29
……次の瞬間、とても眩しい光が世界を覆って、激しい(竜の咆哮のような)轟音が鳴り響いた。
「落雷?」
驚いて部屋にある大きな窓から、真っ暗な外に目を向けてまめまきは言う。
まめまきは自分のおぼろげな(かけて、失われた)記憶を辿ってみる。
ロストチャイドたちに囲まれたところまでは覚えている。……あのどす黒い感情も、(覚えていたくないけど、ちゃんと)しっかりと覚えている。
……でも、そのあとどうなったのか、まるで覚えていなかった。
つばさのような姿をした不思議な白く輝く小さな女の子を追いかけて走り続けていたことだけしか、覚えていない。
自分が手を伸ばして、その手が女の子に届かないことを見ていたところまでは覚えている。(あのとき、私は泣いていたのかもしれない)
「どうして私は生きているんだろう?」
一人言のようにしてまめまきは言う。
『それはあなたが命を持っているからです』銀色のイヤリングの中からみちびきが答える。
「それは、まめまきさんが『私の持っていない命』を持っているからです」とひかりが言う。
……私の持っていない命。
胡桃色のポニーテールの髪をしっかりと赤いりぼんで結んでから、まめまきはゆっくりとひかりを見る。
「命ってなに?」
まめまきはひかりに聞いてみる。
「『命とは輝きのこと』です」
と当たり前のようにひかりは答える。
その答えを聞いてまめまきはひまわりを連想した。
……ずっと昔、小さな子供のころのお話だった。まめまきはとても怖くなって、ひまわりに命ってなに? と聞いたことがあった。そのときにひまわりがまめまきに答えた答えが「命とは輝きです。真っ暗な冷たく無限に広い宇宙に輝く無数の孤独な小さな光です」という言葉だった。
ひまわりはいつものように、まるで本物の神様のように、わからないことばかりの救いを求める迷い子であるまめまきに(そのときは、胡桃まめまきという今の名前ではなかったけど)正しい答えを教えてくれた。(すくなくとも、子供のころのまめまきにとって、ひまわりの言葉はすべて世界で一番正しい答えだった)
部屋の外でまた、とても眩しい光が世界を覆って、とても激しい轟音が轟いた。
さっきまでは落ち着いていたのに。嵐が近づいているのだろうか? (それとも怒っているのだろうか? 私に出て行けといっているのだろうか?)
「まめまきさん。大丈夫ですか?」
と、とても心配そうな顔をしているひかりがとても優しい声でそう言った。
まめまきは最初、そのひかりの言葉の意味がよくわからなかった。(いったい、なにが大丈夫ではないのだろう?)
でも、少ししてひかりの言葉の意味がよくわかった。まめまきは自分が泣いていることに気がついた。
白い指で頬を触ってみると、そこには確かにまめまきの流した大粒の涙のあとがあった。
「ごめん。大丈夫だよ。ひかりちゃん」
と小さく笑ってまめまきは言った。
……でも、本当は全然大丈夫ではなかった。
まめまきは激しく(本当に久しぶりに)混乱していた。
……それはきっと、思い出した昔の、あのずっと求め続けていたひまわりの輝くような明るい笑顔のせいだと(ずっと、泣きながら)まめまきは思った。
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