第4話:全属性ヒーラー
◇
ようやく、全てを思い出した。
俺は、十八年前に日本で死に、この世界に転生したのだ。
仕事帰りに居眠り運転の大型トラックに撥ねられ、目が覚めた時には生まれ変わっていた。
転生した直後は前世の記憶があったものの、どういうわけかいつの間にか忘れてしまっていた。しかしミリアの名前を聞いた瞬間に全てを思い出したというわけだ。
と、それはともかく。
俺が一方的に名前を知っていたのは、ミリアは俺が前世でやり込んでいたゲームのヒロインの一人にそっくりだったからだ。
そのゲームの名前は——
スマホからパソコンまでクロスプラットフォームでプレイ可能な大作オープンワールドRPGだ。
そもそも、ゲームに関係するのはミリアだけじゃない。この世界自体が、『Sieg』に何から何までそっくりなのだ。歴史、街並み、文化、食べ物、自然法則に至るまで。
要するに、俺はゲームの世界に転生してしまい、今その事実に気づいたということである。
「ど、どうして……先のない……私なんかを……買ったのですか?」
一人では歩けないミリアを抱えて奴隷商店の外に出てきたところで、ミリアが尋ねてきた。
「俺なら、治せるからだ」
「無理ですよ……。自分の身体のことなので……わかりますけど……」
言った後、ミリアはコホコホと咳き込んだ。
「やってみるまで分からないだろ? まあ、すぐにわかる」
俺は他人から見られないように、建物と建物の間の空間にミリアを連れていく。
ところで、ゲームの『Sieg』では勇者ジークが複数のヒロインたちと冒険し、魔王を倒すことを目的に冒険するというストーリーなのだが……ミリアは不憫なキャラクターだったりする。
物語序盤の魔族との戦いで勇者ジークを庇って『魔呪症』を発症してしまい、戦力になれなくなったミリアはパーティからの脱退を申し出た。
問題はここからだ。
実はジークたちはミリアの貢献を甘く見ており、用済みのミリアに手厳しかった。鬼畜にも装備を回収した上で無一文のままパーティから追い出してしまったのだ。その後、ミリアは盗賊に捕まってしまい、奴隷商に売られてしまった。
別れを経験した後のジークたちは魔物との戦いで苦労することとなり、ミリアの貢献を知ることとなる。自分たちがしてしまった仕打ちを思い出し、人間的に成長する——
感動的……なわけがないクソシナリオである。
当然ユーザーの不評を買い、開発元とシナリオライターに苦情が殺到することとなった。このせいもあり、『Sieg』は大作と銘打って配信された割に失敗したタイトルだったりする。
俺はシナリオを重視しないタイプだったのでそこそこ楽しめていたが、我慢ならない人の感情も理解できる。無難に作ればいればいいだろうに、どうしてあんなシナリオにしたんだろうな。
さて。
そんなミリアが罹った『魔呪症』だが、実はその後、解決策があったことが判明する。
『
全属性魔法を扱える回復術師のみが使用できる回復魔法である。
レベルなどの成長度合いにかかわらず、火・水・地・風・聖・闇の六属性を全て扱える状態の回復術師なら、誰でも発動できる。
しかし、もしこの秘密を他人が聞けば、属性がない俺では『神の癒やし』を使えるわけがないと思われてしまうかもしれない。
だが、それは違う。
なぜなら——俺は、既に全属性を扱えるからだ。
なら、なぜ教会で属性を示す黒い水晶が何色も示さなかったのか?
簡単な話だ。
赤色・青色・茶色・緑色・白色・紫色——
複数の色が混ざると、目に届く光の波長の種類と量が減ることで、黒く見えてしまう。
黒色の水晶が黒く変化した場合、一見何も変化がないように見える。そのせいで俺は属性が無いのだと誤解されてしまったということである。
実際、その事実に気がついた今ならどの属性の回復魔法でも扱うことができる感覚がある。
条件が整えば、話は早い。
「さて、行くぞ」
『神の癒やし』。
六色の眩い光が発生し、まとまっていく。そして、真っ白の光がミリアを包んだのだった。
十数秒が経ち、白い光が自然に晴れてくる。
俺の狙い通り、ミリアの身体中に現れていた黒い斑点は綺麗になくなっていた。
「さて、調子はどうだ?」
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