才能がほしい

「おっ、アクセス数がまた伸びた」




 パソコンの画面を見て、紅一は嬉しそうに微笑む。


 画面に映っているのは、ネットに投稿した自分の小説を読んでくれた人の数。


 読んでくれた人の数は千人。お気に入りになったのは二百人。そこそこ多い。


 何年も頑張って書いた小説が評価されるのは、紅一にとって嬉しいことだった。


 けれど、




「……書籍化はしないんだよな」




 紅一の小説は、読者にはそこそこ人気。


 だが……他のネット小説作家と比べると、下の下だった。


 他の作家は十万人…百万人も読んでくれる作品を作る。




 もちろん紅一の作品を評価してくれる者はいる。


 だけど……書籍化させたい…コミック化させた……アニメ化させたいと思う気持ちが紅一にはあった。


 もちろん夢のまた夢だということは彼も理解している。


 だけど…諦めきれない気持ちもあった。




「…才能があればな」




 紅一は本気で小説作家になろうと、色んな本を買って勉強しまくった。


 寝る時間も削って、仕事の休憩時間に小説を考えて、遊びに行くのをやめて小説を書いた。




 書いて、書いて、書きまくった。




 しかし……書籍化するほど凄い小説は書けなかった。




「そもそも文章表現が苦手なんだよな……俺」




 紅一は想像力には自信があったが、それを文章にして読者に伝えるというのが苦手だった。


 作家としての才能がなかったのだ。




 才能なんて関係ない……という言葉はあるが紅一はそれは違うと思っている。




 才能は必要だ。夢を叶えるのには特に。


 もちろん努力はしなければならない。


 だが努力だけで、なんでもうまくいくわけではない。


 


 成功者は諦めず、努力をしてきただろう。


 だがその成功者にほんの微かな才能もなかったのか?本当に可能性がなかったのかと言えるか?




 紅一はこう思う。




 才能は……必要だ。




 人には得意不得意がある。


 少しでも得意ことがあれば大きな成功に繋がるだろう。


 だが完全に才能がなければ、うまくいかない。




「俺の努力不足なのかな……」




 紅一は本気で作家になるために努力した。


 努力して、努力して、努力して……そしての結果、




 心が壊れた。




 自分の小説の評価がそこまで高くならないことに苦しみ、病んだ。


 しばらくの間、小説が書けなかった。




「ハァ……才能がほしい」   

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