第3話

一雄の本を読んですぐ、良子は一雄に会うと心に決めた。明くる日、学校の準備をしてから一応、天気を確認するため、部屋のカーテンを開けると、外は快晴だ。母親に

「おはよう」

と言いながら、いつものように台所のテーブルの上にあるトーストを黙って取って

「行ってきます」

と。廊下を小走りで走りながらトーストを口に加え、玄関で尻尾を振っている小太郎に敬礼をして、自転車で家を飛び出し、一雄と会うために公園へ行って、ベンチで待つことに。勿論、良子のカバンの中には、教科書と一緒に一雄の小説が。

公園の中の周回道路は、散歩している人や、ジョギングしている人が。その人たちは色とりどりのジャージやTシャツを着ていて、公園の紅葉に鮮やかに花を添えている。

そんな中、一雄が歩いてきた。良子は、その姿を認めると、すぐカバンの中から、一雄の小説を取り出して。

一方、一雄は

「英さーん」

と、良子が手を振りながら走ってくるのにビックリ。その良子の手には勿論、一雄の小説が。

「えっ」

「えっ、今日は水曜日だよ」

良子が、一雄の目の前に立って、息を切らしてハアハアと。

「さぼっちゃいました」

「いいの」

「そんな事より、英さんの、小説買いました」

と、一雄の目の前に小説を出して

「教えて欲しいんです。本の続きを読みたいんですけど、出会いから私と一雄さんと、小説の中身が全く同じなんで、怖くて」

「えっ、そうなんだ」

二人のすぐ横を、ジョガーが駆け抜けてゆく。

「だって、二人の出会いは公園で、しかも主人公が犬に噛まれたところまで同じなんで。怖くなってしまって、次のページがめくれなかったんです。そして、一雄さんは凄いと。この先も、私のことを知ってるんかなと、思ってしまって」

良子は、たて続けにしゃべった。すると一雄が

「あれは、あくまでも小説だよ。君と出会ったのは、単なる偶然なんだから。気にする事はないよ。それより、君が僕の小説を買ったばかりに、要らぬ心配を掛けさせてしまったね」

「そんな事、いいんです」

「よくはないよ。君に、学校へ行くのをさぼらせてしまった原因を、作ってしまったのは、僕なんだから」

「そんな事は、ありません」

「次からは、さぼらないでね」

良子は、しばらくその場で考えて

「じゃあ、ライン交換しても、いいんですか」

「いいよ。けど僕、ラインの使い方、よく分かってないから」

「私に任せてください」

と、良子が一雄のスマホを持って、しばらく操作し

「できました」

「じゃあ、今からでも遅くないから、学校に行ってね。でないと、僕が辛くなるから」

「はい」

「さよなら」

と言って、一雄と公園で別れた良子は、

(やったぁ、一雄さんのラインをゲットしちゃったぁ)

と思いながらチャリをこいで、そのまま学校へ行った。

時刻は10時半を廻っている。

良子は、教室に入ると大きな声で、堂々と

「おはようございます。朝寝坊してしまいました」

すると、クラスの同級生は、大爆笑だ。けれど、その時間の授業を担当していた数学の教師の広瀬と、小学校からの良子の幼馴染みの末次は、白い目で、良子を見ている。特に教師の広瀬は

(大事な所を教えている時に。よりによって。昔やったら、バケツを持って廊下に立たせる所や)

一方、末次は

(あいつはこの頃、俺の事を無視や。いったい何を考えとるんや)







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