第4話
昼休みに、良子と南と理恵子が集まると、理恵子が
「良子。あんたバカじゃないの。何でお母さんに起こしてもらわないのよ」
「違うわよ、理恵子。良子は何か、私たちに隠してるわよ、絶対」
「そんな事、ないって」
「いや、絶対に隠してる。良子、私たち親友だったわよね」
理恵子が
「わっ、良子。好きな人、できたんだ」
良子は、思わず胸に手を当てて、ドキッと。良子の頭の中には、一雄の顔が。
「おまえ、ほんとの事を言いな」
と、南が急に良子の首を締めて
「おまえが嘘を言う時、鼻が
ひくひくと動くんだからね」
良子は、自分の鼻を両手で隠しながら
「そんなんじゃないって」
ちょうどその時、授業開始のチャイムが鳴って、3人はそれぞれ自分の席へ。良子は
(あー、助かった。けど、流石、南はするどい)
学校の授業を終え、南と理恵子の言い掛かりを、クラブに行くからと交わして。そしてクラブも終えて、自転車を思い切りこいで、帰宅し、食事も入浴も心ここにあらずで、良子は自分のベッドに座り
(あー、今日は何だか、中身の濃い一日だったわ)
と。
「単なる偶然なんだから」
と言った、一雄の言葉を信用して、小説のページを恐る恐る開くと、そこには啓子が誘拐されるくだりが。
「えっ、嘘。ほんとうに怖い」
そこで良子は、全く使わなくなっていた子供の頃に、ランドセルに着けていた防犯ブザーを机の引き出しから出して試しに鳴らしてみると、ビーッと、耳に痛いくらい響いた。
「よし、小学生の時のが、まさか今頃、役に立つとは」
と、独り言を言って、制服の胸ポケットにしまって、明くる日、学校へ登校した。
良子は、当たり前のことだが、部活には全く身が入らず、心ここに非ずで、二週間余り使い、古くなった竹刀を交換のため、自転車の前かごに突っ込んで独りで、用心して帰っていると、突然、自動車が良子の道をふさいだ。良子が急ブレーキを掛け、もう少しで自動車にぶつかりそうになったところで、車から二人の男が降りてきて、良子を車に引きずり込もうとしたので、良子は剣道部のいつもの気合いの大きな声を腹の底からしぼり出して、
「キャー」
と言いながら、ポケットから防犯ブザーを出して鳴らすと共に、前かごの竹刀を手に持って、男二人の頭と言わす腕と言わす
「メン」
「メン」
「メン」
と打って打って、打ちまくっていると、流石に男二人は車に戻って、逃げて行った。
良子は冷静に、キッチリ、犯人の車のナンバープレートを覚えていて、すぐ近くの交番に自転車で駆け込んだ。理由を聞いた警察官は、直ちにに関係箇所に連絡しながらも
「あんた、強いねぇ」
と。
「一雄さんの本のお陰で、用意しといたから助かったんだわ」
そして良子は、早速一雄にラインを。
「一雄さん、助かったんです」
ラインからも、良子が一雄に訴えているのが、伝わってくるような文面だ。一雄が
「何が」
と、良子に言ってはいるが、意味が全く理解出来ていない。
「何がって、一雄さんの小説の中で、啓子が誘拐される所です」
「まさか、良子ちゃんに誘拐未遂があったとか?」
「そうなんです」
「・・・」
部屋の机の上のデジタル時計は、21時をすでに廻っている。
「私、あらかじめ一雄さんの小説のそのページを読んで、防犯ブザーを用意してたから、誘拐されるところを防げたんです」
「えー」
「剣道の竹刀も、偶然持ってたので、犯人を撃退出来たんだと思います」
「それは良かった。けど、あんまり夜の遅いクラブの帰宅は、気を付けないといけないよ。特に女の子の夜道は」
「はい」
一雄の言葉には、素直になれる良子だ。
「まっ、とにかく僕の小説が少しでも、良子ちゃんの役に立てたことは、とても素晴らしいことやけど」
「はい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます