34 葬送曲 砂漠に響く獣たちの歌声
葬送曲
砂漠に響く獣たちの歌声
誰かじゃない。他人じゃない。君が決めるんだよ。君自身が決めるんだ。そのための心じゃないか。そのための命じゃないか。
夜の砂漠に、砂漠に住む姿の見えない獣たちの歌声が響いている。
それは獣たちの叫びであり、咆哮であり、嘆きであり、そして、獣たちの歌う歌声でもあった。
天を埋め尽くすほどの幾億の星々のしたで、三つ星みずあめは一人で、発掘士専用の防寒服を着て、砂漠の上に一人ぼっちで座り込んで、そんな幾億の星を、獣たちの歌声を聴きながら、じっと、見つめていた。(それは砂漠というよりは、どこか月の上にでもいるみたいだった)
透明な、大きなみずあめの青色の瞳(その瞳の中には人工的な幾何学模様が浮かび上がっている。それはみずあめがコンタクトレンズ型のコンピューターデバイスをつけている証拠だった)からは、やはり透明で混ざりっ気のない、純粋な悲しみを含んだ涙が、数滴、流れ落ちていた。
みずあめは宇宙飛行士がつけているような大きなガラスついたヘルメットをとった。
みずあめの青色の長い髪が、夜の砂漠に吹く風に揺れている。
みずあめはその左耳に星の形をした黄金色のイヤリングをしている。
真っ暗な夜の砂漠の大地の上を流れ星のような、光の線が、ちょうど地平線に沿って、真横に向かって移動している。
それは、もちろん星の光ではない。(地上には、星はない。星は夜空で輝くのだ)
それは巨大な(世界最大の大陸の半分の面積を占めている)砂漠の上を走っている『大陸横断鉄道の砂漠の上を走る長距離列車』の灯す人工の光だった。
「砂漠の上に鉄道を通す。どんなところにも、道を作り、ものを運び、人を運ぶ。人間のやることは、どこでも、いつでも、同じだね。戦争だって、またやるみたいだしね。それも、大きな世界戦争をさ。懲りずにまたね。きっと世界が本当に滅んでしまうまで、人間は戦争をやめたりはしないんだろうね」みずあめは言う。
砂漠の上にとても寒い風が吹いた。(発掘士専用の防寒服を着ていると言っても、夜の砂漠は寒すぎる。このままだと、私は風邪をひいてしまうかもしれない、とみずあめは思った)
それからみずあめは砂漠の大地の上に立ち上がると、夜の砂漠の大地の上を歩き始めた。
獣たちは今も歌を歌い続けていた。
その歌声は本当に美しい歌声だった。それは本当に、とても悲しい歌声だった。(まるで、この場所から世界中の夜の中に、あるいは世界の果てにある場所まで、その歌声が響いて、獣たちの悲しみが、祈りが届くようにして、聞こえているかのようだった)
……この砂漠に響く獣たちの歌声が、本当に世界中のあらゆる人々の耳にまで届けばいいな、とみずあめは思った。(そんな奇跡がおこったとしたら、戦争をとめることができるのかもしれないと思った)
「……ジラ。応答して。あなたは今、どこにいるの?」黄金色の星のイヤリングを触りながらみずあめは言う。返答はなし。それは言葉を言う前からわかっていた。
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