8-6 二重構造
その日の午後、昼食をとってから
「こんちはー……」
固い木戸を梢賢が遠慮がちに開けると、中には八雲が待ち構えていた。
「む、来たか」
「あのう、康乃様に言われて来たンスけどー……」
「その前に礼を言わせてくれ。
寡黙な大男の八雲が頭を下げる様は、ある意味異様な圧がある。けれど梢賢は特に怯んだりもせずに少し笑った。
「いやあ、元はオレが蒔いた種ですから。その割に墨砥のおっちゃんも瑠深も家から出てきまへんけど」
「まあ、しばらくは仕方なかろう」
墨砥の生真面目な性格も、瑠深の純粋ゆえの意固地さも知り尽くしている八雲は当然のように頷いていた。
それで梢賢も時間が解決してくれるのを待つべきなのだと悟る。
「お邪魔しまーす」
「こんにちは」
続いて永と鈴心も入って来た。蕾生は初めて入るので物珍しそうにキョロキョロと中を見回している。
「む、
「すみません、大勢で押しかけて」
皓矢も内心は蕾生と変わらず、心なしか表情が浮ついている。しかし八雲は特に気にせず一人で何かを納得しながら言った。
「いや、ちょうどいい。康乃様からの頼まれ物について助言して欲しかった」
「と言いますと?」
皓矢が首を傾げると、八雲は永の方を向いて尋ねる。
「
「ああ、はい。預かってます」
永が硬鞭を渡すと、八雲はそれを受け取って片手で少し上下させてから皓矢に聞いた。
「ふむ。……これをどう見る?」
「少し伺いましたが、その硬鞭には
「そうだ。何か感じるか?」
「……微かには。鵺の妖気の奥の奥、そこに少し光が見えます。ただ、それが慧心弓の神気なのかは僕にはわかりかねます」
二人の話を注意深く聞いていた永が口を挟んで尋ねる。
「わかんないもんなの?」
「
皓矢の返答に、八雲も顎に手を置いて考えるように呟いた。
「ふむ。すると伝承レベルのものを取り出して新たな弓に込めても、慧心弓にはならんかもしれんな」
「そうですね……。それ以前にこんな微かな気配を取り出せるかが難問でしょう」
勝手に大人だけで進んでいく話に、とうとう蕾生が根をあげた。
「なんか全然話が見えねえんだけど」
「ああ、ごめんごめん。つい先走ってしまった。ええと八雲さんから説明して頂いても?」
皓矢がそう促すと、八雲は表情を崩さずに淡々と述べ始める。
「む。わかった。この犀髪の結──原材料は
「はい、確かに聞きました」
永が頷くと八雲は手中の硬鞭を指でトントンと軽く叩きながら更に説明した。
「最初は犀芯の輪を鵺の
「それを、指輪型に加工し直して
「その通り」
鈴心の付け足しに八雲が頷いた後、蕾生が聞いた。
「けど、祭の日に雨辺がはめてたのはレプリカだったんだろ」
「そうだ。あれには
珪が異空間に消えた後、菫がはめていた犀芯の輪が無くなっていたことを永は思い出した。
「ではもっと前からその硬鞭が「犀髪の結」であり、「犀芯の輪」でもあったということですね」
「そうだ」
八雲は相変わらずの無表情で頷いた。
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