第7話
良子と瑠美が、そんなやり取りをしているあいだに 、父親の善明が帰宅して、開口一番
「良子、うちに泥棒が入るなんて、何でわかったんだ」
「そんな事、言ってる場合じゃないでしょ。早く対策をたてないと」
「おっと、そうだったな」
小太郎の鎖を外してあるのを見て
「今日は、全ての部屋の灯りは点けたままにしておくんだ。そして戸締まりは厳重にして。そして音楽を、近所迷惑にならない程度に鳴らして、うちの者はみんな起きてるように思わせる。そうしていると泥棒は、絶対に入らない」
瑠美が
「お父さん、近所には、どうします?」
「近所のひとに言ったって、取り合ってもらえないだろう。うちの娘は予知能力がありますと言っても、信じてもらえないと思うし」
「それもそうねぇ」
善明と瑠美は、小太郎を撫でている良子を見て
「とても予知能力があるようには思えんし、俺?おまえ?どっちに似たんだ」
と、善明は自分と瑠美を指差しては見たものの、瑠美が
「どちらも、そんな能力はないわよ」
「じゃあ、良子は俺とおまえの子供ではないのか」
「何を言ってるのよ。良子は、正真正銘、私がお腹を痛めて生んだ子供よ。そして、あなたの子供でもあるのよ」
「これは、失敬」
と、善明は頭を掻いた。
夜中になって、泥棒は、良子の家の、全ての灯りが点いたままなので、隣りの家へ忍び込んで、家の者に気付いかれ
「泥棒」
「泥棒」
と言う大きな声が、近所で聞こえ、良子も善明も瑠美も、台所で寝れずにいたが、
事なきを得、すぐに110番して、泥棒は駆け付けた警察官に逮捕された。
明くる日は、善明も瑠美も、そして良子も、眠い目をこすって、仕事へと学校へと。
その日の夜、一家三人が揃ったところで、瑠美が良子に
「あんた、お父さんと話してんだけど、何故、誘拐に交通事故に、そして泥棒にと、わかったの。私もお父さんも、そんな力なんてないもの」
瑠美の横で、善明も頷いている。
「当たり前でしょ。私に予知能力がある訳ないじゃない」
「それじゃあ、何故?」
「それはね、これよ」
と、良子はテーブルの上に、一雄の小説を置いた。
「この本が、どうかしたの」
と、瑠美がその本を手に取っても、何の変哲もないただの小説である。
瑠美と善明は、良子に答えを求めるような顔をしていて
「・・・?」
「この小説の中身が、私の行動と、偶然なんだけど、一緒なの」
と言っても、瑠美と善明には理解出来ていない。
「どういう事?」
良子は、掻い摘まんで一雄との経緯を、瑠美と善明に話した。
「へぇー」
と、二人共に感心している。
「それじゃあ、これから先はどうなるの」
との瑠美の問いに
「それが怖くて。読めなくて、だからいつも一雄さんに相談してるの」
善明が
「一雄さんって、おまえ」
瑠美が
「良子、まさか。そんな年上のひとを、好きになったんじゃないでしょうね。ラインまで知ってるって」
「あっ、二人共、勘違いしてる。一雄さんって、この本の作者よ」
「作家にしても、何であんたがその人のラインまで知ってるのよ」
善明も、横で頷いている。
「だって、あまりにも私の行動と一致するから、本人に
直接聞いたのよ」
「まさか、その人を好きになったんじゃないでしょうね」
との、瑠美の問いに、良子は黙ってはいるが、鼻がひくひくと動いている。それを見た瑠美は
「やっぱり」
すると善明が
「母さん、何でわかったんだ」
「この子はねえ、何か、隠し事があったり、嘘付いたりすると、鼻がひくひくと動くのよ。ね」
瑠美の問いに、何一つ言い返せない良子が。
「駄目よ。そんな年上のひとに惚れても。良子が不幸になるだけだわ」
「何故よ」
「当たり前でしょ。さっき、あんた自身が一雄さんの事を、売れない小説家って言ったじゃない。それに、あんたと年の開きが30歳くらいあるみたいだし、絶対に奥さんがいるに決まってるんだから」
善明も横で、瑠美の言葉に頷いている。良子は、一雄の小説を頭の上に持って見せ
「この小説で、二人が結ばれてたらどうするのよ。誘拐に交通事故に、そして泥棒にって、全てこの本に書かれてるのよ。小説の中にこの先、二人が結ばれると書いてあったとしたら、逆らえないのよ」
善明は
「えー」
と。しかし、瑠美は
「それじゃあ、その本を焼いてしまえばいいんだわ」
と、良子が頭の上に持っていた一雄の小説を、パッと取り上げた。
それを見た、善明も良子も呆然と。我に返った良子が
「お母さん、返して」
「嫌よ。この忌まわしい小説は、焼いてしまうのが一番よ」
善明は、やっぱり横で頷いている。
「待って母さん。その小説のお陰で、誘拐も交通事故も、そして泥棒までも防ぐことができたのよ」
「あっ、そうか。じゃあ、燃やすのは止めとくわ」
善明は、またしても頷いている。瑠美が
「この小説は、最後はハッピーエンドになるって、一雄っていう作家が、良子に言ったんだよね」
「うん」
「あんた、最後まで読んだの」
「まだ」
瑠美は、改めて良子と善明の前のテーブルの上に一雄の小説を置いて
「・・・」
三人は、考え込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます