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 ジラはそのまま螺旋状になっている階段をゆっくりとあがっていった。ところどころに七色の不思議な光の灯るランプがある。その螺旋状の階段はとても長くて、のぼっている途中でふと周囲の様子を眺めると上も下も螺旋状の階段しか見えなくなった。

 長い螺旋状の階段を上がり切ると、そこには扉があった。その扉をあけると、建物外に出ることができた。扉を開けた瞬間に、とても冷たくて強い風が吹いた。その扉の先には、幽霊のお城と同じ黒い色をした頑丈そうな石で作られているアーチ状の橋があって、そこからさっき中庭から見上げた幽霊の城の中心と呼ぶべきオレンジ色の明かりが灯っている高い塔のある建物まで移動できるようになっていた。

 ジラはアーチ状の石造り橋を渡って、高い塔のある建物まで移動をした。アーチ状の石造り橋の上ではずっと冷たくて強い強い風が吹いていた。橋の両側には手すりがあるが、日常的に使うにはとても危険な造りだと思った。(普段はこれらの施設は使われたりはしていないのだろう)

 高い塔のある建物までたどり着くと、そこはとても広い吹き抜けのある空間に出た。

 ジラがその吹き抜けの空間の床に足をつけると、天井と周囲の壁に明るいオレンジ色の暖色をした明るい光が一斉に灯った。その吹き抜けの空間は今まで見てきた幽霊の城の雰囲気とは明らかに違っていた。

 周囲の壁は真っ白でおおきくくりぬかれている。同じ色をした古代の神殿のような柱がとても高い天井を支えている。その天井にはオレンジ色の光が灯っている巨大なシャンデリアがあった。天井には不思議な巨大な絵が描かれている。……あれは、たくさんの天使たちの絵だろうか? するとその奥に描かれている雲の先に見える国は、天国だろか? ジラは上から下に視線を移動させる。広い円形の床の上には不思議な幾何学模様が描かれている真っ白な大理石の床が広がっていた。

 どこか神聖さすら感じさせる。とても美しい場所だった。

 そんな風景を見ながら、ここはまるで(天井の絵画にえがかれているような)天国のようだとジラは思った。すると今まで歩いてきた幽霊の城は(あるいは幽霊ホロウの街そのものが)地獄ということになるのだろうか?

 ジラは周囲を観察しながら、吹き抜けの空間の中心まで移動する。

 そこまできたときにふと、ジラはとても綺麗な音を聞いた。

 とても綺麗なピアノの音。

 ……誰かが近くでピアノを演奏している。

 その音は、ジラのいる吹き抜けの空間から、さらに上にある場所から聞こえてくるようだった。

 そこにはもう高い塔しかなかった。

 ジラはその吹き抜けの空間の奥に風の音とピアノの音と一緒に移動をする。(不思議なことに吹き抜けの空間の中では風はなぜかとても弱くなった)

 そこには高い塔まで、そのままのぼることができる階段があった。真っ白な薔薇の花の彫刻がされている階段だった。

 ジラはその真っ白な階段をのぼって、ずっとピアノの音に導かれるようにして、真っ白な階段の先にある小さな白い扉の前までたどり着いた。

 その白い扉には白い薔薇といばらの彫刻があり、獅子を象った黄金色の取手が付いている。ピアノの音はその白い扉の向こう側から聞こえてくる。

 ……ジラは小さく深呼吸をしてから、高ぶる気持ちを落ち着かせて、その黄金色の獅子を象った取手を持って、とんとんと小さくその白い扉をノックした。

 すると「どうぞ」と部屋の中から声がした。

 美しい声。

 とても、懐かしい声。

 その忘れることの絶対にできない声を聞いて、ジラは自分の心臓がどきどきと大きく高鳴っていることを感じた。

 その(ピアノの音よりも)魅力的な美しい声は間違えなく、ずっとジラが探していた世紀の天才マッドサイエンティスト浮雲ひまわり博士の(とても可愛らしい)一人の少女の声だった。

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