30 尻尾の生えた人間 こらぽんこつ。ちゃんと動きなさい。

 尻尾の生えた人間


 こらぽんこつ。ちゃんと動きなさい。


 マゼンタ・Q・ジラは薄暗い縦穴の中にある鉄の梯子をのぼって、上に上に向かって移動をしていた。

 その秘密の抜け穴の存在をジラに教えてくれたのは、幽霊の水玉ひかりだった。

 ひかりはその抜け穴(とても深い縦穴だった)を通って、幽霊の街から地下の瓦礫の山のある場所にまでやってきた。

 そこでひかりはこの『空き家』を見つけた。

 誰かがこの場所に時間をかけて(瓦礫を材料として)作ったと思われる小さな秘密の家。

 そこには誰かがこの場所でひっそりと生活をしているような痕跡があった。(ものが動いていたり、なくなったり、あるいは、どこからひろってきたのか、増えたりしていた)

 ひかりはその誰かに会うためにたびたび一人でこの秘密の家を訪れた。でもその誰かと出会うことはどうしてもできなかった。(その誰かはひかりに見つからないように慎重に行動しているみたいだった)

 なのでひかりは心を込めて書いた手紙を置いておくことにした。

 ……あなたに会いたい、と書いた手紙。

 その手紙は次にひかりがこの家に来たときにはなくなっていた。

 その代わりに新しい誰か書いた手紙がその場所には置いてあった。(その手紙を見つけたときには、すっごくびっくりした)

 それはひかりの手紙を読んだ、この家に住んでいる誰かの書いたお返事の手紙だった。(とてもうれしかった)

 その子はひかりと同じ女の子で、そんな風にして、ひかりはその名前も知らない女の子と秘密の手紙のやりとりを始めた。

 手紙の内容はひかりの幽霊の街での日常を書いたものだった。(ひかりちゃんの普段の生活のことを知りたいと手紙に書いてあった)女の子もこの秘密の家での普段の生活を手紙に書いて教えてくれた。(その日にあったよかったこととか、うれしかったこととか、失敗してしまったこととか、悲しかったことなど、教えてくれた)

 その誰かとひかりは手紙のやり取りの中で友達になった。

 ひかりは自分の水玉ひかりという名前と九歳という年齢と自分が幽霊(ホロウ)であるということを手紙に書いて、友達の女の子に伝えた。

 でも、友達の女の子は自分の名前も、年齢も、正体も、決してひかりに教えてはくれなかった。(本当にごめんなさい、どうしても、ひかりちゃんに教えることができないんです、と手紙には書いてあった)

「その女の子の名前がつばさ。幽霊の小枝つばさちゃん」

 とジラに自分の友達の名前を教えてもらって、ひかりは言った。

「うん。たぶんだけど、そうだと思う」

 とにっこりと笑ってジラは言った。(その言葉には根拠があった。あのつばさににた白く輝く女の子はきっとこの自分の秘密の家に避難場所としてジラを導いてくれたのだと思った)

 ジラにはつばさがひかりに自分の正体を隠していた理由がなんとなくわかるような気がした。

 つばさはきっと捨てられた子なのだと思った。

 ひまわりにいらない子として、この地下のゴミ捨て場に捨てられた幽霊の女の子。そしてひかりはきっと今、ひまわりと一緒に幽霊の街で暮らしている、必要とされている幽霊の女の子なのだと思った。

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