35 浮雲ひまわり ……愛は、この世界のすべてである。

 浮雲ひまわり


 ……愛は、この世界のすべてである。


 ジラは図書室のドアを(音もなく)開けて、幽霊の城の赤い絨毯のひかれた廊下に移動をした。(映像記憶室からでるとそこは本がたくさん保管されている大きな図書室になっていた)

 幽霊の城の中は薄暗く、大きな窓の外は真っ暗で、廊下のところどころに古風なランプの中に灯った七色の不思議な光が灯っているだけだった。

 ジラは最初、こそこそと暗闇の中や物陰に隠れながら、慎重に幽霊の城の中を移動していたのだけど、途中から馬鹿らしくなって、隠れることをやめてしまった。

 なにせ監視カメラも、警報装置も、警備員の姿も、罠(トラップ)のようなものも、どこにも確認することができなかったからだ。

 それだけではなくて、幽霊のお城の中には誰もいなかった。

 誰かたくさんの人たちがこの幽霊のお城の中で生活している様子も感じられない。(かすかに誰かが生活している様子はあった)

 メイドさんや執事のような人たちもいない。

 予想はしていたけど、どうやら本当に、この幽霊の城には(幽霊ホロウの街を探索したときも誰にも遭遇しなかったので、おそらく幽霊ホロウの街にも)生きている人間はきっとひまわり一人しかいないのだとジラは思った。ひまわりはここで一人で生活をしながら、自分の研究している自らが生み出した命である幽霊ホロウとだけ、一緒に暮らしているのだと思った。

「不用心だな」

 とはぁーとため息をつきながら、ジラは言った。

『確かに不用心ですね。でも、浮雲ひまわり博士っぽいとも思えます』とみちびきがいう。

 ……まあ、確かにひまわりっぽい、とジラは思う。(天才浮雲ひまわりは強者である。つねに逃げるものではなくて追いかけるもの、捕食者だった)

 それから幽霊の城の赤い絨毯のある廊下をどうどうと歩いて、ジラは途中にあった大きな両開きの扉を開けて、幽霊の城の中庭のような場所に出た。

 そこには双魚の彫刻の噴水があった。(植物はなにも生息していなかった)

 ジラは中庭の途中にある白いベンチの前で一度、足を止めて空を見る。そこからは中世のお城のような外観をした幽霊の城の高い塔のような最上階の様子を確認することができた。

 その高い塔のような場所にある部屋の窓には、ぼんやりとした淡いオレンジ色の灯りが窓越しに灯っている風景を見ることができた。

 おそらく、あそこがこの幽霊の城の主である、ひまわりの部屋なのだろうとジラは思う。

 ジラは再び中庭の中を歩き出すと、中庭の奥にある天使と悪魔の飾りのある七色の不思議な光の灯った古風なランプの付いている石造のアーチをくぐって、大きな両開きの扉を開けて、さらにその建物の奥の空間に移動をする。

 すると、そこには螺旋状になっている階段があった。

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