第5話:ゲーム知識
「ぜ、全然苦しくありません! し、信じられません……」
黒い斑点がなくなった両手を眺めて、動揺するミリア。
どうやら、病気が治った喜びよりも驚きが勝っているようだった。
やれやれ。事前に治すと予告はしていたのだが……まあ、普通は信じられるわけがないか。
「魔族が使う自傷魔法は、莫大な単属性魔力を変換して擬似的に全属性魔法を再現しているんだ。だから、全属性魔法による
「……?」
ミリアは理解しかねるという感じで口をポカーンと開けていた。
おっと、前提知識がない状況でする説明ではなかったか。
「と、ともかくありがとうございました!」
深々と俺に頭を下げるミリア。
「まさか、あの状態からまたこうして動けるようになるなんて……。もう諦めていましたから……」
「どういたしまして。まあ、今の俺になんとかできる範囲で良かったよ」
『神の癒やし』は今の俺でも使えるから良かったが、もっと厄介なものを抱えていればさすがにお手上げだったわけで。
「そういえば、自己紹介がまだでした! 私、ミリア・フレイルと言います。実は、以前は勇者パーティで——」
「ああ、説明は大丈夫だ。分かってる。勇者パーティで魔族と戦っている中、勇者ジークを庇った結果として『魔呪症』を発症してしまい、その後捨てられて盗賊たちに捕まり、奴隷商にたらい回しにされて今に至る——だな?」
「なっ……⁉︎ ど、どうして分かるのですか⁉︎」
辛い過去を自分で説明するのもしんどいだろうと思って遠慮したのだが、逆にどうして俺が詳しい事情を知るのか驚かれてしまった。
まあ、そりゃそうだ。
「信じてもらえるかどうか分からないが——実は、この世界は前世で俺がやっていたゲームにそっくりでな。ゲームのシナリオの中でミリアの件にも触れられていて……それで知ったんだ」
「げーむ……ですか? 前世……?」
キョトンするミリア。
どうやら、ゲームや前世という概念が分からないようだ。
しかし、説明するにもこの世界には似た概念がないので、どう説明すればいいのやら。
仕方ない。少し違うが、分かりやすさを重視しよう。
「まあ、リアルな夢を見た……って感じに思ってくれればいい」
「正夢ということでしょうか……? 不思議なこともあるのですね」
「まあな」
よし、これで問題ないだろう。
そろそろ本題に入りたい。
「ミリア、大事な話をしたい」
「な、なんでしょうか?」
俺は、一呼吸おいて話を始めた。
「俺の名前は、レイン・シャドウ。回復術師として冒険者になる予定だ。ミリアを買ったのは、冒険に連れて行く仲間が欲しかったからなんだ」
「なるほど……はい!」
見返りを要求するようなことはあまり好きではないが、背に腹は変えられない。
「だから、しばらくの間……俺のパーティに入って力を貸して欲しい。報酬は出すから。いいな?」
抵抗されたらどうしようとドキドキしていたのだが——
「えっ、そんなことでいいのですか⁉︎」
「え?」
「命を助けていただいたので、もっととんでもないことを要求されると思ったのです。お仕事まで与えてくださるなんて、レインはとてもお優しいのですね……!」
キラキラした瞳で俺を見つめてくるミリア。
「えっと……とんでもない要求って、例えばどんな?」
「娼館に売られるとか、一生無償奉仕しろとか……ですかね?」
「そんな要求するわけないじゃん!」
「だから、レインはお優しいのです!」
ええ……?
優しいのハードル低すぎない?
ミリアは、これまで酷い扱いを受けすぎて普通の感覚がズレているのかもしれないな。
「じゃ、じゃあ……まあ、力を貸してくれるってことでいいんだな?」
「もちろんです! 私、レインのこと大好きになりました! がんばります!」
言いながら、俺の胸に抱きついてくるミリア。
「お、おう……」
ちなみに好きっていうのは、仲間としてってことで良いんだよな?
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