第8話

瑠美も善明も、そして良子も思案はするが、三人共にまとまるはずはなく。たた良子は、一雄の小説が焼かれなくてホッとしている。そこで

「やっぱり私が、最後まで読んで、感想をお父さんとお母さんに報告するわ」

けれど、瑠美が

「あんたは駄目」

「何故よ。今までの事、全て言ったんだからいいでしょ」

瑠美が

「父さん、読んでくれる」

「うん、いいよ」

と善明が言った時の、一瞬のスキをついて良子は、瑠美が手に持っていた一雄の本を取り上げ

「やっぱり、私が読むから。私でないと駄目なの。母さん、いいでしょ。ね」

と、良子に言われると瑠美は

「しようがないわねぇ。じゃあ、結末は絶対に言うのよ。お父さんとお母さんに」

「うん」

と、良子は自分の部屋に入ると、小太郎が尻尾を振って迎えてくれた。我が家の泥棒事件のあと、小太郎は室内犬になったのだ。その小太郎の頭を撫でながら、良子はベッドに座って、一雄の本のページをめくった。

良子が、しおりを取ってそのページを読み出すと、次郎と啓子が結ばれるのではなく、啓子は幼なじみと。すると、良子は

(えっ、守と私が結ばれるの?嫌だぁ。何とか阻止しなきゃ)

良子は、一雄の本をベッドの上に置いて

「まさか、私と守が結ばれるなんて。そんな事ないわよね」

と、小太郎に言うが、小太郎は尻尾を盛んに振っているだけ。


それから数日後の土曜日。

誘拐未遂があったために、部活を早退することになったことを知らない、剣道部の女子の先輩たちは、面白いはずはない。良子が団体戦の大将に選ばれたことに対して。

その日の部活の終わりに、一つ先輩の元子に

「ちょっと来な」

と、体育館の裏に呼び出された良子は防具の面を取っている最中だったが、その手を止めて、元子らの後ろを付いていった。

その不穏な光景を認めた守は、すぐ勘付いて、秘かに後ろを付いていくと、元子らは良子を取り囲んで

「おまえ、田辺先生に依怙贔屓され過ぎなんだよ」

「生意気なんだよ」

と、部活の先輩女子たちに。

そこで守が

「何してるんや。おまえら、ひとりひとりでは、良子に練習で勝てないくせに。恥ずかしくないんか、先輩として、竹刀を取って堂々と、良子に勝ってみろや。それが武道ってもんやろ」

と、守が言うと、その連中は、顔を見合せ、すごすごと帰っていった。

良子は、声ですぐに守だと分かっていた。

(少しは、見直したわ)

と、守の方に振り向くと守は、

(ここで一言言わないと)

「幼なじみやないか」

とだけ言って、帰っていった。良子は、幼なじみの守が急に大人に見えて

(えっ、カッコいい)

と。守がこれ見よがしに勝ち誇って言ってきたのなら別だが、そのさりげない態度に

(しつこくなくて、自慢しないのがいいわ)


それから、良子の守への見る目が違っていった。日々の授業に部活。良子はもう一雄の小説は、カバンの奥に入れたままだ。そんな良子の気持ちが、守に分かっているのか、いないのか。







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