2-10 蔵の中
残された
「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした。すみませんねえ、母も父もバタバタと忙しくて」
「いえ、そんなことは」
恐縮してばかりの永の肩を乱暴に叩いて
「ええやん。父ちゃんも母ちゃんもいない方がのびのびやれるわあ」
だがそんな弟を姉が視線で刺す。
「……」
「ピッ!」
それで梢賢は黙ってしまったが、
「
「そうね……ちょっと村興し?みたいな動きがあって。上の人達は毎日のように集まってるわ」
「村興しですか?」
意外な答えに鈴心が目を丸くしていると、永も驚きながら口を挟む。
「隠れて住んでる村なんですよね?そんなことして大丈夫なんですか?」
「どうなのかな……?ただ、もうそんな古いこと考えなくてもいいんじゃないか、みたいな動きがね……私もよくわからないんだけど」
優杞は明らかにはぐらかそうとしていた。そんな姉の様子を無視して梢賢は少し憎たらしげに付け足す。
「里の長老どもが額突き合わせて悪巧みしとるんや。俺らみたいな若い世代はそっちのけでな」
「お前は村興しに反対なのか?」
「せやなあ。けんど、里に限界が来てるのは確かや」
「限界……」
永は何かを考えながらその言葉を反芻していた。
「まあ、ええやん!俺らの重要事項は
「うん……」
「まあ、こちらの事情は私達がとやかく言えることではありませんね」
鈴心が割り切って言うと、蕾生は早々に立ち上がった。
「だな。よし、行こうぜ」
「おっ、ライオンくん、威勢がええな」
「まあな。俺は二人に比べて知識が全然ないからな。早くいろいろ知りたい」
「いいねえ!勤勉な若者は眩しいっ」
上機嫌になって立ち上がった梢賢に、優杞は古い鍵を手渡した。
「はい、梢賢。蔵の鍵」
「サンキュー。じゃあ、行くで!」
元気良く先導する梢賢に、蕾生と鈴心も続く。永は少し遅れてまだ何かを考えながらついて行った。
母屋を出ると梢賢は裏口に周る。日陰の多い場所に大きな蔵が建っていた。
「立派なものですね」
鈴心が関心して言うが、梢賢は少し悔しそうにしていた。
「まあなあ。これで小判でも入っとったらよかったのに、中が紙切ればっかりっちゅー……」
愚痴をこぼしながら梢賢は蔵の扉を開ける。重い金属音とともに入口が開かれた。その中は閑散としていた。
「んん?」
「なんだ。蔵の見かけよりも入ってねえな」
蕾生の感想通り、蔵の中には棚が置いてあるが、そこには何も置かれていなかった。床に数枚の紙切れが散らばっているだけだ。
「……」
鈴心は即座に顔を強張らせ、蔵の入口辺りを注視している。
「ちょっと失礼」
異変を感じた永は梢賢に続いて蔵の中に入る。棚をよく見て、埃が四角い跡を作っているのを指差した。
「この辺、何かが置いてあったようだけど──」
「えらいこっちゃ……」
梢賢の顔は真っ青だった。
蕾生もそれでようやく異変を感じとる。
「どうした?」
「うちの文献がほとんど無くなっとる!」
その言葉に鈴心は驚愕し、永は深刻な顔で空になった棚を見つめていた。
「ええ?」
蕾生が訳もわからず声を上げると、梢賢は慌てて三人に言い含める。
「ちょ、ちょっと待っててな。君らはここを動かんといて!姉ちゃーん!ナンちゃーん!!」
言い終わらない内に梢賢は母屋に走って行った。
残された蕾生は永に聞いた。
「どういうことだ、永?」
「……蔵にあったはずの文献が無くなってるってことだろうね」
「梢賢の両親が隠したんでしょうか?」
当初永達に否定的だったのを鑑みて鈴心が言うと、永は首を振った。
「いや……蔵を解放するって言ってくれてたから、それは考えにくい」
「じゃあ、盗まれたとかか?」
「誰が?何のために?」
物が無くなれば盗られたと蕾生が思ったのは当然だが、蔵にあったものは他人にとっては価値がないに等しい物だ。永の疑問に蕾生も続ける言葉が出なかった。
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