第3話 彼女の元へ



あの後、さらに動揺をあらわにしていた俺のこと心配してくれたクラウドさんの誤解を解いた後、これ以上は明日の商談に響くといい、「体調にだけは気を付けるよう」と告げると帰っていった。



その後、俺はどうにかしてレイラに会おうと考え、ずっと頭を悩まし続けていたが、いつの間にか寝落ちしていたらしく、寝返りを打った時の壁に激突した衝撃で目を覚ますと、太陽が今まさに昇ろうとしていた。







「さて、どうしたもんか。レイラに会うためには、まずこの手錠と檻をどうにかしねーと、話にならんないよな」



そう問題はそこだ。ここから出る方法がないんじゃ、元も子もない。

初っ端から躓いてしまった、俺は牢屋の中で頭を抱えていると……



「――あ、あの!……お、お困りですよね?」



そんな、おどおどとした聞き覚えのある声が聞こえてくると、牢屋の前には、長細い布袋を両手で抱え、メイド服に身を包んだ、ピンク髪の少女が自信なさげに立っていた。



「マーレ?!……なんでお前がこんなところに?」


「じ、ジーク君に渡してほしい物があると、た、頼まれまして……」



目の前の少女マーレは、昔のとある一件で助けた時から、俺に懐いてくれている。

そして、昨日俺のために食事を準備してくれた張本人でもある。



「ひ、ひとまず、先に用事を終わらせますね」



マーレがそう言うと、俺の牢屋のカギを開け中に入ってきた。彼女は、手錠を解いてくれると、俺にその長細い袋を渡してくれた。



袋を受け取った俺は、以外にも重かったことに一瞬落としそうになりながらも、中身を確認した。中には、剣が一本入っていた。



「で、では、伝言を伝えますね……



『昨日のジーク君の様子から、ロレーヌ様と共にいた少女は知り合いのようですね?


君は、きっと彼女に会おうとすると考え、マーレ君の方に、君の助けをして欲しいと頼んでおいたのですよ。


彼女から受けっとったであろう剣は、もしもの時に使ってください。私も愛用している、鍛冶屋の商品なので性能は確かなはずです。


そして、どうかロレーヌ様が起こそうとしている悪事を止めてほしいというのは、欲張りすぎましたね……


兎にも角にも、君の覚悟と安全を願っています。』



と、クラウド執事長からです」



「クラウドさんが、そこまで……」



何から何まで、彼にはお世話になりすぎた。このお礼は、いつか必ず返そうと誓い、渡された剣を腰に下げると、牢屋から出ると改まってマーレと向き合った。



「マーレも、ありがとうな!伝言のことといい、昨日の食事のことも、本当は今すぐにでもお礼がしたいところなんだが……時間がなくてな」


「そ、そんなお礼なんて、ジーク君のためだったらなんでもしますよ!」


「……逆に私の方が、これから面倒ごとに巻き込まれる、ジーク君の手を貸すことが出来ず、ご、ごめんなさい。……せ、めてもの手伝いとして、陰ながらお助けします!」


「そこまでは大丈夫だけど、言葉だけでもうれしいよ。ありがとうな」


「あと男に、なんでもするなんて簡単に言わないようにな!」



「それじゃ」とマーれに告げると、頷く彼女の姿を背に俺はレイラを探しに走り出した。



牢屋から出た俺は、屋敷の外に出てあたりを見回すと、湖がる方向の森から怪しい雰囲気を感じ、そこに向かうと、案外簡単にも儀式の場所は見つかった。



その場所に入ると、奥には魔法陣が描かれた地面の上にレイラが寝かされていた。心配になった俺は、彼女に近づき息を確認し寝ているだけだと知ると、そっと胸を撫でおろした。



なんの儀式か知ったこっちゃないが、幸いロレーヌがいない今がチャンスだと思い、レイラを連れここから離れようと、彼女を担ごうとしたとき……



「――なぜ、牢屋の中におるはずの貴様がそこにおる!」



背後から、今一番会いたくなかった人物の声が聞こえてきた。



「さあ?なんでだと思います。……それより、レイラを利用して何を企んでるんだ?」


「奴隷の貴様がここにいるのは、まあよい。……しかし、なぜ今から死ぬ人間にそんなことを教えねばならない?」



と、不敵に笑うロレーヌは手を挙げると、彼の後ろ草むらから10人ほどの兵士が出てきた。



「さあ、お前たちあのガキを始末しろ!……そうだな、あいつの首を取ったものには賞金をやろう」



ロレーヌのその言葉に、目の色を変えた兵士たちは剣を片手に容赦なく向かってきた。鞘から剣を抜くと、向かってくる奴らに対し応戦の構えをとった。







突然だが、4つの剣のスタイルを知っているだろうか?


防御の意味をなさせない、正面からの圧倒的な火力を誇る、【剛剣】。

まるで一種の舞のように敵の剣を受け流し、カウンターを狙う、【柔剣】。

ただ愚直に剣の技を磨き、まっすぐに向かってくる、【正剣】。

人々が個人で独自に磨き上げた、唯一無二な技術をもつ、【変剣】。


そして、この世界には4つの内3つの剛剣、柔剣、正剣には各々の剣術の流派があり、それぞれ相性の良しあしがある。


グレイアット流の剛剣は、柔剣に弱く、正剣に強い

シェイクスピア流の柔剣は、正剣に弱く、剛剣に強い

ブリテン流の正剣は、剛剣に弱く、柔剣に強い


というように。

ただ、変剣は例外で、そのどの枠にも当てはまらず、まさにジョーカーといえるだろう。



〈世界の剣術本〉より抜粋







と、この屋敷で雑用の合間を縫っては、図書館の本を勝手に読んで、寝る前にそこら辺に落ちていた木で特訓して、得た知識や技術をフル活用し襲い掛かってくる兵士に俺は対応していた。



(こいつらの戦い方は、基本的に真正面から力任せに剣を振り下ろしてくる、グレイアット流!)



ならば、と一人の兵士が俺を捉えたと言わんばかりに攻撃してきたその剣を、流れる水のように受け流し、その兵士に攻撃を加えた。



「『反射ミラーカウンター(疑似)』」



シェイクスピア流の大本であり一番の基礎である技である。

しかし、ジークのそれは独学で学んだものであり、完成とはほど遠いものであった。そんな攻撃が通ったのは、彼の身体能力の高さと、兵士たちの剣の技量が低かったためであろう。



これなら、勝てると感じた俺は、一対一での戦闘を意識し、兵士たちの攻撃を見極めては、反撃するという戦いを繰り返し、30分後ようやく全員を倒し切った。



レイラを背に守るようにして戦っていた俺は、振り向き彼女の安全を確認すると、ロレーヌを見つめた。



「残りは、あなただけだ。……さっきの質問に答えてもらおうか?」


「ちっ、所詮は魔力も持たず、金で買収しただけの役立たずどもでは、これが限界か……」


「流石、吾輩が金を出しただけのことはある。奴隷の癖にはよくやったと誉めてやろう。」



と、俺の言葉を無視し、見下すようにそう告げるロレーヌの顔は、まだ自分が有利かのように余裕そうな面持ちだった。



「――スネーク。」



そう、ロレーヌが誰かの名前を呼ぶと、彼の隣にレイラを抱えた男が一人立っていた。


                  


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