不死者転生、魔王の右腕
ルーシー
第一部 魔王軍拡大編
第一章 魔王軍入団編
第1話 プロローグ
かつて、人間領のほぼ全土を支配していた吸血鬼の魔王がいた。
しかし、人間の未来を憂いた女神によって、異界から勇者が召喚された。召喚された勇者は瞬く間に人間領を取り戻し、魔王軍を押し返した。勇者は魔王を討ち、危険視された吸血鬼は殲滅された。……が、女神の選択ミスにより、再び世界に吸血鬼が現れてしまう。
これは、史上最強の魔王と、女神に復讐を誓う吸血鬼の物語。
◇
「魔王様、戦争の状況ですが……」
「戦線維持が困難か」
「流石です。その通りです」
あぁ、やっぱり魔王ってのは物分りが良くて助かる。一生不自由なく暮らすなら魔王様右腕やるのが1番だよなぁ。
「世辞は要らん。お前が行け。勇者の相手はあの三人には早すぎた 」
「かしこまりました。ウィシュティッシュ砦の戦いに於ける勝利を魔王様に捧げましょう」
「フッ、期待している。お前に真の勇者殺しは不可能だ。今回は奴らの撤退が勝利目標だ、行け」
「ハッ」
魔王様の指示を持って俺は魔王城を飛び出し戦線へ向かう。
あぁ、この地位まで来るのにも運ってのは必要だな。魔王軍四天王筆頭にして魔王の右腕と称されるまで長いようで短い期間であった。それもこれも持って生まれた運のおかげ。
そういえばここに来るまで、あの日から数えてだいたいどれくらいだろうか。しかしそんなもの考える必要は無い。そろそろ本格的に人族を滅ぼすか。
◇
「おっす
「悠真か。いいぞ」
夕暮れ時、部活が終わった俺が帰り支度をしていると後ろから声が掛けられた。
悠真とは中学からの仲で中学の間は共にサッカー部に所属し全国大会を共に戦った。
俺たちの学校は中高一貫校なので二人ともそのまま高校に上がったが、俺は足の負傷で高校ではサッカー部に入らなかった。
悠真は校則が緩いのをいいことに髪を金髪に染め、制服なんてちゃんと着ていない。
それなのにモテるからイケメンってのは腹が立つよな。
「にしても弓道部ってのはデケェ声出すのな」
「あの矢声は弓道部のじゃないって言ってるだろ」
「ああはいはい。まーた自慢ですか。俺のファンが多すぎて女の子達が弓道部の代わりに声を出してると。はいはい自慢乙」
「すまんね。でもお前には可愛い可愛い彼女がいるじゃないか。それだけで幸せだろ?」
「まあな。それにしても桜杜はやっぱすげぇな。弓道始めて二年なのにもう全国まで行くなんて」
「お前こそ去年は一年生ながらスタメン獲得。学校開校以来初の全国制覇。その決勝戦でハットトリック決めるなんてな」
俺は高校二年になってから最初の大会で地区の大会を突破し全国大会への切符を手にした。
悠真は一年生ながらFWのスタメンとしての地位を確立し、全国制覇に導いた。もちろん大会得点、大会最優秀選手を受賞し個人含めて三冠王なんて呼ばれている。
「まぁでもやっぱ、桜杜のアシストを超えるパスは供給されねぇけどな」
「おだててもなんも出んぞ。お前はそろそろ県大会控えてんだろ。練習は程々にな」
「そっちこそ。ほんとはもうサッカー出来るんだろ? 気が向いたらサッカー部にでも来てく――」
……へ?
「ようこそ百鬼桜杜くん。おめでとうございます。君は勇者に選ばれました」
あれ、俺は今まで悠真と話してたはず……。それにここは?
周りをキョロキョロ見渡すが俺の知っている場所ではない。周りを見た最初の感想は「豪奢な空間だ……」である。そして俺の目の前には立派な王座のようなもの。そこに肩肘をついてニヤリと笑う美しい女。金色の長い髪に健康的な肌。翠色の目に儚げな顔。まさに女神と呼んで差し支えないだろう。夢か? これ
「ふぅん。頭も良くて顔もいい。おまけに性格もいいのね。まさに勇者にふさわしいわ。あなたを私の管理する世界に勇者として召喚するわ。私の世界はね、今人間の魔族が戦っているの。それで人間が劣勢になりつつあるから君を呼んだってわけ。詳しいことは君を召喚する国の人間に聞いて欲しいんだけど、安心して? 勇者は魔王以外には殺されないし、魔王は勇者以外には殺されない。君が魔王を殺してくれたらなんでも言うことを聞いてあげるわ。だから今から異世界に行ってね?」
は? 何言ってんだこの女。私の世界? 魔族? 勇者? 魔王?
「は? 異世界? なんすかそれ。寝言は寝てから言ってもらってもいいすか? それともやっぱり俺の夢かな、これでもさっきまで悠真と話してたし……」
もしここで俺が女の言うことを信じて勇者として召喚されれ俺の人生はまた違ったのかもしれない。しかし俺の態度がどうやら女の機嫌を損ねさせてしまったようで……。
「はぁ? 私に対してなんてくち聞いてるの? 死刑よ、死刑。あぁでも私の手は汚したくないしぃ~? あ、そういえばあそこに未踏破ダンジョンがあったはず。んじゃ、君はそこの一魔物に過ぎないスケルトンに転生ね。もちろん最下層に転移させてあげるから、ダンジョンボスに早く殺されて輪廻の輪にいきなさ~い。はい、行ってらっしゃーい」
ドスの効いた声が聞こえたかと思えば、何やら妙案を思いついたらしく、嬉々とした声で俺をダンジョンとやらにぶち込むらしい。
え? は? 俺は今落ちてます。俺が立っていた床がなくなり自由落下中。
――ドン!
気づいたらまーた景色が変わって背中から地面に突撃していた。周囲には砂埃? が舞うがここはどう見ても洞窟だな。まぁあの女もダンジョンとか言ってたし、多分洞窟で間違いないっぽい。
「良いっしょっと」
とりあえず仰向けになっていても何も始まらないので、膝に手を付き立ち上がる。……ん?
今しがた触れた膝と手のひらに注目すると俺の見知った身体ではなく骨が目に映る。
確かスケルトンとか言ってたしそういうことだよな。それに確か……。ッ!?
「もちろん最下層に転移させてあげるから、ダンジョンボスに早く殺されて輪廻の輪にいきなさ~い」女神の言葉を思い出す。ダンジョンボス……。
ふと、周りを見渡すとすぐに気づいた。この空間はとりあえずでかい。縦は多分サッカーのコートくらいあるし、横もそれくらいある。高さに関しては体育館なんて比にならないくらいでかい。暗くて天井まで見えないし。
そんでもって俺が落ちたところはこの空間の端っこも端っこだったことを自覚する。
そして忘れられない存在ダンジョンボス。一目見てわかった。あの骨のドラゴンだ。俺の本能が逃げろと警鐘を鳴らしている。しかしどうも様子が変だ。よく見るとドラゴンの前に人間らしき物が転がっている。
なんだあれは? それに骨のドラゴンも満身創痍と言ったところだし……。
「ふむ。誰かと思えばただのスケルトン……いや、ユニーク個体か。まあ良い
喋った! ドラゴン喋った!
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