第7話:幹部会議
◇
王都某所に聳え立つ『黒霧の刃』の本拠地。
周りの建物と比べても高く、豪華絢爛なこの建物の一室にクランの幹部たちが集まっていた。
丸テーブルを囲んで九脚の椅子が並んでいる。
『黒霧の刃』の頭であるクランマスター以外の十一名は既に席についていた。
なお、部屋のカーテンは締め切られ、外から中の様子を覗くことはできない。
「はあ……とんだ骨折り損だったぜ」
「ん、どうかしたのか? 今日は期待の若手が入ってきたんだろ?」
部屋に着くなり、ストレスをぶつけるように勢いよく椅子に腰掛けたレイヴンの呟きに、隣の席のルーガス・ブラッドが反応する。
ルーガスは、『黒霧の刃』ナンバーワンの剣士。レイヴンも決して小さくはないのだが、身長二メートル超ある大男のルーガスと並ぶと大人と子供のように見えてしまう。
「……その件だよ。はあ……とんだゴミを摑まされたぜ」
「ウェールス冒険者学院を首席で卒業の回復術師だっけ? 嘘つかれてたのか?」
「いや……そうじゃないが、学生の誕生日が遅くてな。今になって属性検査をしてみたら、『属性なし』だぜ? 『属性なし』なんて聞いたことねえよ。あんなもん採用できるわけねえ。おまけに、ゴネて金までせびってきやがった」
レイヴンが机をドンと叩くと、ルーガスはケラケラと笑う。
「へへ、そりゃ災難だったな。まあ事故みたいなもんだ。気にするな」
ルーガスはレイヴンの背中をポンと叩いた。
「ったく、採用担当外れると気楽で良いよな……」
『黒霧の刃』では、幹部の中で年齢が若い者が基本的に採用担当に就くことになっている。
ちなみに、ルーガスは前任の採用担当である。
「そういうな。頼り無さすぎて任せられねえ奴もいるんだからよ」
と、ルーガスは正面に見える銀髪の少女を見て言う。
丸テーブルの中心を挟んでレイヴンとルーガスの正面にちょこんと座る少女は、リーシャ・グレイシア。十八歳である。
小さな肢体に大きな胸。一見どこにでもいる美少女にしか見えないが、『黒霧の刃』の中でもトップクラスの実力を持つ魔法師である。
『黒霧の刃』でのクランメンバーの地位は、プラミッド構造になっている。クランマスターを頂点とし、各パーティのリーダーを束ねる部隊長が幹部。さらにその下に各パーティのパーティリーダーと続き、末端の構成員まで繋がる。
実力と人望を兼ね備えた人物でなければ、出世はできないのだ。
事実、『黒霧の刃』で幹部まで上り詰めるのは、名門冒険者学校で優秀な成績を残して直接クランに加入してキャリア詰んだ者ばかり。
リーシャは冒険者学校に通わず冒険者になり、移籍を繰り返して『黒霧の刃』に加入。そこから圧倒的な実力でトントン拍子に幹部まで上り詰めた。
しかしその性格がなかなかの曲者で、リーシャは若手であるにもかかわらず、採用担当をあえて任せられなかった。
「真面目すぎるんだっけ?」
「おう、それ。依頼されたことだけこなしゃいいのに、『根本原因を取り除かないと』とか言って、エリアボスをの討伐までついでにやったんだってよ。まったく、冒険者の矜持とやらを大事にするのは結構だが、余計な仕事を増やして何がしたいんだかな」
「まあ、規定の日数で終わらせればクランとしては文句は無いが……」
「つっても、アイツが採用担当になったら大人の事情がわからんアホばっかり集めるに決まってる。変な部下を使う俺たちの身にもなれってことだな」
地獄のような光景を想像したレイヴンは、はあとため息をついた。
「まあ……まだ若い。そのうち馴染むだろ」
「だといいんだがな。ところで、今日の話って何か聞いてるか?」
「いや? でも、珍しいよな。必ず全員集まれっていうのは。クランの今後を左右するデカい話ってことだが……」
これから始まる会議は、クラン内部でも極秘中の極秘。表向きには年に一度の予算会議ということになっている。予算の採決も同時に行いはするだろうが、あくまでもこちらがオマケ扱いなのは、ここに集まっている者の共通認識だった。
具体的な内容については、幹部たちもまだ知らされていないので、ソワソワとした雰囲気が漂っていた。
「おっと、マスターが来たな!」
クランマスターのジルド・ゼノフィンが部屋に入ってくるなり、幹部たちが一斉に立ち上がる。そして、恭しく頭を下げたのだった。
ジルドは『黒霧の刃』の創設者であり、零細クランを三十年でミスト王国最大のクランに育て上げたやり手の冒険者。
一見すると、白髪白髭のどこにでもいそうな初老の男だが、ふとした時に見せる鋭い眼光は、クランの幹部冒険者でも思わずギョッとさせられる威圧感がある。
「うむ、皆集まっておるな。よいよい、楽にするのじゃ」
ジルドは幹部全員が部屋に集まっているとことを確認すると、椅子に腰を下ろし、その後幹部たちも着席するよう指示を出した。
「それで、今日集まってもらったのはじゃな、重要な話があるからなのじゃ」
勿体ぶった言い方するジルド。
幹部たちの間に緊張が走る。
ジルドは咳払いをしてから、説明を再開した。
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