第28話:悪魔の証明

 は……?


 どういうことだ? 大勢集められた戦力は、俺たちを拘束するためってことか?


 でも、何のために? ……分からない。何も心当たりがない。


「何かの冗談ってことは……なさそうだな」


 ギルドマスター、グレイヴの目を見れば、本気だということだけは分かった。


「我々王都ギルドと騎士団では、『黒霧の刃』について、とある不穏な情報を掴んでいる。突如現れたエリアボスをも倒してしまう強力な冒険者。件のクランから脱退した冒険者。確証はないにせよ、不穏分子は徹底的に調べさせてもらう」


「……⁉︎」


 『Sieg』で『黒霧の刃』がクーデターに失敗したのは、政権側の調査により計画がバレてしまい、徹底的に対策されていたからだった。


 そうか……! シナリオでは、街の中でリーシャの暗殺に失敗したレイヴンとルーガスは捕らえられ、洗いざらい白状した。これによって、リーシャは疑いを晴らせたんだ。


 だが、俺が関わったことによって今やシナリオはややこしいことになってしまった。


 デリケートな状態の中で突如『強すぎる』冒険者が現れ、『黒霧の刃』の元幹部であるリーシャとなぜかパーティを組んでいる状況……確かに、怪しまれて当然だ。


 エリアボスを倒したことで目立ちすぎてしまった……ということか。


 だが、俺たちは本当にクーデター計画には何も関わっていない。


「誤解だ。俺たちは『黒霧の刃』とは何も関係ない!」


「そうよ! 心外だわ!」


 必死に主張してみるが——


「ふむ、突然取り囲まれたにしては冷静だな。ますます怪しい。関係がないかどうかはこちらが判断する。——拘束して、地下まで連れて行ってくれ」


 クソ……原作知識を持っていることが裏目に出てしまった。いや、知らなくても状況が好転したとはとても思えないが……。


 さて、どうするか。


 無理やり突破して逃げることもできるが……余計に怪しまれてしまうだけだよな。


 ……やれやれ。仕方がない。


 ここは大人しくグレイヴの要求に従うとしよう。


 何もやましいことはないのだから、潔白を証明するのが一番手っ取り早いはずだ。


「レ、レイン……」


 不安そうに俺を見てくるミリア。


「大丈夫だ。すぐに誤解だって分かるよ」


「だといいのですが……」


 こうして、俺たちは銀色の枷——魔力の使用を阻害する魔道具——をつけられ、冒険者ギルドの地下へと連行されたのだった。


 ◇


 俺たち三人はバラバラの牢に入れられることになった。


 魔道具による青白い照明以外には、一切の光が入らない空間。『Sieg』はかなりやりこんでいたが、まさか冒険者ギルドの地下にこんな空間があったとは知らなかった。


 ゲームとこの世界が完全に一致しているとは限らないが、仮に一致しているとすれば、ゲーム内でもマップ上は存在していたのかもしれない。


「レイン、時間だ」


 衛兵に名前を呼ばれた。


 この空間では時間の感覚が分からない。


 順番にギルドマスターのグレイヴが尋問するらしく、ようやく俺の番になったらしい。


 衛兵に連れられ、尋問室へ。


 部屋の中には机を挟んで椅子が二脚だけ。


 衛兵が部屋を出て行ったため、俺はグレイヴと二人きりで向かい合う形になった。


「それで、白状する気になったか?」


「白状って、何をだ? 俺たちは『黒霧の刃』とは何の関係もない」


「ふむ。なかなか強情だな。どこまで保つか見ものだな」


「本当のことだからだ。神に誓って嘘はついてない」


「嘘つきはみんなそう言うんだ」


 どうやら、何を言っても信じてもらえないようだ。レイヴンはハナから俺を疑ってかかっているから、いくら知らないと言っても意味はない……か。


 とはいえ、潔白を照明する証拠なんて出せるはずもない。


「先に尋問したのがミリアかリーシャか知らないが、何も怪しいことはなかったはずだ。何も知らないんだから当然だけどな」


「確かに、君の言う通りリーシャ君の発言に引っかかるものはなかった」


「なら——!」


「だが、それだけで潔白だと断定することはできない。もし仮に君たちが本当に無関係だとすれば申し訳ないが、我々としても王都の民の命を預かっているわけでね。治安問題に関しては慎重すぎるくらいでちょうど良いんだ」


 確かに、このくらい厳しい方が頼りにはなる。


 だが、無実の身としては迷惑以外の何物でもないのだ。


 その後、俺はひたすらレイヴンから『黒霧の刃』の計画について尋ねられ、知らないと答え続けるやりとりを数時間繰り返した。


「まあ、今日はこの辺にしておこう」


「今日は……?」


「潔白が証明されるか、あるいは君たちのうち誰かが吐くまで続けるのさ。当然だろう?」


 いや……それ、何日続くんだよ。


 下手したら何週間……何ヶ月……いや、実際には『黒霧の刃』のクーデターが実行され、関係者が捕まれば俺たちの無実は証明されるか。


 にしても、それまで拘束され続けるのはキツすぎる……。


「吐けば楽になるぞ?」


「だから、知らねーよ」


 俺は、衛兵に連れられ、また牢へと戻るのだった。


 こうなったら、一旦力づくで逃げるのも一つの手かもしれない。


 こんな檻、やろうと思えばいつでも壊せる。魔道具によって魔力の制限を受けているが、あくまでもこの魔道具は単属性を縛る類のもの。俺なら、魔道具を力づくで壊すことができる。


 『黒霧の刃』の幹部およびクランリーダーのジルドが捕まりさえすれば、俺たちの無実は自動的に証明される。なら、無実が証明されてから戻るのも一つの選択肢だ。


 まあ、どうせ今晩はもう寝るだけ。


 やるとしても、明日だな。


 ◇


 レインが牢に戻された後は、ミリアが尋問に呼ばれた。


 リーシャとレインそれぞれにかなりの時間をかけていたため、ミリアは長時間を誰とも話さず暗い牢の中で過ごしていたことになる。


 一人の時間が長かったため、ミリアはこの間、自分の考えをまとめていた。


 そして、一つの結論を出した。


「さて、白状する気になったかな?」


 ミリアに意地悪な笑みを向けてくるグレイヴ。


 対するミリアは動じた様子もなく、笑顔で言い放った。


「はい。白状しますね」

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