32
「よっと」
塞がっていた丸い隠し扉を開けると、そこはひかりに聞いた通りの場所だった。
幽霊の街の中央に建っている幽霊のお城の図書室の中だった。
図書室の中にある『映像記憶保管室』と呼ばれている場所。(その名前をジラはひかりから教えてもらった)そのなんでもないただの床のところに、その秘密の抜け穴は続いていた。(蓋をしめると、その穴は完全に消えてしまった。よくひかりちゃんはこの秘密の抜け穴を見つけることができたなとジラは感心しながら思った)
映像記憶保管室の中にはとてもたくさんの今となっては珍しい形をした古くて大きくて四角いテレビがたくさん置いてあった。
テレビはすべて真っ暗な画面をしていて、沈黙していた。(その風景はジラにお墓を連想させた。なんだかテレビが大きな墓石に見えた)
「ちょっと休憩」
と言って、物だらけの(おそらくはビデオテープや映画のフィルムだと思われる、たくさんの映像資料だった)部屋の中で少しだけ空間が開いている部屋の壁に背を預けるようにして床の上にジラは座り込んだ。(秘密の抜け穴は思っていた以上に、とても長い距離があった。この縦穴の中の梯子をのぼりきる作業はジラでも少し疲れるくらいに大変な作業だった。この長い梯子をいつものぼりおりしている、ひかりちゃんはすごいと思った。あるいは幽霊ホロウは体力においては、とても強い力をもっているのかもしれないけど)
世界は無音。
薄暗く狭い世界には、なんの音も聞こえてこない。
「……あの秘密の家をつばさちゃんは一人で最初から全部作ったのかな?」
と少しして、ジラは言った。
『そうですね。広い間取りが一つしかない、簡単な構造の家でしたけど、材料の調達も含めて、人工の放電現象のおこる、あの過酷な環境の中で、小さな女の子一人でそのすべてを作るには、少し難しいと思えます』みちびきがいう。
「あの家は、きっと、今までひまわりが地下に捨ててきた幽霊の子供たちの、……捨てられて迷子になったたくさんの子供たちの、ロストチャイルドたちの家なんだと思う」
目をつぶって、ジラは言う。
『ジラ。あなたが出会った、あの無数のロストチャイルドたちがあの秘密の家を作ったと考えているのですか?』みちびきはいう。
「うん。ロストチャイルドはきっと、幽霊ホロウの失敗作のことなんだと思う。捨てられて、忘れられて、幸せになれなかった幽霊たちが、その最後にたどり着く姿。幽霊はただ単にその最後に活動を停止させるのではなくて、ロストチャイルド(迷子)になる。まるで成仏できないまま、この世界を彷徨っている悲しい悪霊のように」
『それは幽霊(ホロウ)に心があるから、ですか?』
「あるいは、心と呼ばれているものの、似て非なるものがあるから、……なのかな?」
目をあけて、ジラは天井を見つめている。
『そのロストチャイルドたちが幽霊(ホロウ)であったときに作った家。だいだい捨てられた幽霊たちに受け継がれてきた隠れ家としての秘密の家。それが小枝つばさの暮らしている地下の秘密の家であるとジラは思っているのですね』
「そうだと思う。……悲しいけど」
ジラは言う。
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