第30話:モンスターハウス
そんなことができるのか⁉︎
普通なら、冒険者ランクはFから一段階ずつしか上がっていかない。移動時間の関係で一日にこなせる依頼の数は現実的に制限があるので、少なくとも半年以上の時間短縮になる。
ギルドマスター、グレイヴが想定する依頼の難易度はわからないが、俺たちの実力を考えれば、特に断る理由はなさそうだ。
俺たち三人は互いに顔を見合わせ、頷く。
「ぜひお願いします!」
◇
——ということで、特別にもらった依頼は、ノーブル山の頂上近くにある通称『モンスターハウス』の一掃。普段はAランク冒険者に定期的に依頼している案件らしい。
『モンスターハウス』とは、様々な種類の魔物が高密度に集まる場所を指す。『様々な種類』というのがポイントで、群れの巣など同一種の魔物が集まる場所をこのように呼ぶことはない。
魔物の強さ自体はBランク冒険者でも倒せる程度とのことだが、数が多いためAランク指定になっているそうだ。
要は、Aランクに相応しい実績があれば、ギルドマスターの権限で特別に飛び級合格させることができる……ということらしい。
と、まあそれはともかく。
まだ時間が夜のため外は真っ暗。依頼は日が上ってからになるので、出発まで身体を休めておこうということになったのだが——
「今晩はミリアの部屋に泊めてもらえないかしら」
と、リーシャが話を切り出した。
「私が昨日まで泊まっていた部屋はギルド名義で借りていたの。依頼が終わって街に戻ってから改めて部屋を探せば良いと思っていたのだけど……」
「この時間だともう今夜の受付は締め切られちゃってますよね」
「そうなのよ。宿代は半額出させてもらうから……ね、お願い!」
両手を合わせて、ミリアに頼み込むリーシャ。
ミリアは、困ったような表情でチラッと俺を見てきた。……助けを求められている気がする。
「ダメ……?」
「ダメというわけではないですし、野宿させるわけにはいかないのですが……」
ミリアが渋っているのは、おそらく他人を部屋に入れたくないとかではない。
「リーシャ、落ち着いて聞いてくれ」
「?」
「俺とミリアは同じ部屋に泊まってるんだ」
「ええええええっ⁉︎ や、やっぱり二人はそういう関係だったってこと⁉︎」
何を勘違いしたのか、興奮するリーシャ。……変な目で見られている気がする。
「違う。昨日は一部屋しか取れなくて仕方なく……な」
「なんだ、そういうことね」
なぜガッカリされなければならないのか?
まあ、いいか。
「ということで、あの部屋に三人となるとかなり狭い。色々とリーシャに抵抗がないなら泊まるのは構わないが……どうする?」
「私はこう見えて、どこでもぐっすりできるの。全然問題ないわ! レインとミリアには悪いけど……お邪魔してもいいかしら?」
どちらかというと、狭さに関してよりも俺がいることにことに関して問題がないか尋ねたのだが……まあ、気にしていないようなら問題ないか。
「分かった。じゃあ、それでいこう」
「お泊まり会ですね!」
ということで、今晩はリーシャも加えた三人で泊まることに。
俺としては、リーシャもミリアと甲乙付け難いくらいの美人なので雑念のやり場に困るのだが……戦いの前に野宿させるわけにもいかない。
やれやれ。こればかりは仕方がなかった。
◇
こうしてしっかりと身体を休めた俺たちは、昼前に王都を出て現場のノーブル山を目指した。
ここ最近は何度もここに通っているはずなのだが、この狩場は場所によって出てくる魔物や景色が大分変わるので
、なかなかいつも新鮮な気分を感じられるな。
ゲームでは穴が飽きるほど見た景色ではあるのだが、この目で見るとまた違った感動がある。
「よし、ここだな」
「本当に一歩向こうは魔物だらけなんですね……!」
ミリアの言う通り、見えない線の一歩向こうには様々な種類の魔物が犇いている。
ゲームでは境界線の一歩向こうを境に大量の魔物がいることに違和感はなかったが、確かにこうして目の前にするとなかなか奇妙な光景だ。
魔物の種類はやはり様々だ。硬質な毛皮が光の反射によりキラキラして見えるクリスタル・ウルフ。蛇の魔物の中でも強く、闇魔法を扱えるダーク・スネイク。昨日倒したゴーレムの上位種であるロック・ゴーレム。
数が多いのはこの辺りだが、他にも細々とした大量の種類の魔物が共生している。なかなかカオスな場所である。
どの魔物もCランク程度のソロ冒険者では瞬殺されてしまう強敵。
これを全て倒さなければならない。
「リーシャ、ここから魔法でなるべく数を減らせればと思うんだが……」
「そのくらいお安い御用よ」
「それは分かってる。ギリギリで倒さないようにするとかってことはできるか?」
「え? 手加減しろってこと? どうして?」
まあ、かなりイレギュラーなことをしようとしているので、わからなくても仕方ない。
「魔物から得られる経験値っていうのは、生命力と相関しているんだ。つまり、リーシャに魔物の生命力を削ってもらい、俺が回復する。そうすれば、一度に大量の経験値を得られる」
「……レインって、えっぐいこと考えるのね。っていうか、そんなの初めて知ったわ」
まあ、この世界では知る限り俺以外に全属性の回復術師は存在しない。単属性回復魔法しか使えなければ、魔物を回復させるなんて効率の悪いことをしようとは思えなかったのだろう。
「できるか?」
「当たり前でしょ? 強敵を倒せて二流、手加減できて一流よ! 任せなさい!」
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