第27話:お互い様
「……っ⁉︎」
信じられないとでも言いたげな表情。レイヴンは混乱しているようだった。
まあ、無理もない。使えないと思って捨てた新人冒険者にまさか自分たちが二人掛かりで手も足も出ないなんて、普通は予想できないよな。
「実力を隠していたということか⁉︎ ど、どうして⁉︎ いや、確かに水晶の色に変化はなかった。属性なしでこれだけ強いことの意味が分からない……!」
「いや、隠していたわけじゃない。だが、いちいち説明する必要もないだろう」
そう言って、俺はレイヴンに右手を向けた。
——と、その時。
「こりゃ予想外だったが……もう後には引けねえんだ‼︎」
反動から復帰したルーガスが声を荒らげながら、ミリアに剣を振り下ろした。
どうやら、厄介な俺を後回しにし、ミリアを先に始末するようプランを切り替えたようだ。
普通なら悪くない判断だが、今回ばかりは判断を誤ったな。
キン!
ルーガスが思い切り振り下ろした剣は、呆気なくミリアに弾き返されてしまった。
「な、何⁉︎ 俺の一撃を跳ね返しただと⁉︎」
「私を侮りすぎです!」
そう、ミリアは特別なのだ。
単属性しか使えない剣士相手に、元勇者のミリアが遅れをとるわけがない。
さて。
向こうはミリアとリーシャに任せておけば問題ない。
俺はレイヴンを無力化した上で捕らえるとしよう。殺してしまうという選択肢もあるが、そんなことをしても俺たちの気分が悪くなるだけ。何もメリットがない。
王都に持ち帰り、衛兵に突き出すだけでいい。
『
致命傷にならないよう、ギリギリ肩を掠めるイメージで。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンッッ‼︎
俺の右手から勢いよく放たれた白い光球は狙い通りの軌道でレイヴンの右肩をほんの少し巻き込みながら、背後の草木を蹴散らしたのだった。
よし、あとは手足を縛るだけ。ロープとかあったっけな……?
と思ったその時。
「レイヴン、撤退だ!」
ルーガスの声が聞こえたと同時に、地面からモクモクと白い煙が立ち込めた。
煙幕を発生させる魔道具か……!
どうやら、緊急時用に隠し持っていたようだ。
とはいえ、俺には『探知』がある。そう簡単に俺から逃げられは——
「……⁉︎」
目の前から、連続した大きめの魔力。
レイヴンが走りながらこちらに矢を放ったようだ。
俺だけならどれだけ放ってこようと問題ないが、ミリアとリーシャに当たると厄介だな。
ここで逃したとしても、レイヴンは手負いの状態。しばらく襲ってくることはないか。
仕方ない。一旦追跡は諦めるとしよう。
俺は飛んでくる矢をひたすら処理し、煙幕が晴れるのを待ったのだった。
一分ほどで煙は霧散し、視界がハッキリしてきた。
これで、ようやく落ち着けるなと思ったその時。
「レイン、ミリア……ごめん!」
煙が晴れるなり、リーシャが物凄い勢いで頭を下げてきた。
「え? どうしてリーシャが謝るんだ?」
「そうですよ。どうしたのですか?」
俺とミリアが困惑していると、リーシャは理由を話し始めた。
「だって、私のせいでみんなを巻き込んじゃった。レインが気付いてくれなかったら、みんな殺されてたかも……」
どうやら、リーシャは自分がパーティに加入したせいで俺たちを巻き込んでしまったと思っているらしい。どうしたものかな。
「……まあ、そうだな。リーシャがいなきゃ、俺たちがあいつらに襲われることはなかった」
「私、どうお詫びすればいいか……」
さっきまでの明るいリーシャとは打って変わって、ズンと暗くなってしまっている。
俺は言葉を続けた。
「でも、結果的に何の問題もなかった」
「それは、そうだけど……」
「俺たちは、最初からこの程度のトラブルがあることは承知の上でリーシャを迎え入れたんだ。別に、リーシャが気にすることじゃない。な? ミリア」
「えっ、私ですか⁉︎」
唐突なフリに驚くミリア。
「ま、まあそうですよね。冒険者のパーティにとってトラブルはお互い様みたいなところはありますし。これはちょっと予想外でしたけど」
「ということだ。そのうち俺とミリアもトラブルを持ち込むかもしれないし、その時はよろしくってことで」
俺たちの反応が意外だったのか、リーシャは口を開けて驚いているようだった。
そして、我に帰ったリーシャからはさっきまでのような暗い表情は消え去っていた。
「レイン……ミリア……ありがと。二人とも、大好き!」
そう言って、俺たちに駆け寄ってくるリーシャ。
ふう。
これでようやく落ち着けるな。
「逃げたレイヴンとルーガスについては後でどうにかするとして……一旦王都に帰ろうか」
俺はそう言って、帰路についたのだった。
◇
王都に戻ってきた頃には、夕焼けが差していた。
俺たちは、とりあえずギルドで依頼の報告をすることに。
「これでランクアップですね!」
「だな」
思わぬトラブルに巻き込まれてしまったが、今回の依頼はEランクへ昇級するために受けたもの。報告さえすればランクアップできるはずだ。
ついでに、帰り道で『黒霧の刃』の冒険者に襲われた件についても相談しておくとしよう。
「受付が空いているといいんだが……」
と、ギルドの扉を開けた瞬間。
「……っ⁉︎」
どういうわけか、冒険者ギルドの中は物々しい雰囲気になっていた。
王都を守る衛兵や宮廷直轄の騎士団が武装した状態で数十人待ち構えていたのだ。扉から入った俺たちに一斉に注目が集まっている。
しかも、いつもならこの時間は冒険者で賑わっているはずの建物内には、俺たちの他に冒険者は誰一人としていない。
「……なんだか怖いですね」
「な、何かあったのかしら……?」
ミリアとリーシャも俺と同じような反応。
受付へ向かおうと足を踏み出そうとしたその時だった。
「そこを動くな」
軍勢の中でも一際目立つ、赤髪の屈強な男が俺たちをギロッと睨みながら声を掛けてきた。
「俺は、ここ——王都管轄のギルドマスター、グレイヴだ」
ギルドマスター……冒険者ギルドの支部の責任者か。
そういえば、受付嬢さんが『レッド・ドラゴン』の買取金額が高すぎて、ギルドマスターしか決裁できないと言っていたな。
俺たちがギルドに戻る頃には準備が出来ているという話だったが……その件なのか?
だが、それにしてはこの異様な雰囲気は気になる。
「レイン・シャドウ。ミリア・シャドウ。リーシャ・グレイシア。悪いが、お前たちの身柄を拘束させてもらう」
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