き父の夢を叶えたくはないかね?……私ならばその夢を実現させれる』
とおっしゃってくれた。」
「そして、願いを聞くための条件を一つお出しになったのだ、……とある少女を生贄に捧げろとね」
「――それが、レイラだったわけか……」
「その通り」とロレーヌは頷いて見せた。
まず、あの方というのはいったい何者なのか?
どうして、レイラを狙っているのか?
仮に、レイラを殺したとして、あの方という人物は、どのようにしてロレーヌの野望を叶えるというのか。
考えれば、考えるほど謎が深まっていくばかりだったが、確かに決まったことが一つだけあった。
「……だったら、尚更、レイラを取り戻さねといけないな」
「ふん、まだ吠えるのか。もう、体の方はいうことを聞かないみたいだが?」
実際のところロレーヌの言う通り、毒が巡った体は麻痺して感覚がなくなりだして、瞼もだんだん落ちようとして来ていた。それでもと、必死に立ち上がろうと体を動かそうとしていた。
「――往生際の悪い!」
ロレーヌに蹴り飛ばされた俺は、地面に突っ伏した。
先ほどまで正気を保とうとしていた、緊張の糸もその衝撃で切れてしまった。
「貴様は、目の前でこの女が死ぬところを見ているといい!」
「……なんだ、もうくたばってしまったのか?つまらんのお」
と、最後にレイラの姿をチラリとみると俺は意識の底へと沈んでいった。
□
〘おい、小僧。……力が、欲しいか?〙
目の前には、そう問いてくる巨大な黒い影が佇んでいた。
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