33
ジラはひかりのことを考える。
幽霊ホロウの女の子、可愛らしくて、優しくて、大きな瞳の中に星のある、水玉ひかりはたった一人であの小枝つばさの家に今もいる。
……一人で、ずっと孤独に、あの誰もいないからっぽの古い家の中でつばさが帰ってくるのをただじっと待っている。
そんなひかりもやがて、もしひまわりに新しい子ができて、今までの幽霊たちと同じようにいらないと言われて捨てられてしまったら、……あの暗い地下の世界の中で、ロストチャイルドになってしまうのだろうか? そんな考えたくもないことをジラは考える。
……これからきっと、ひかりやジラの前から姿を消してしまった、幽霊ホロウの女の子、小枝つばさがそうなるように。(想像もしなくないけど、そういうことなのだと思った。ジラは小枝つばさの綺麗な星のある瞳と可愛らしい顔を思い出す)
今までひまわりが作り出してきた、無数の幽霊(ホロウ)たちが、みんなそうなっていったように……。
いらないものは全部捨ててしまう。それはとてもひまわりらしい行動だと思った。私もきっと捨てられたのだ。ずっと昔に。ひまわりに。いらないと言われて捨てられた。私もあの子たちと同じなんだ。
みんなちゃんと心があるのに。
「心。心か。ねえ、みちびき、心ってなに?」
と銀色のイヤリングを指で揺らしてジラは言う。
『心とはあなたの内側に広がっている無限の広がりを持つ宇宙と同じ性質をもった世界のことです。それはジラ。あなたにはあって、私にはないものでもあります』みちびきはいう。
「みちびき。あなたに心はないの?」ジラは言う。
『イエス。はい。ありません。私の内側には『ただの空っぽな空洞(ボイド)』があるだけです。私には心はありません。私は浮雲ひまわり博士の手によって作り出されたプログラム。ただの人工知能ですから』と淡々とした口調でみちびきはいう。
「悲しいことを言うね」小さくなるように丸くなってジラは言う。
『悲しいという感情を私は理解することができません』みちびきは言う。(それはその通りだった。普段、みちびきはまるで本物の人間と同じようにジラと会話をしてくれるが、それはみちびきがジラにストレスを与えないためにプログラムとして学習をして、人間らしく演じているだけであって、みちびきは人の心や感情を理解して、会話をしているわけではなかった)
「私はひとりぼっちなの?」ジラは言う。
『はい。その答えはイエスです。私はここにいます。でも、本当はここにいません。ジラ。あなたはずっとひとりぼっちです』とみちびきは嘘を言わずに、いつもの口調で本当のことをそう言った。
「ごめん。ちょっとだけ泣く。時間を頂戴」ジラはそう言って静かに泣き始める。
復活するのに五分もかかった。
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