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 ひまわりの声のあとで、ずっと聞こえていたピアノの音が消えた。

 ジラは白い扉をゆっくりと開けた。(白い扉はとても簡単に開いた)

 その部屋は小さくて真っ白な部屋だった。

 その白い部屋の中には暖色のオレンジ色の光が灯っている。

 幽霊の城のいたるところにあったランプではなくて、その白い部屋の天井には暖色のオレンジの光が灯る小さなシャンデリアがあった。その明かりが小さな部屋の中をすみずみまで明るく照らし出している。

 床は真っ白な大理石の床だった。大きな丸い白いテーブルがある。背もたれのある白い椅子が二つ置いてある。部屋のすみっこには大きな鏡のついた化粧台がある。(香水や口紅などの化粧品が化粧台の上には置いてあった)

 それに閉じたままの白い窓枠の窓のそばには古いどこかの博物館にでも飾ってありそうな蓄音器がある。(蓄音機は沈黙している)

 その小さな白い部屋の中にひまわりの姿はなかった。

 小さな白い部屋の奥の壁には四角い長方形の形にあいた通路があった。ゆっくりと慎重に部屋の中を観察しながら、ジラはその長方形の通路を抜けてその横の部屋に移動をする。

 すると、そこにひまわりがいた。

 その真っ白な部屋には、大きなグランドピアノが置いてあった。

 そのピアノの椅子にひまわりはきちんとした姿勢で座っていた。

 そこからじっとひまわりはやってきたジラのことを見つめている。

 久しぶりにみる本物の(写真や映像ではない)ひまわりの姿に、ひまわりの甘く誘惑的な匂いに、……ジラは自分の心と体が、緊張で、恐れで、憧れで、あるいは支配によって、自分の意志とは関係なく硬直していくのがわかった。

 その真っ白な部屋の壁にはいつくもの仮面がかかっていた。

 何種類もの、いろんな時代の、いろんな地域の、伝統的な仮面があった。(その中には昔ひまわりと一緒に暮らしていたときに、どこかでみたことのある、ジラの知っている仮面もいつくかあった)

 いろんな表情の仮面。

 笑っているものや、泣いているものや、喜んでいるものや、怒っているものや、無表情のものや、真っ黒なものや、真っ白なもの、そんな人間の感情を表現したいろんな表情の、いろんな色をした仮面があった。

 そんな仮面のことをジラはかろうじて認識する。(スパイとして周囲の状況を把握する癖がジラにはあるが、それが目の前にいる美しいひまわりのせいで、うまく観察することができなかった)

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