人生万事才追うが馬

小狸

短編

 自分は天才ではない。

 

 少なくとも、アイディアが天から急に降りてくるようなタイプの人間ではない。

 

 泥臭く汗臭く、酷く醜く、頑張って努力して、それでようやく皆の普通の領域に立っていられるのだ。

 

 そう思い始めたのは、中学時代からだった。

 

 その頃から、僕は気付き始めていた。

 

 天才と、そうでない人との差を。

 

 中学時代、僕は田舎に住んでいた。


 県や日本のレベルで才がある人は、確かに僕の近くには何人かいた。


 そして大抵誰もが、環境に恵まれていた。

 

 家が大きいとか、両親が同じ才能を持っているだとか、習い事を幼い頃から始めるほどの金銭的余裕がある、家庭円満である、家はちゃんと帰る場所である――とか。

 

 どうしてそんなことを思ったのかといえば、僕はそうではなかったからだ。

 

 僕の家は貧乏で、両親は子どもを産んだことを常に後悔していて、彼らのストレス解消のはけ口であった。

 

 僕の親は、何か賞状を貰って来たときは、嫉妬で破り捨てるような人であった。


 僕から見ても、どうしようもなく子どもであった。

 

 天才は環境が作るのだ――と、その時思った。

 

 ここにいては駄目だと思ったし、もう気付いた時には取り返しがつかないと思った。

 

 大学は、親が嫉妬せず、それでいて世間体が悪くない程度の大学を選んだ。

 

 その頃、父は不摂生が祟って亡くなり、母も若年性の認知症で施設に入ることになった。

 そして、そうやく、自分一人で生きられる環境ができて。

 

 やりたいこと、したいことが何でもできる状況になって。

 

 しかし考えたことは、やはり「自分は天才ではない」ということだった。

 

 自分は、天才のように何かが降って来るタイプではない。


 少なくとも、そういう環境には恵まれなかった。


 だから、今まで書き溜めて、あらゆる新人賞に応募しまくった小説も、何の意味もない。

 

 もっと頑張らなければ。


 もっと努力しなければ。

 

 もっと精進しなければ。


 そう思って、僕は今日も、プロットを練る。

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