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「次に、その形になれさせた泥の中に種を植えます」とひまわりはいった。

「種?」ジラはいう。

「はい。種です。『小さな心の種」と私は呼んでいます。もちろん、私が研究して、私が作り出したものです。幽霊の研究の一番の重要なものになります」

 ひまわりは言う。

 種。

 ……小さな心の種。

 それはつまり、心の源。命の源。

「実物はこれです」

 そう言ってひまわりは大きなぶかぶかの袖の中から一粒の大きな種を取り出した。

 その種は不思議な形をしていた。固い殻に覆われているひまわりの手のひらの中に納まるくらいの大きさの種で、ぴょこんとはねっ毛のように透明な色の小さな芽が出ている。種は淡い光を放っている。それは大きな宝石のようにも見える。種は小さな芽と同じように色はなく透明で、金剛石(ダイヤモンド)のようだとジラは思った。

 少しの間、その小さな心の種を手のひらの上にのせたまま、ジラに見せたあとで、ひまわりはその種をまた元のようにぶかぶかの袖の中にしまいこんだ。

「残念ですが、これをあなたに差し上げるわけにはいきません」とひまわりは言った。

「別にいいよ。あとで勝手にもっていくから」とひまわりの目を見ながらジラは言った。

「できるなら、どうぞ」とひまわりは言った。

 ジラはじっとひまわりの綺麗な青色の瞳を見つめる。吸い込まれてしまいそうなほど、澄んだ美しい青色。その青色の瞳の中にははっきりと左目に眼帯をしているジラの顔が(まるで鏡や、ガラス玉のように)映り込んでいた。

「種を植えたあとは水をあげます。この作業は基本的に植物を育てる場合と一緒です。植物と違うことは太陽の光を必要としないことと、それから与える水がとても清らなか『忘れられた砂漠の地下水』でなければならないこと。この二つだけです。もちろん、清らかであれば忘れられた砂漠の地下水でなくてもよいのですが、今のところ、発見されている同じような条件のほかの場所の水ではうまく幽霊は育ちません」とひまわりはいった。

「そうするとどうなるの?」ジラはいう。

「心と命を持った幽霊(ホロウ)が生まれます」とひまわりはいった。

 ジラは無言。

「ある日、種が芽を出して、幽霊は神様からその日、祝福されて、命を与えられたかのようにして、一人でに動き出します。まずは人間の赤ちゃんのように、泣き出します。それが種から芽が出たことを知らせる合図です。それから泣き止んだ幽霊は自我をもち、動き始めます。でも、それだけではまだ不完全です。幽霊(ホロウ)は心と命を持っていますが、それはまだ生まれたばかりの不完全な心と命です。心は教育を施すことで、成長し、完全なものになっていきます。命は栄養と運動を与えることで、しっかりとした形を持ちます。心とは、命とは、そうやって愛と時間と手間をかけて、ゆっくりと育てるものでしょ?」とひまわりはいった。

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