第39話:手合わせ

 翌日。


 俺たちは、王宮の近くにある王国騎士団の本部に赴くことになった。


 今朝、騎士団の使いの人が宿まで手紙を届けてくれ、ここに来るようお願いされたのだ。


 王国騎士団はミスト王国全体の治安維持を担う、王宮直轄の組織。外国との紛争など有事の際の出動から、王国内の内紛、対魔物における緊急事態や、災害救助などかなり守備範囲が広い。


 王都を守る衛兵を日本における都道府県警察だとすれば、王国騎士団は自衛隊のような組織だと捉えるとわかりやすいかもしれない。


 王都の本部では各支部へ伝える計画の立案や予算管理といった中枢を担っており、実働部隊の人間も地方支部より練度の高い者が揃っている。レベルの高い訓練設備や治療院も完備されており、大手クラン以上に環境には恵まれている。


 俺は冒険者志望だったため、騎士団への入団は一切考えていなかったが、俺の母校であるウェールス冒険者学院の卒業生の優秀者も多く入団している。


 昨日の相談時にギルドマスターのグレイヴさんが言っていた通り、協力するにあたり、騎士団を交えて細かな認識合わせをすることになったのだ。


「ここが騎士団の本部……近くで見るのは初めてだわ」


「き、緊張しますね……!」


 王宮の近くに広がる厳重に警備された要塞を前にして、ミリアとリーシャは少し気圧されているようだった。


「二人はここに入ったことはないのか?」


「ないですね。勇者と言えども部外者でしたから、用もなく入れません」


「同じね。大手クランの冒険者なんて、ただの民間人だもの」


「なるほど」


 実は、俺は内部の勝手を知っている。『Sieg』のシナリオの中で騎士団本部の描写があった関係で分かるのだが……この感じだと知らないフリをしておいた方が良さそうだな。


 そのようなことを考えながら、門の前で部外者が入らないよう見張っている守衛の前二人の前へ。


「……っ! レイン様方ですか⁉︎」


「え? ああ」


「お話は伺っております。一応お手紙の方を拝見しても?」


「これか?」


 俺は、ポケットの中に入れていた手紙を守衛に見せる。


「結構です。ありがとうございます。では、ご案内いたします」


 守衛の一人が案内してくれるようで、俺たちは後ろをついていくことに。


 広大な敷地に聳え立つ建物の一室。


「レイン様方をお連れしました」


 守衛が扉の向こうへ伝えると、『開けてくれ』という声。


 声の指示に従って扉が開けられ、中へ入るよう促された。


「それでは、私はここで失礼いたします」


 ここで守衛とはお別れになり、俺たち三人は部屋の中に。


 部屋の中は、大きなテーブルと椅子がある広い空間。会議室のような雰囲気だった。


 ギルドマスターのグレイヴさんと、高級そうな銀色の鎧を来たおじさんの二人が部屋に入ってきた俺たちを見ていた。


「よく来てくれたね」


 話しかけてきたのは、銀鎧のおじさん。


 この人が、昨日グレイヴさんが言っていた騎士団の人なのだろう。極秘事項が伝わっているということは、かなり上の役職だろうか。


「彼は王国騎士団の副団長、ジャンだ。君たちのことや、昨日話してくれた件は既に伝えてある」


「今は騎士団長が出払っていてね……。緊急事態ということで、俺が王都防衛に関する仕事を任されているんだ」


 確か、シナリオでは現在、俺たちがいるミスト王国は隣のエアリス帝国と一触即発の緊張状態にある。騎士団は団長を含め防衛のため多くの戦力を国境近くに敷いており、王国内は手薄な状態。


 その隙を突いて『黒霧の刃』は内乱を仕掛けようとしたわけだが——まあ、今重要なのは、現状副団長のジャンさんが事実上の騎士団の頭だということだ。


「なるほど。えっと……俺がレインで」


「ミリアです」


「リーシャよ」


 グレイヴさんが既に俺たちのことは伝えてくれているとのことだが、念の為名乗っておく。


「昨日グレイヴから話を聞いてから一晩考えたのだが、現状の戦力で王都の有事を乗り切るには君たちの案に乗るのが最善だと判断した。ぜひ協力願いたい」


「ああ、もちろんだ。そのつもりで来ている」


「当然ながら君たちの計画が上手くいく前提で作戦を考えたいのだが……仮に完璧に計画が成功し、ジルド一人が相手という状況になっても奴はなかなか難敵でな」


 まあ、確かにそうだ。


 俺の記憶が正しければ、ジルドは剣士、魔法師、付与術師のトリプルジョブを持つ。正確には、ミッションを達成して全属性解放をする前の人間は職業が確定していない。全員が『ノービス』と呼ばれる自分探しの期間に設定されているため、訓練次第では何者にでもなれる状態。


 あくまでもステータスとしての職業は『ノービス』だとしても、役割としては剣士だろうと、魔法師だろうと、付与術師だろうと自由に名乗れるというわけだ。


 ジルドは、単属性の冒険者の中では最強と言って良く、難敵には間違いない。逆に言えば、個人として強大な力を持つからこそ、強力な能力を持つ冒険者たちをまとめ上げ、小さなクランをここまで大きく出来たとも言える。


「そこで、レイン君たちにも戦力として対ジルド作戦に加わってもらいたいと思っている。もちろん、十分な報酬は支払わせてもらうつもりだ。どうだろうか?」


 俺たちは顔を見合わせる。


 二人も問題ないようだ。まあ、最初からジルドたちとは戦うつもりでいたわけなので、何も変わらない。しっかりと報酬がつくことが保証されただけ得したとも言える。


「問題ない」


「協力感謝する。……だが、いくら君たちが強いとは言っても、どのくらいの戦力なのか把握しておかないことには作戦を立てづらい。そこでだ、今から少し私と手合わせ願えないだろうか?」


 ああ……なるほど。


 今日、俺たちをわざわざここまで呼び出したのはこれが理由か。


 おそらく、ジャンはグレイヴから聞いた俺たちの話を疑っている。元勇者のミリアや『黒霧の刃』最年少幹部のリーシャ……肩書きは十分だが、その目で見るまで完全には信じられないのだろう。


 ミリアとリーシャはともかく、俺なんて経歴はウェールス冒険者学院を卒業した直後だしな。


 まあ、簡単に納得されるよりは疑ってかかってくれるくらいの方が安心できる。嘘偽りのない実力を見せるだけで信頼を得られるなら簡単なものだ。


「分かった。すぐにやろう」

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