第9話:首輪

「クーデターですか⁉︎」


「ああ。気になるなら、後でゆっくり話すよ」


 正直なところ、俺にとって王都の危機なんてのはどうでもいいことだ。


 冒険者となり、この世界から魔物を駆逐することが俺の目標。魔物を駆逐するためには最終的に魔王を倒さなければならない。そのために俺は強くならなきゃならない。


 無駄にして良い時間など一秒たりともないのだ。


 今世での俺の目標は、前世の記憶を思い出した今でも変わらない。


 人によっては、所詮はゲームの世界だろうなどと思うかもしれない。だが、生まれ変わった俺は実際にこの世界で十八年を過ごしてきたのだ。


 両親の愛情は本物だったし、俺が子供の頃から続けてきた努力も本物。あくまで前世は故郷であって、今世のこの世界も俺にとっては紛れもない現実なのだ。


 ただ、使えるものは遠慮なく使おうと思う。ミリアを見ている限り、この世界は俺が知るシナリオ通りに時が流れている。それなら、前世の知識を活かして先読みすれば……無駄のない立ち回りができる可能性が高い。


 ——さて、俺の代わりに戦ってくれる仲間も見つかったことだし、早速依頼を受けて冒険に行きたいところだが……まだ用意しなければならないものがある。


「ど、どうかしましたか……?」


 ミリアの姿をマジマジと見ていると、なぜかミリアは恥ずかしそうに縮こまった。


「いや……ミリア用の剣と、ついでに服も買っておかないとと思ってな」


 当然ながら剣士は剣がなければ魔物と戦えない。


 加えて、今のミリアの服装は奴隷商店で商品として並べられている時のまま。洗濯して綺麗にしたとはいってもボロボロだ。かなり見窄らしい。


「服もですか⁉︎ 私は服なんてどんなものでも構わないのですが……」


「いや、俺が気にするんだよ……。せっかく綺麗な見た目してるのに勿体ないだろ?」


「き、綺麗⁉︎ わ、私がですか⁉︎」


「え、うん」


 なぜか、カァッと顔が赤くなるミリア。


 ええ……? 美少女の自覚なかったのか……?


 ま、まあいいか。


「あと、これは外しとかなきゃな」


 俺は、奴隷商店でミリアを購入した時にもらった首輪の鍵をポケットから取り出した。


 この世界には、道具に魔法を刻み込んだ『魔道具』というものがある。奴隷に付けられている首輪も実は魔道具であり、主人の命令に従い、反抗すれば痛みを伴う仕掛けになっているらしい。


「は、外してくださるのですか⁉︎」


「うん。無理やり従わせるみたいなのって、嫌いなんだ」


 普通は購入した奴隷の首輪は生涯外さないものらしいが、俺は迷うことなく外したのだった。

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