第32話:ランクアップ
◇
真っ赤な夕焼けが差し込む頃、ようやく王都に戻ってこられた。
『黒霧の刃』の件はともかく、まずは今日の依頼の報告だ。
ギルドカードを取り出し、ギルドの受付へ。
すると、受付嬢は、俺たちを見るなりカウンターから出てきた。
「あっ、レインさん。昨日は大変なことになってしまったようで……お力になれずすみません」
「いやいや……君が謝ることじゃないよ」
おそらく、昨日の勾留の件は状況からして、『レッド・ドラゴン』の件で決裁処理の段階で怪しまれ、ギルドマスター、グレイヴ主導でなされたもの。
一介のギルド職員に何かを変えられたわけではないだろう。
「それより、直轄案件のことで達成報告をしたいんだが」
「はい! お話は伺っております。こちらへお越しください」
受付嬢は、冒険者立ち入り禁止の職員用スペースに招いてきた。
俺たちは、案内されるままついていき、程なくしてギルドの奥の一室に到着。
「この先でマスターがお待ちです。それでは、私はここで失礼します」
「ああ。案内ありがとうな」
受付嬢が仕事に戻った後、俺たちは部屋に入った。
部屋の中は広い造りになっており、オフィスの会議室のような雰囲気。
「……⁉︎」
思わず驚いてしまった。
部屋の中央にある机の上に大量のジュエルが積み上げられていたのだ。
いったいいくらあるんだ……? この量だと二千万ジュエルは下らないよな……?
「レイン君、こちらへ」
初めて見る大金にビビっていると、中にいたグレイヴさんに声を掛けられた。
「お疲れ様。ギルドカードを」
言われて、俺たち三人はギルドカードをそれぞれ差し出した。
ギルドカードを受け取ったグレイヴさんは予め用意してあった手元の書類にポンポンと判子を押し、サラサラとサインを書く。
その後、金色の派手なカードを渡された。
「おめでとう。これにて昇給試験は完了だ。これがAランクのギルドカードね」
「え、ちゃんと確かめなくていいのか?」
確か、魔物の討伐記録を確かめるには専用のリーダーに通す必要があったはず。少なくとも、普段の依頼ではこのようにしていた。
「いいんだ。直轄案件は入力に手間がかかるのでね。それに、君たちがしょうもない嘘をつくとも思えない。実力に関しては、『レッド・ドラゴン』を持ち帰った時点で疑いようがないしね」
「なるほど」
まあ、実際偽りなく依頼をこなしてきたので、どちらでもいいか。
「すごい……金色です!」
「重厚感があるな」
ミリアは目をキラキラさせて無邪気に喜んでいる。
そういえば、勇者には身分証はあっても、特にギルドカードといったものはなかったな。
ともかく。こうして、俺とミリアはAランクにランクアップすることができた。
「ああ、それと。机の上に『レッド・ドラゴン』の買取代金を用意してある。量が多ければギルドで保管しておくが——」
「えっ、この金ってその件なのか⁉︎」
「ん? ああ。昨夜に用意できず悪かったね」
そういえばまだ受け取っていなかったが……まあ、タイミングなんてどうでもいい。
問題は金額だ。確か、査定してもらった時は二千万ジュエルの見積もりだったはず……。
「いや、こんなに受け取っていいのか? 見積もりの時より増えてる気がするんだが……」
「ああ、そっちの話か。うむ、うちの職員が誤ってあまりにも低い査定を出していたものでね。私の方で調整させてもらったんだ。確かに、以前の『レッド・ドラゴン』の売買記録を参考にすれば二千万ジュエルが適当なのだが……今回のものはかなり状態が良かったものでね」
……なるほど、そういうことだったのか。
一瞬、ミリアの地位や昨日の騒動と関係があるのかとも思ったが、それに関してはあまり関係がなさそうだな。
「どちらにせよ、ありがたい。金に関しては持ち帰るよ」
冒険者ギルドは、銀行のような機能も持っている。ギルドカードに預け入れ記録を入れてもらえば、王国内のどのギルドでも自由にジュエルを引き出すことができる。
ジュエルは大金になると重くて嵩張るので、普通はこの金額になると預け入れるのだが——
「なっ……! そんな魔法は初めて見たよ。すごいな……!」
「……ハハ」
俺はアイテムボックスを使えるので、大金だろうと関係ない。
冒険者ギルドであろうと絶対に破綻しない保証はないし、自分で持っておけばいつでもどこでも自由に引き出せるというメリットもある。
「それより、『黒霧の刃』に関してはまだ何も動きはないのか?」
「確かに、それ気になります!」
「私も気になるわ。古巣のことだし」
俺は前世の知識により今日が決行日だということを知っているのだが、この世界の俺が今知っているべき情報ではないのでこのような尋ね方になった。
ミリアとリーシャも俺の設定に合わせてくれている。
「それに関してなんだが……実は、今夜かもしれないという情報が入ってきている。『黒霧の刃』には、うちのギルドも協力してスパイ冒険者を数名送り込んでいるんだ。昨日の幹部から各パーティリーダーに伝えられた具体的な指示通りなら……とのことだが」
グレイヴさんの表情は強張っていた。
おそらく、不安を抱いているのだろう。王都を防衛できるか——は当然として、どれだけの被害が出るか想像もつかない。
「大丈夫そうなのか? 俺も『黒霧の刃』から内定をもらってた立場だから、ある程度あのクランに関しては知っているつもりだが……かなり強いと聞く」
「……どうにかするしかないさ」
まあ、そりゃそうだ。
緊急時には管轄内の冒険者から敵と戦う有志を集め、その指揮を執らねばならない立場。
逃げられない以上は、このように言うしかない。
——さて。狙い通り自然に『黒霧の刃』の戦力不足に関して引き出すことができた。
言い出すなら、今のタイミングしかない。
俺は、ミリアとリーシャの二人とアイコンタクトを取ってから提案した。
「もし良ければ、俺たちにも防衛の協力をさせてくれないか?」
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